【特集】大切な遺伝資源を守りながら食糧不足の地域に栄養豊富なコメを届ける

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2020.12.21発行

02.飢餓をゼロに

大切な遺伝資源を守りながら食糧不足の地域に栄養豊富なコメを届ける

世界に目を向ければ、この瞬間にも食糧不足に苦しんでいる地域があります。 生命科学部生命科学科の廣津直樹教授はスリランカの研究機関と連携し、現地のイネ遺伝資源の評価と保全に取り組むと共に、収量性と栄養特性を向上させたイネの品種の開発に挑戦しています。

summary

  • 内戦の爪痕残るスリランカが抱える課題
  • 現地にしかない貴重な遺伝資源を守りたい
  • 留学生の受け入れで新たな未来を作る

内戦の爪痕残るスリランカが抱える課題

スリランカとの共同研究で、イネ遺伝資源利用システムの構築に取り組んでいると伺いました。なぜスリランカだったのでしょうか。

スリランカとの共同研究で、イネ遺伝資源利用システムの構築に取り組んでいると伺いました。なぜスリランカだったのでしょうか。

大学院時代にスリランカ人留学生と仲良くなり、その後も交流を続けてきました。彼がスリランカ国立基礎研究所所長に就任するのを機に、今回の共同研究プロジェクトを立ち上げました。
いまスリランカは食糧不足に悩まされています。2009年まで26年間にわたる内戦で海外からの技術導入が遅れたためにイネの収量が上がらず、そもそも量が不足しています。肉や魚も豊富な日本と違って、スリランカでは栄養素のほとんどをイネなどの穀物に頼っているため、亜鉛や鉄などのミネラル不足が問題になっています。つまり、質的にも不足しているのです。そこで、我々のプロジェクトでは収量が高く、ミネラルバランスに優れたイネの開発を目指しています。

イネの品種改良ということでしょうか。

品種改良というと、収量が高い割に栄養素が少ない品種と、収量は低いけれども栄養素が豊富な品種を交配して、収量も栄養素も優れた品種を作り出す方法が知られています。ただ、既存の品種が持つ優れた遺伝子は既に調べ尽くされ利用されています。さらに優れた遺伝子を見つけ出して目指す品種を作ることは容易ではありません。
この10年の間に次世代シーケンサーの技術が発展し、ターゲットとする遺伝子の特定や単離が行いやすくなりました。ゲノムワイド関連解析という手法を使えば数百品種の遺伝子型を調べて、これまで見つけられなかった新しい遺伝子を見つけ出すことも可能です。交配に用いた親の品種のみならず、幅広い品種を一度に探索できるので、より大きな母集団から抽出することもできます。
いまスリランカは食糧不足に悩まされています。2009年まで26年間にわたる内戦で海外からの技術導入が遅れたためにイネの収量が上がらず、そもそも量が不足しています。肉や魚も豊富な日本と違って、スリランカでは栄養素のほとんどをイネなどの穀物に頼っているため、亜鉛や鉄などのミネラル不足が問題になっています。つまり、質的にも不足しているのです。そこで、我々のプロジェクトでは収量が高く、ミネラルバランスに優れたイネの開発を目指しています。

現地にしかない貴重な遺伝資源を守りたい

新しい科学技術を使えば、理想的なイネが開発できそうですね。

新しい科学技術を使えば、理想的なイネが開発できそうですね。

そうなると良いのですが、言葉で言うほど簡単ではなさそうです。世界にイネは約3万系統あります。スリランカには野生種のイネが豊富にあり、その膨大な遺伝情報のなかから理想的な組み合わせを探す必要があります。遺伝的性質は複数の要素が相互に影響し合っており、さらに環境の影響も受けるため、仮に良さそうな品種ができたとしても、現地で栽培してみたら期待する性質を発現しないケースも想定されます。地道に研究を重ねていくことになると思います。

スリランカにはどのくらいのイネの品種があるのでしょうか。

それは今回の共同研究プロジェクトの、もう1つの大きなテーマです。現地では必要な技術や機器類が不足していることもあって、自国にあるイネの品種を完全には評価しきれていません。せっかく豊富な遺伝資源を持ちながら生かしきれていないので、今回の共同研究を通して評価と利用を一体的に進めて、生産性の向上につなげたいと考えています。
かつては遺伝資源の搾取が問題視されましたが、いまの国際社会では遺伝資源を使用する際の条約や規約が整っています。未利用の遺伝資源の探索に協力すれば、スリランカでは自国の遺伝資源を活用する道が開けますし、日本でもいつかその遺伝資源を使って新品種を開発できるかもしれません。そうなればウィン・ウィンですね。

留学生の受け入れで新たな未来を作る

このプロジェクトは現地との往来が欠かせないのではないでしょうか。

このプロジェクトは現地との往来が欠かせないのではないでしょうか。

やはり現地に行くことが重要です。しかし、コロナ禍のため渡航が制限されているいまはオンラインでのやり取りがメインとなり、非常にもどかしいですね。現地では実験に必要な液体窒素が手に入らなかったり、田んぼにカニが入ってイネを食べつくしてしまったり、想定外のハプニングも起きています。また、研究の進捗は学生たちの学位にも影響するので、それも大きな心配の種です。
このプロジェクトはSDGsの目標2「飢餓をゼロに」に合致しますが、それだけが目的ではありません。遺伝資源は本来、自国で評価して新しい価値を生み出していくことが理想です。現状のスリランカではそれが叶わないので、彼らが自走するための環境作りをサポートしたいと思っています。将来にわたって活躍する人材を育てるためにも、渡航制限が緩和されたら、積極的に留学生を受け入れたいですね。それが日本の学生にとっても良い刺激になるはずですから。

廣津 直樹

生命科学部生命科学科 教授
専門分野:農学、作物学・雑草学、基礎生物学、植物分子生物・生理学
研究キーワード:光合成の環境応答、作物生産の遺伝的改良、作物の生理解析
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