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機能性を有した コンクリートの開発を通して 建設現場と地球環境を 改善する

理工学部横関 康祐教授

二酸化炭素(CO2)などの温室効果ガスによる地球温暖化が国際社会の共通課題だと叫ばれる昨今。世界的にCO2の排出量削減が求められているが、建設業界も例外ではない。日本における土木・建築分野のCO2排出量は、セメントや鉄筋の製造時に排出される量も含めると全産業の約1/4と大きな割合を占める。そのため、業界全体で一刻も早い改善が急がれているのだ。
理工学部都市環境デザイン学科の横関康祐教授も、建設分野でのCO2排出削減を目指す一人。民間企業で建設材料や施工方法の開発に取り組んできた経験を基に、環境を改善する新たな機能を持ったコンクリートを生み出そうとしている。

CO2を吸収する画期的なコンクリートで
環境問題に貢献

「コンクリートの原料となるセメントを作るには、まず石灰石を砕いて粘土を混ぜ、高温で焼成します。石灰石は炭酸カルシウム(CaCO3)でできているため、燃焼させたときに大量のCO2を排出するのです。1tのセメントを作る際には約800kgのCO2が発生するため、その排出量は膨大です。原料や製造設備を改良するといった努力が進められていますが、コンクリートを作り続ける限り、今後も排出量がゼロになることはありません。そこで、我々はコンクリートにCO2を吸収させることで、大気中のCO2を減らしていくという新たな方策を世界で初めて考えました」
その結果、誕生したのが「CO2-SUICOM」(略称:スイコム)。その名のとおり、CO2を“吸い込む”まったく新しい形のコンクリートだ。スイコムは、中国電力・デンカ・鹿島建設の3社により研究開発が進められた。横関先生は鹿島建設に所属していた頃にプロジェクトを主導し、大きな貢献を果たしている。
「スイコムは、化学工場から出る副生消石灰という物質を主とした特殊混和材をセメントの代替材料として使用しています。そのため、CO2の排出量が多いセメントの使用量を大幅に削減できるというメリットがあります。そしてこの特殊混和材は、CO2と接触するとCO2を吸収する炭酸化反応を引き起こし、コンクリートを硬化・緻密化させる性質を持っています。よって、製造時に工場の排気ガスなどを吸収させることで、大量のCO2をコンクリートの中に吸収し、半永久的に固定することが可能なのです」
驚くべきことに、そのCO2吸収量は製造時のCO2排出量を上回る。
「樹木は成長していく過程で大気中のCO2を吸収し、建材や家具になった後もCO2を固定し続けます。スイコムも製造工程で大量のCO2を吸収し、建材として使用する場合木材よりも長寿命で、解体された後もCO2を固定し続ける。例えるならば、スイコムを使うことは、木を植えるのと同じような意味を持つのです」

さらなる機能性向上を目指し
研究を続ける

スイコムはすでに応用段階に入っており、さまざまなところで使われ始めている。
「一般的なコンクリートはアルカリ性が強いのですが、スイコムはCO2を吸収したことで中性に近い性質となっています。周辺環境に負荷を与えない環境親和性の高い材料なので、河川や農業用水路など環境に配慮が必要な箇所や、建築資材、道路資材に使用することが期待されています。また、コンクリートは時間の経過とともに、内部の水分が可溶性物質と一緒に表面に出てくることがあります。その水分が蒸発したり、空気中のCO2と反応したりすることで、エフロレッセンスと呼ばれる白い生成物が表面に浮き出て美観が損なわれてしまいます。しかし、スイコムは炭酸化反応によってそうした現象を抑止できるので、美観を維持できるという特徴もあります。そのため、外部環境にさらされ続けながらも景観を保つ舗装ブロックとして、すでに研究成果の応用が始まっているのです」
良いことずくめのように思えるスイコムだが、改善の余地が残されていると横関教授は語る。
「スイコムはCO2を吸収して緻密な構造を作り上げるため、一般的なコンクリートと同等以上の強度があり、耐摩耗性にも優れています。しかし、鉄筋コンクリートには使用できないというデメリットがあるのです。鉄筋コンクリート内部の鉄筋が錆びにくいのは、コンクリートのアルカリ性が作用して、金属表面に不動態皮膜と呼ばれる薄い膜を作り、酸化を防いでいるからです。しかし、スイコムはCO2を吸収して中性に近づいているため、鉄筋を酸化から守る機能を持っていないのです。そのため、フェンスの基礎ブロックや道路の境界ブロックで応用が進む一方、より強度や耐久性が求められる構造物への応用はまだ進んでいません。酸化に強い鉄筋を併用するなど、大きな構造物に使用することを見据えた研究にも取り組んでいるところです」

自分の子どものような思いで
コンクリートを生み育てる

コンクリートの歴史は古代までさかのぼる。ローマ帝国では火山灰などを使って作られたローマン・コンクリートが建設材料として使われており、現代までその姿をとどめている。また、中国の西安市にある「大地湾遺跡」からは、約5,000年前のコンクリート構造物が発見された。現在のコンクリートのもととなったポルトランドセメントは19世紀にイギリスで発明され、世界中で建材として普及している。人類の歴史とともに発展してきたコンクリートだが、まだまだ大きな可能性が残されていると横関教授は語る。 「コンクリートは、世界で二番目に大量生産される人工物です。製造方法やコストダウンの方法は、もはや限界まで追求されています。これから必要とされるのは、いかに付加価値を持たせるか。これまで、私は1万年の耐久性を備えたコンクリート、鉄に近い超高強度コンクリート、水に浮く超軽量コンクリートなども開発してきました。このように、新たな機能性を持ったコンクリートが今後は求められていくでしょう」
コンクリート研究の面白さを「秘めている可能性を間近で感じられること」だと話す横関教授。
「コンクリートは実に多様性のある性質を備えています。さまざまな物質を混ぜ合わせて新しい性質を生み出すこともできますし、自由自在に成型することもできます。また、小さなブロックから巨大な建造物まで、幅広い用途に活用することも可能です。そんな物質は他にありません。コンクリートをずっと扱っていると、自分の子どものようにかわいく思えてくるのです。自分が開発したコンクリートが構造物になり、年とともに変化していく様子を目にするのは、子供の成長を見守っているようなもの。そんな思い入れのあるコンクリートが、多くの人の役に立ってくれているのですから、これほど嬉しいことはありません」

PROFILE

横関 康祐(理工学部 教授)

鹿島建設株式会社に29年間勤務し、コンクリート材料の開発や道路・橋梁・ダムなどの大規模構造物の施工にも携わる。2020年より現職。企業での経験を生かし、新たな機能を備えたコンクリートの開発を目指している。

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