About Toyo University Professor’s Scoop 対談 髙山直樹教授×川澄厚志准教授
令和6年能登半島地震復興支援
Professor’s Scoop
能登半島の復興支援に本学で中心的な役割を果たし、自らも現地で活動に取り組む本学の髙山教授・社会貢献センター長と
本学出身の金沢大学川澄准教授にボランティア活動と災害復興について対談いただきました。
福祉社会デザイン学部
社会福祉学科 教授
髙山 直樹
明治学院大学大学院社会学研究科社会福祉学専攻博士前期課程修了。2002年、本学社会学部教授に着任。2023年より現職。社会福祉学を専門とし、2022年より東洋大学社会貢献センター長も務める。
金沢大学
融合研究域 融合科学系准教授
川澄 厚志
東洋大学国際地域学部卒業、国際地域学研究科博士後期課程修了。2009年より本学国際地域学部国際観光学科にて助教を務め、2021年より現職。都市計画・建築計画の分野でスラム地域、農村地域などが研究対象。
震災復興最中の豪雨災害…類を見ない災害を前にして。
髙山 1月の震災後から何回も能登半島を訪れましたが、復興以前の問題としてインフラ整備が遅すぎる印象があります。住民の方と話しても、どこか諦めざるを得ないような雰囲気が感じられました。あの元旦の日から時間が止まってしまったような…。
川澄 今回は過去の災害を見ても類を見ない状況といえます。復興に向け懸命に動いている中で、9月に大規模な豪雨被害にもう一度直面する…。そんなことが起きるのかと今でも信じられない気持ちもあります。
髙山 報道では「仮設住宅が何個建ちました」と伝えられていますが、本来は仮設住宅に住む人たちのケアをどうしていくかが本質として大切なことでしょう。地震発生から時間が経ちましたが、まだ輪島の朝市通りは更地のまま何も変わっていない。行政に対して「何もしてくれないじゃないか」という住民の方々の声は根強くありました。
川澄 法制度の問題も大きいでしょうね。たとえば、電気工事の資格を持っていたり、重機を扱えたりする、いわゆるスーパーボランティアと呼ばれる人たちが現場から求められていても、自治体が活動の許可を出してくれないという事例もありました。超緊急時にも関わらず、日常の法律を一生懸命守ろうとしてしまう。特別法の制定なども含め、今後検討されていくべきでしょう。
髙山 おっしゃるとおりです。今の制度や法律は現代の災害に適応できていないのかもしれませんね。
「そうぞう的復興」のために、“ 大学” であるからこそできること。
髙山 今回の震災ではいわゆる限界・無住集落、または過疎化の進んでいる地域も大きな被害を受けました。そして今復興支援を考えるときに、十数年経つと自然と消滅してしまう地域にも資金や援助のリソースを注入するのかが大きな議論になっています。しかし、本学ではそもそもそうした考え自体が一面的すぎるという懸念が、大前提としてあります。
川澄 私自身の考えも同じです。金沢大学の学生たちに伝えていますが、「能登を後世に残していく」、そんな復興を実現したいという想いです。ボランティアなど外部の方々の力を借りなければ立ち行かない状況ではありますが、復興の方向性を示すのはやはり地域住民の方々なので。地域ごとの意向をきちんとすくい上げるかたちで支援を続けていきたいですね。
髙山 今、過疎地域に対しては「東京化」が叫ばれています。近隣の都市部にすべてを集約していこうという流れで、今回も能登から金沢へ移住すればインフラや高齢者介護の問題も解決するだろうと。しかし、日本全国どこで地震が起きるかは誰にもわかりません。過疎地域の復興をないがしろにすれば、同じことが起きたとき、あらゆる地域が消滅する可能性が生まれてしまう。
川澄 大学という機関だからこそ、クリエイティブな復興に関与すべきという想いがあります。大学であるからこそまとめられるデータもあれば、それを伝わりやすく発信することもできる。被災者の方々からも「何が起こったのかを伝えたいから手助けしてほしい」と声をかけられます。残念ながら、日本で自然災害が無くなることはありません。その中で何が伝えられるのか。災害時の初動対応や災害に対する当事者意識などさまざまな教訓があるはずです。活動を通して、そういったデータを蓄積できるといいのかなと思っています。
髙山 石川県の復興計画には「祭り」というキーワードが50か所以上も出てきます。その地域にとって大切にしてきた文化があって、こうした側面を一個ずつ確認しながら復興を考えていく必要があるんじゃないかと…。
川澄 能登は古くから海外との交易があったり、他の地域とは異なる祭りの形態が現存していたりとさまざまな文化的資本の蓄積が見られます。金沢の学生ですら「過疎地域を残す必要はあるのか」と懐疑的な人もいますが、「都市」と「地方」は補完関係によって豊かな暮らしを紡いできました。この連鎖性を断ち切ってしまったとき、それはもう二度と取り戻せないものになってしまう。そうしたときに今の豊かさを維持できるとは思えないですね。
髙山 本学のボランティアのテーマは「そうぞう的復興」を掲げています。がれき撤去などのボランティアはもちろん大切ですが、そのプロセスの中で地域住民の方とたくさん対話をして、その方々の生活や文化を見聞きし、理解することで「本当のそうぞう(創造・想像)的復興」が始まると思います。
学生ボランティアにしかできないこと。そして、その先の成長。
髙山 ある日のボランティア活動で、崩壊した住宅から家財などを廃棄するために、学生が一つひとつ住民の方に確認しながら仕分けをしていました。シャツ1枚を捨てるのもすべて確認するわけですから、半日経っても四畳半が片付くかどうか。ただ、その半日の間で学生と住民の方の信頼関係はとても高まったと感じます。仕分けの作業の際、どうして捨てられないのか話を傾聴し、受容しながら作業を進めるうちに、まるで子どもや孫のように心を許していただけるようになったんです。これは私たち教員や行政の人には決して真似できません。
川澄 ただ片付けるのではなく、住民の方と話をしてくださいといつも学生たちに伝えています。学生に話を聞いてもらえただけで、涙を流し始めるお母さんもいるんですよね。
髙山 ボランティア活動において「被災地」という特殊な環境に出会うことは、自己を反芻することになり、社会における自分の立ち位置を知る機会にもなるでしょう。
川澄 ボランティアは非常に自主的な活動であり、主体性と現場主義が現地で求められます。初めての経験やそれに伴う感情の解釈を常に頭の中で繰り返しながら、現地でたくさんの方と対話すると、一生涯続くつながりと出合うこともあります。私自身もボランティア活動を通して、第二の故郷と感じられる場所に出合いました。
髙山 ええ。学生にとって、大きく人生が変わる転機になり得ますし、多様性や共生、目の前で見た社会問題と今まさに学んでいる学問をどうリンクさせていくのかを考えるきっかけにもなります。
川澄 被災地では普段は表面化しない地域課題が浮き彫りになっています。自分の専門性の足りなさを痛感して、自身の課題が明確になる瞬間も訪れるでしょう。つらく悲しい事態ではありますが、私たちが自分の人生の中で何年も付き合っていくテーマと出合う可能性もそれだけ多くあるということです。
髙山 本学では、今後も社会貢献センターとボランティア支援室が被災地域と学生とのパイプ役としてボランティア活動を継続して企画していきます。ボランティア活動を多角的に振り返る指標をつくるなど、より被災地と学生に寄り添った活動ができるよう改善も進めていきます。ぜひ1人でも多くの学生にボランティア活動に参加してほしいです。
地域住民と対話して、理解することで「本当の復興」が始まる
「能登を後世に残していく」 そういう復興を実現したい