About Toyo University Alumni Report 株式会社 五島軒代表取締役社長 若山豪
Special Interview OB・OG の今
Alumni Report
株式会社 五島軒 代表取締役社長
若山 豪 わかやま ごう
Profile
2007年、文学部哲学科卒業。北海道函館市にある明治12年創業の老舗レストラン「五島軒」を営む家系に生まれ、大学卒業後5年間の社会人経験を積んだ後、2011年に五島軒へ入社。コロナ禍での経営効率化や人材再配置への取り組みが認められ、2021年8月に5代目代表取締役社長として就任。
東洋大学が実施している「Team TOYO募金」にも参画、レトルトカレー・洋菓子セットなどを提供している。
函館の歴史を刻む老舗企業を継承すること。
若山豪さんは、函館の老舗レストラン「五島軒」の5代目代表取締役社長。五島軒はレストランの運営、レトルトカレーやパンなどの食品製造を中心に今年で創業145年の長い歴史を紡いできました。初代料理長である五島英吉は、箱館戦争で土方歳三と共に戦った記録も残っているそうです。港町として北海道最大の隆盛を誇った函館が観光都市へと変化していく歴史を傍で刻み、明治~令和の5つの時代を経た老舗の存在意義や使命を、新たな価値に捉え直し、現代に伝えています。
老舗企業の家系に生まれ、歩んできた道のり。
周囲の人から言われませんでしたが、子どもながらに将来は跡を継ぐことを考えていました。ただ、思春期を迎え、素直に経済学や経営学の道に進むことに反発心があったんです。小説を書いて、物事を考えるのが好きだったことから、哲学を学ぼうと文学部哲学科へ進学しました。哲学科には個性的な先生が揃っていて、それぞれの専門で語られる思想を大人になっても貫き通している姿が格好いいなと。型にはまった100点満点の回答は好きではなかったので、哲学のように自分の考えを突き詰めていく学びが楽しかったですね。大学生活を送るうちに、いつかは実家を継ごうと心の整理もつきました。ただ、その前に一度は上場企業で働いてみたいと思い、物流会社へ就職しました。
港湾でのコンテナの整理や通関の管理を5 年ほど務めた頃、3 代目である祖父が亡くなりました。亡くなる直前に会いに行った際、すでに寝たきりの状態でしたが、私が声をかけると、ふと目を開きました。「もう一回家に帰ろうね。会社は大丈夫だからね」と伝えると、私の顔を見てガッツポーズをしたんです。80年代の華やかなりし頃の函館の経済界で「函館の番頭さん」と呼ばれ、憧れでもあった祖父のそのような姿を見て、実家を継ぐ決心がつき、翌年、五島軒へ入社しました。
レトルトカレーなどを製造する食品工場や企画部を経て、専務の頃に世の中はコロナ禍に。レストラン事業は大変大きなダメージを受けました。ゴールデンウィークの函館は毎年人が溢れるのですが、誰も歩いていない金森赤レンガ倉庫街を見て、こんな景色は一生見られないだろうと感じたのを覚えています。レストランは営業できなかったので、地元のスーパーにご協力いただき、お弁当を卸させてもらい、それを地域の方々が買い支えてくれるなど、人々の温かみと有り難さを社員全員が感じる経験となりました。2021年に社長に就任し、明日の状況もわからない日々でしたが、今思い返せば、何かに挑み続けなければいけない時期に継承できたことは、経営者としてとても鍛えられたと思います。
この地で紡いできた歴史を伝え、地域を興す存在に。
創業から145年もの歴史があるので、さまざまな変遷がありました。函館の人口が多い時代は、カフェや洋菓子店、わずか300円でトンカツが食べられるような地域に根ざしたお店なども展開していました。現在は、観光都市にある老舗レストランとして、気軽にお越しいただけるお店からは少し遠い存在となったことを寂しくも思っています。かつてと関わり方は変わっても、今もなお市民の皆さまの心に寄り添える企業でありたいと常に考えています。
これまで私たちは、函館の方々に支えられて事業を続けてきました。バブル期以降は人口減少が続き、現在は危機的な状況といえます。自社だけが生き残ればいいという考え方では、地方都市での事業継続は難しいことでしょう。「どうやって街ぐるみで生き残っていくか」という視点を有した経営者が不可欠と痛感しています。その中で、五島軒として函館で紡いできた歴史を伝えていくことが大切であると私は考えています。伝統は守っていても、伝わらなければ意味はありません。実は五島軒には、土方歳三やベーブルースといった歴史上の人物との逸話も残っています。そうした史実を社内の引き出しに閉まっておくのではなく、現代に合った「ストーリー」として伝えていきたいという想いから、北海道や函館が舞台のアニメとのコラボ商品の展開や企画展に携わりました。決して中途半端にならないよう、企画メンバー全員が原作を熟読し、忠実に再現するよう細部までこだわり抜きました。そうした結果、話題を集め、非常に多くのファンの方に喜んでいただくことができました。
このような物語(ストーリー)や言葉の強さは、大学で学んだものだと実感しています。「情報が溢れる社会の中で、何が真実で何が嘘なのか。きちんと自分で見極めるために哲学を学んでください」という学科の先生からのお言葉を今もすごく大切に感じています。現代は、何となく誰かが言った言葉に乗っておけばどうにかなる… という考え方が多くなっているように思います。しかし、自分でしっかり考えて、自分の強みを活かし、自分の力で乗り越える。そんな学びを大学時代にたくさん経験してほしいですね。
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