【特集】人間社会と同様に高齢化する日本の森林 適切な伐採と国産材の活用が保全に有効

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2021.03.31発行

15.陸の豊かさも守ろう

人間社会と同様に高齢化する日本の森林 適切な伐採と国産材の活用が保全に有効

日本の国土の約7割を占める森林は二酸化炭素の吸収や洪水の緩和、生物多様性の保全など、さまざまな役割を果たしています。こうした森林ならではの機能を保持するためには何が必要なのか、理工学部 都市環境デザイン学科の村野昭人教授にお話を伺いました。

summary

  • 森林保全のために適度な樹木の伐採を
  • 日本の林業が抱える構造的な問題
  • 国産材がもっと活用されるために

森林保全のために適度な樹木の伐採を

世界の森林面積は減少の一途をたどっているそうですね。

過剰な伐採や開発行為などによって減少が続いています。その背景には途上国の貧困や格差の問題があります。木材を利用する先進国が途上国の問題を無視して、「伐採を止めよう」「森林を守ろう」と呼び掛けても解決しませんから、一緒になって考えていく必要があります。

日本の森林は大丈夫なのでしょうか。

日本は世界と違った問題を抱えています。現在の人工林のほとんどは戦後に植林されたもの。復興のために建築資材や燃料が大量に必要だったので、木を伐採し、跡地にスギなどを植えました。ところが、木材の輸入自由化や鉄・コンクリートの普及拡大で、国産材は徐々に需要が減り、100%あった木材自給率は2002年に18.8%まで落ち込みました。
そのため、森林には植えられて50年以上のスギがたくさんあります。成長過程の木は光合成が盛んで二酸化炭素の吸収量が多いのですが、40年から50年でピークに達し、そのあとは吸収量が低下します。森林が持つ地球温暖化の緩和機能を維持するには成長した木を伐採し、新しい木に植え換えていく必要があります。しかし、需要がないと伐採が進まず、このままでは20年後、30年後がどうなるのか心配されます。

日本の林業が抱える構造的な問題

日本は世界と違って、森林が持つ機能を保全するために木を伐採しなければならないのですね。

理想はさまざまな年代の木がバランスよく生えている状態です。いまはどんどん伐採して、どんどん植えなければならない時期です。しかし、国産材の価格が下落して、林業が儲からない産業になったため、担い手も不足しています。この状況を変えていこうと、政府は森林・林業再生プランを策定し、木材自給率50%を目標にさまざまな施策を推進しています。

なぜ森林や林業を再生させる必要があるのか、改めてその意義を教えてください。

なぜ森林や林業を再生させる必要があるのか、改めてその意義を教えてください。

森林には木材などの物質生産機能や地球環境保全機能だけでなく、水源涵養や洪水制御機能、土砂災害防止や土壌保全機能などもあります。また、森林が荒廃すれば、生物多様性や景観などにも影響が及びます。これらの機能を人工物で補うとすれば何十兆円もの資金が必要との試算もありますし、そもそも代替できない機能も多いため、やはり森林は森林として守っていく必要があるのです。
しかし、林業は現代の金融システムと時間軸が合っていません。新しい木を植えるには資金が必要ですが、その木が成長し木材として出荷できるのは数十年後ですから、金融機関は融資の判断が難しい。それならば公的資金を導入しようと森林環境税などの案が出ていますが、これもまた難しい問題です。森林の保全には、直接的な保全活動と国産材の利用促進のどちらも必要。しかし、国産材を使うのは都会が多いので、森林を持たない自治体にも多くの税金が配分されることになるわけです。全員が納得する仕組みを作るのは容易ではないですね。

国産材がもっと活用されるために

国産材の利用を促進できるような、新たな木の活用方法はあるのでしょうか。

最近増えているのは発電用のバイオマス燃料としての需要です。家具や建築用と違って品質を問わないため、使い勝手が良いのです。バイオマス燃料を輸入するケースもあるようですが、森林の保全としても温暖化対策としても、バイオマスは地産地消が望ましいでしょう。
土木分野でも検討が進んでいます。例えば、液状化した土地には杭を打ち込んで物理的強度を高めるのですが、この杭を木にしようという試みがあります。実は、木は水にさらされたままだとほとんど腐りません。ある城の改修工事で堀の中を調べたところ、何百年も前の木材が土台として機能していました。液状化した土地は水分豊富ですから、木の杭が向いているのではないかと考えられます。
あと30年もすれば、コンクリートなどの人工的な構造物の量が植物の量を上回るという試算もありますが、人工のものは木と違って自然に還らず、リサイクルにも限界があります。それに対して、木は生命力にあふれており、枝を切っても半年ほどで元に戻ります。このような何度でも再生できるエネルギーを生かさない手はありません。そのためにも森林を守っていくことが重要だと考えています。

村野 昭人

理工学部都市環境デザイン学科 教授
専門分野:環境工学・土木環境システム
研究キーワード:LCAバイオマス、森林再生
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