About Toyo University Progress -未来へはばたく在学生-(文学部4年 栗田岳さん)

Progress 未来へはばたく在学生

東洋大学には学問・研究・スポーツ・ボランティアなど、多様な領域で活躍する学生がたくさんいます。
今回は、全日本学生・ジュニア短歌大会高校・大学専門学生の部で、文部科学大臣賞を受賞した栗田岳さんにお話を伺いました。

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文学部日本文学文化学科4年

栗田 岳さん

高校生のときに短歌を始め、本学主催の「現代学生百人一首」へ高校3年生の時に応募し入選。本学進学後も継続して短歌創作に取り組むなかで、コンテストへの応募や短歌を通した活動を続けてきた。

第17回 全日本学生・ジュニア短歌大会高校・大学専門学生の部 文部科学大臣賞 受賞作品
解体を 終えて祖父母が 居た土地は 百年ぶりの 春を吸い込む

31音に、言葉の核心を込める。

短歌を始めたきっかけは、高校時代の書道の先生でした。授業の中で短歌を習い、初めてコンクールに作品を提出、全国大会で入賞しました。実は当時短歌に関心はなかったのですが、先生に「着眼点が良い」と褒められたことが嬉しくて、そこから何か題材が転がっていないかアンテナを張る生活が始まりました。日々短歌作りに没頭していると、伝えたいことを31音に収めるために、無駄な部分を削ぎ落とし、言葉の芯を見つけ出すことを楽しむ、それが短歌の面白さだと思うようになりました。

同じ言葉でも相手によって捉え方はさまざまで、例えば歌の中の“ 君” という文字で男女のどちらを想像するかは人によって違います。また歌の内容もシンプルにしすぎても伝わらないし、伝えようとしすぎると面白みに欠けてしまう難しさもあります。そこで作品を作る際は、伝えたいことと読み手の想像で自由に解釈してもらうことのバランスが7:3くらいになるように意識しています。

第33回( 2020年) 現代学生百人一首 入選作品
カタコトの 「イラッシャイマセ」 くりかえす アジアの風吹く 朝のコンビニ

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言葉に真摯に向き合い、より伝わる言葉を探す。

全日本学生・ジュニア短歌大会の作品は、祖父母の家の思い出から作った歌です。ある日、祖父母の家が解体されることになり、その様子を父と眺めていました。私もよく遊んだ家だったので寂しかったのですが、父にとっては生まれ育った家であり、私よりももっと寂しい想いをしているのかもしれないと、父の気持ちに寄り添いました。ただ悲しみだけでなく、その土地自体の再生や未来への期待感も表現したくなり、それにふさわしい言葉は何だろうと、辞書をめくったり、類語を探したり… 。歌全体の雰囲気や語順なども考える中で、“ 春を吸い込む” という言葉を作り出せたときは感動しました。

短歌は、想いや心象風景が伝わることが大切だと思います。そのために少しのフィクションは必要で、この歌でも祖父母の家は建ってから実際には100年も経過していません。ただ“ 百年”という言葉の響きのおかげで、時間の流れや時代の重みをより感じ、父の想いをより伝えることができたのではと思っています。創作活動をする人であれば誰しも「作った瞬間は良いと思った作品が、時間を置いて見ると全く良くない」という経験をすると思います。しかしこの歌に関しては、1日経ち、1週間経って見返しても、それでも良いと思えるほど、会心の出来でした。だからこそ、文部科学大臣賞受賞の連絡をいただいたときは、震えるほど嬉しかったです。

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短歌を通して生まれた、新たな出会いや可能性。

短歌を通じて世界は広がっていきました。実際に、静岡県の三島市で行われた学生短歌対局では地元の高校生と短歌を詠み合う機会をいただきました。よく知らない土地の高校生と出会い、短歌を通してその人の想いや人となりが見えてくるワクワク感がありました。卒業論文では東洋大学主催の現代学生百人一首の過去36 回分の作品を分析することで、時代や流行の変化、そして当時の人の気持ちを垣間見ることができました。例えば、好きな人との連絡手段としていつの時代も“ 電話” は登場します。過去の作品では家の電話なので「家族のいない時間にかける」といった情景を読んだ歌が多くありましたが、近年になると携帯やスマホの登場により、1対1の恋愛模様やその気持ちそのものに主題が移っていきました。しかし、36年のうちに社会や環境の変化はあっても、詠み手である学生が急に大人に変化する訳ではなく、あくまでその時代の学生目線が歌の中に表れているのが興味深かったです。過去は周囲の目や行動を気にする歌が多かったのですが、現代では自分の気持ちや感情に向き合う歌が増えてきたように感じました。情報が溢れる時代だからこそ、学生自身も内省する視点が増えているのかもしれません。

4月から私は、高校の国語教員になります。これからは高校生たちにも短歌の面白さだけではなく、日本語の素晴らしさや美しさ、その先に広がる可能性を伝えられたら良いなと思っています。

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