食環境科学研究科博士前期課程1年(分子食理学研究室)の石井亨太君の研究成果が、国際誌International Journal of Molecular Sciences(2022, 23(5), 2655; https://doi.org/10.3390/ijms23052655)に掲載されました。 石井君、おめでとう。
論文タイトル: A Redox-Silent Analogue of Tocotrienol May Break the Homeostasis of Proteasomes in Human Malignant Mesothelioma Cells by Inhibiting STAT3 and NRF1
研究内容:がん細胞はたんぱく質分解器官であるプロテオソームの機能を異常に活性化させ、がん抑制シグナル分子群の分解を促進することで、細胞を悪性化させていることが報告されています。そのため、プロテオソーム阻害ががん治療に役立つと考えられ、一部のがん治療にプロテオソーム阻害剤が臨床応用されています。しかし、プロテオソーム阻害剤に対する耐性ががん治療上の大きな問題なっています。その原因として、NRF1と呼ばれる転写因子がプロテオソーム阻害条件下で活性化され、プロテオソーム機能を再活性化することがこの耐性に寄与していることが知られています。したがって、プロテオソーム阻害時に活性化されるNRF1を抑制することが、がんのプロテオソーム阻害剤耐性を克服するために重要となります。本研究では、難治性の悪性中皮腫に対して強い抗がん作用を示すトコトリエノール安定化誘導体であるT3Eが、STAT3 不活性化によるプロテオソーム機能阻害と同時に、NRF1の活性化を抑制することで、プロテオソーム機能を完全に阻害することが明らかとなり、この作用がT3Eの持つ強い抗がん作用に寄与していることが示されました。この結果から、T3Eが現在のプロテアソーム阻害剤を使ったがん治療上の問題点を完全に克服できる優れた抗がん成分であることが示され、今後のがん治療分野での研究の発展が期待されます。