About Toyo University Alumni Report-林家あんこさん(落語家)

Alumni Report  Special Interview OB・OG の今

葛飾北斎の娘を語る、女流噺家。

林家あんこさんは、林家時蔵を父に持つ二世初の女流噺家。日本舞踊や演劇を学び、学生の頃から伝統芸能に関心があった中、古典落語を主とする父ではなく、新作落語に熱心に取り組む林家しん平に弟子入り。第21代すみだ親善大使として生まれ故郷である墨田区の魅力を伝える中で、葛飾北斎の娘・応為の存在を知る。世界中で愛される天才画家 北斎の右腕としてその生涯を全うした応為に父親と同じ道を歩む者として共感し、自作落語『北斎の娘』を仕立て上げ、その人生を伝えています。

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落語家

林家 あんこ はやしや あんこ

Profile

2008年、文学部日本文学文化学科卒業。東京都墨田区出身。落語協会所属二ツ目。師匠は林家しん平、父は林家時蔵。二世初の女流噺家。地元墨田区の「すみだ親善大使」に着任し、魅力を発信する傍ら、墨田区と縁の深い葛飾北斎の娘・応為を主人公にした自作落語『北斎の娘』を自身の独演会などで口演中。

父と同じ世界を、異なる歩み方で。

実は白山キャンパスから近い高校に通っており、父の母校でもあることから東洋大学は身近な存在でした。高校生のときに第2部・イブニングコースの存在を知り、年齢も職業もバラバラの人たちが高い熱量を持って学びに来ている環境がすごく魅力的に思えました。当時は学部学科が増えたり、新しい食堂ができたりと、色々なことが新たに始まるタイミングで、すごくキラキラしたものを求めて入学したことを覚えています。実際に助産師として働いている女性や、80代になって大学へ行くと決めたお􄽆さんなど、本当に多様な人たちが集まっていました。その触れ合いの中で、こんなお仕事や考え方があるのかと視野が広がりましたね。

落語家を目指すきっかけも大学時代にありました。演劇サークルに所属していたのですが、その時の座長が歌舞伎役者の付き人を探していると声をかけてくださり、数ヶ月ほど経験させてもらいました。衣装のアイロンがけやメイクの準備といった裏方としてのお手伝いをするのですが、歌舞伎の表舞台には男性しか立つことができません。この世界に深く携わることができないという大きな壁を感じる一方で、女性でも伝統芸能に関わることができないかと考えるようになりました。大学卒業後に俳優の養成所に通いながら、父の独演会などを手伝うようになり、落語の見え方が変わってきて。幼い頃から母に連れられて父の仕事を見てきましたが、「演者」として捉えたときに究極の一人芝居だと思えたんです。作・演出、プロデュース、演者すべてを一人でできる世界に魅力を感じるようになりました。

ある日、師匠である林家しん平の高座を見たときにすごく面白かったんです。父はきっちりとした古典落語をやるのですが、しん平師匠は創作落語や漫談まで面白いことに垣根がない方でした。その日のお客さんや天気によって、高座に上がるまで自分でも何を話すかわからない。そんな信条に惹かれ、この人の傍にいると面白いことが起きるはず、と弟子入りをし、落語家としての道を歩み始めました。

自己表現としての落語。

当初は最近では珍しい内弟子※として師匠と四六時中ともに過ごす生活をしていました。仕事に向かう電車の中で眠そうにしていると「これから仕事に向かうってのにそんな顔してるんじゃないよ」と叱られまして。人に見られる、楽しませる仕事をするうえで大切な意識を師匠から教わったと思います。今は主に全国の寄席や落語会で高座に上がっていて、中には自らが主催する落語会もあります。高座に上がっているときはすべて一人で対処しなければならず、ごまかしが利かないんです。先人の言葉で「芸は人なり」とありますが、人として良くないものはすべて芸に出てくるものです。座布団の座り方、着物の着付けひとつ取っても見られてしまう。それゆえに邪なことはしてはいけないと肝に銘じています。

『北斎の娘』はすみだ親善大使に就任し、葛飾応為の存在を知ったことでできた新作落語です。同じ二世である境遇が似ていることもあり、応為を題材にすることで私自身何かを見つけられるのではと感じたんです。応為が描いた作品も葛飾北斎の名で世に出ていると言われ、応為についてはあまり世に知られていません。この落語を通じて応為が世に残したことを伝えたいという気持ちで今は演目に取り組んでいます。近い将来、『北斎の娘』を海外で口演することが目標です。私の考えている葛飾応為を海外の人にぶつけたら、どんな反応が返ってくるのか。そうしたフィードバックを経て、『北斎の娘』がより良い落語になることが楽しみです。

実は私は子どものときから引っ込み思案で人前で話すことも苦手でした。ただ演劇や落語のセリフの力を借りれば大きい声が出て、
自己表現することができたんです。落語は、登場人物をあまり否定しません。現代社会では許されない嫌な人物も出てきますが、根本
として人を大事にしています。だからこそ何か悩んでいる子どもたちも含め、多くの人にこんな寛容な世界もあると伝えることが
できれば嬉しいですね。今はYouTubeなどでも聴くことができます。そもそも娯楽ですから、学生の皆さんも肩肘張らずにラジオ
代わりにでも落語を聞いていただきたいです。

※内弟子:師匠の家に住み込んで家事や付き人としての仕事をしながら修業する弟子。

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 撮影協力

 すみだ北斎美術館 〒130-0014 東京都墨田区亀沢2丁目7- 2
 企画展「歌舞音曲鑑 北斎と楽しむ江戸の芸能」

 2024年3月19日(火)~ 2024年5月26日(日)

https://hokusai-museum.jp/modules/Exhibition/exhibitions/next#1