【SDGs NewsLetter】リテール業界が推進する多彩なSDGs活動と 今、求められる産官学の連携

SDGs NewsLetter

SDGs
NewsLetter

vol.20

東洋大学は“知の拠点”として
地球社会の未来へ貢献します

2023.03.20発行

09.産業と技術革新の基盤を作ろう
12.つくる責任、つかう責任

リテール業界が推進する多彩なSDGs活動と今、求められる産官学の連携

個人の顧客に向けて商品を販売するリテールビジネス(小売業)。
多くの企業がインターネットやメディアを駆使し、自社のSDGs活動を消費者に発信しています。リテール業界におけるSDGsに関する取り組みの現状や、今後の展望について経営学部マーケティング学科の須山憲之准教授がお話しします。

summary

  • リテール業界では、SDGsを意識した多彩な商品が企画・販売されている
  • 消費者のSDGsに対する認知率は高いが「実践」には至りにくい
  • SDGsの浸透・啓発のために暗黙知を形式知化し、継続して社会に発信していく必要がある

リテール業界とSDGs活動

業界が取り組むSDGs活動には、どのようなものがあるのでしょうか。

須山 憲之(すやま のりゆき)

最近の例では、ネスレ日本と日清紡グループのニッシントーア・岩尾株式会社による「アップサイクル衣服」の製作がユニークです(*1)。消費者の参加を促すためにネスレ商品の空きパッケージを回収するボックスを全国9箇所に設置し、そこで集めた空きパッケージを等から繊維を生産し、コーヒー抽出後の残渣を染料として活用した衣服を製作する試みです。両社の強みとこれまでの知見を活かしたアップサイクルの取り組みモデルとして大きな注目を集めています。

須山先生自身も百貨店と連携して、SDGsを意識した商品を企画・販売されてきたそうですね。

2020年10月、大丸東京店から「コロナ禍で疲弊した社会を元気にするために学生の力を借りて何かできないか」と声をかけていただきました。そこでゼミの学生たちと話し合い、地域活性化への貢献を見据えて、国内の各地で生産される高品質の繊維素材をそれぞれ使った8種類のマスクの販売を企画・提案したのです。翌年も大丸東京店と連携し、海洋プラスチックごみを加工して製作したアクセサリーや、玉ねぎや栗、ブルーベリーといった廃棄食材で染色した「のこり染め」の雑貨の製造・販売に取り組みました。いずれも実際に学生が店頭に立って商品説明を行い、実りあるSDGs活動になったと感じます。
その後、2022年4月より東洋大学に着任しました。私のゼミでは引き続き、大丸東京店とのコラボレーションを行う予定です。私自身が現在取り組んでいる研究は、前述の大丸東京店と連携した取り組みにおいて実施した消費者のSDGsに関する意識・行動調査です。この調査結果を見ると、SDGsの認知率は約70%で、多くの消費者がSDGsを必要だと考え、自身も活動に参加したいと回答していました。しかし、実際に行動に移している消費者の割合となると極端に数値が下がり、「実践」に至りにくい現状が読み取れます。SDGsに対する取り組みは、決してハードルが高いものばかりではありません。こまめな消灯のような小さな行動も、一人ひとりの心掛けが大きな力となり、SDGs達成に寄与するでしょう。昔からあったものが具体的な目標になっただけで、難しいものではないという認知を広めていきたいと考えています。
今後、私のゼミで行っているSDGs活動では、過去の活動で得た成果と課題を生かし、「情報発信」にも注力したいと考えています。SNSを駆使し、企業と連携した取り組みや、日常生活の中で誰もが行えるSDGs活動を紹介・発信していく予定です。

SDGsが経済活動に与える影響と今後の展望

リテール業界におけるSDGsの浸透・啓発を進める上での課題は、何でしょうか。

大丸東京店で販売された「のこり染め」のトートバッグ
▲大丸東京店で販売された「のこり染め」のトートバッグ

旗振り役である国が、誰もが取り組みやすくなるよう環境や仕組みづくり、経済的支援を実施しないことには、現状からの飛躍的な進展は望めないでしょう。過去に経済産業省主催の食品ロスと省エネに関する分科会に参加しましたが、政府と企業との間にSDGsに対する認識に乖離がみられるように感じました。SDGs活動に注力する大企業が少なくない一方で、規模や価格競争などの面で不利になりがちな中小企業では、業績向上に結びつきにくいSDGs活動に取り組むことは容易ではありません。自分のビジネスを成り立たせることが優先され、社会貢献に取り組む余力がないと考える企業もあります。まずはSDGsを理解してもらい、社会貢献と営業利益が同時に成り立つ可能性を模索すること、またSDGsを積極的に推進する政府と推進に消極的な企業との間に立ち、双方がWin-Winの関係を築けるよう橋渡しを行うことを目指しています。
また、教育研究機関である大学も改めて原点に立ち返り、取り組みを推進すべきと考えます。学校教育法に「大学は、その目的を実現するための教育研究を行い、その成果を広く社会に提供することにより、社会の発展に寄与するものとする」と記されているように、大学には社会貢献という使命があります。既存の知恵だけではなかなか現状から飛躍的に改善することは困難です。知識創造社会で暗黙知を形式知化すること、ある人だけが知っていることをみんなに知らせることが必要だと考えています。SDGsの達成は1回のアプローチではなく、改善・継続していく必要があります。SDGs達成に向けたPDCAサイクル(*2)を、産官学が一体となって回すことができれば大きな成果が得られるはずです。
私の専門領域は、消費者行動に基づき定量的にマーケティング活動を捉える「マーケティング・サイエンス」です。その一環で気温や湿度など、天候に関する変数を分析に組み込むモデルを設計しています。これは「雨が降れば客数が減り、売上が下がる」という小売業の経験則を、天候に関するデータと実際の売上をベースに可視化し、売上予測に活用しようという試みです。売上予測に応じて売れる傾向にある商品やアイテムを必要分だけを提供することができるため、コストを抑えるとともに商品ロスの削減に貢献できます。このような研究成果を社会に還元し、中小企業のSDGsの取り組みを後押しできるよう、多角的なアプローチでSDGs達成に寄与したいと考えています。



脚注
*1 出典:ネスレ日本株式会社
*2 Plan(計画)→ Do(実行)→ Check(確認)→ Act(改善)の4段階を繰り返して業務を継続的に改善する方法。

須山 憲之(すやま のりゆき)

東洋大学 経営学部マーケティング学科 准教授/博士(商学)
専門分野:マーケティング・サイエンス、消費者行動分析
研究キーワード:データ解析、CRM、SDGs
著書・論文等:「TikTokにおける中国消費者のインフルエンサーに対する満足度の評価」(2022年第25回APIEMSコンファレンス講演論文集 2022年11月)、「予測確率を最大化した顧客購買予測」(ACM国際会議プロシーディングシリーズ 2019年09月)

TOPへ戻る 01.貧困をなくそう 02.飢餓をゼロに 03.すべての人に健康と福祉を 04.質の高い教育をみんなに 05.ジェンダー平等を実現しよう 06.安全な水とトイレを世界中に 07.エネルギーをみんなに。そしてクリーンに 08.働きがいも経済成長も 09.産業と技術革新の基盤を作ろう 10.人や国の不平等をなくそう 11.住み続けられるまちづくりを 12.つくる責任、つかう責任 13.気候変動に具体的な対策を 14.海の豊かさを守ろう 15.陸の豊かさも守ろう 16.平和と公正をすべての人に 17.パートナーシップで目標を達成しよう