新年のごあいさつ

新年明けましておめでとうございます。
能登半島地震に始まり、豪雨や自然災害にも繰り返し襲われた昨年、被災された皆様や関係者の方々、そして少しでもお役に立ちたいと奮闘をした皆様にとりまして、今年は新たな一歩を踏み出す希望の年となることを願っております。
近年、世界情勢は厳しさを増しており、社会が根深い対立的な構造を抱えながら迷走しているように思います。その状況を把握し背景にある問題を捉え、自らの関わり方を模索するのは、誰にとっても極めて難しいことだと感じております。そうした中、大学の役割は困難な状況の本質を見極め、改善するための研究を行い、厳しい時代にあっても誠実に生きていくために学生たちが学ぶことを支え、社会の平和に貢献することであります。

21世紀も四半世紀となりますが、この間、東洋大学は黙々と歩み続けてきました。先人から引き継いできた建学の精神である「諸学の基礎は哲学にあり」を守り、「他者のために自己を磨き、活動の中で奮闘する」という「東洋大学の心」を大切しながら、教職員のたゆまぬ努力と学生たちの奮闘、そして様々な関係者の皆様の支援によって、コロナ禍や度重なる自然災害、さらに世界情勢の不安定化にも対処しつつ、改革を進めて、新たな段階を迎えようとしています。
22世紀を視野に入れて、まずは創立150周年を節目として、本学が目指す姿を明確にし、その実現に向けた基盤をしっかりと固める必要があります。2025年は、そうした時期にあることを心にとどめ、これまで同様に着実な歩みを続けてまいりたいと思います。以下では、特に力を入れたいと考えていることを3点にまとめて述べます。

まずは1点目として、建学の理念に立ち、東洋大学としての個性を際立たせる教育活動を展開することです。2017年赤羽台キャンパスの誕生を皮切りに、朝霞キャンパスへの学部移転、川越キャンパスでの新学部設置の準備までの大改革と並行して、大学全体としてカリキュラム改革を進めてきました。併せて今年から、総合知教育が始まります。全学の基盤として「哲学」と「自校教育」を必須とし、各学部の専門領域に根ざして提供される科目からなる全学共通教育科目を、キャンパスを越えて、学生たちが履修できるようにする新たな教育体系です。2年以上かけて準備を重ねてきた大きな挑戦でありますが、試行錯誤を続けながら、今後10年かけて整えてまいりたいと考えています。これは、学生たち一人ひとりがそれぞれの学びのプランで歩みを続ける「3万人のLearning Journey」として提唱してきたことであり、学びのプランづくりにはAI等の力も借りながら、自立した学びの第一歩を支えたいと準備を重ねております。また、学生の主体的な学び、対話を重視した学習の場づくりに力をいれ、東洋大学ではあらゆる場で物事を深く考え、物事の本質を探る力が育つ、すなわち「哲学すること」が当たり前のキャンパスとなることを目指したいと思います。
こうした考え方は、アスリートの育成においても同じですし、国際交流の推進においても同様です。スポーツに力を入れている大学としての面目躍如、昨年のパリオリンピック・パラリンピックでの学生や卒業生の活躍は、スポーツすることを深く考える姿勢に支えられています。また、文部科学省による「スーパーグローバル大学創成支援事業」(SGU)の採択を受けて進めてきた10年間(2014年度から2023年度)を経て、急成長を遂げたグローバル大学としての次なるステップは、各学部や大学院研究科の専門性を踏まえた内容豊かな国際交流の展開であり、その伴走者としての国際教育センターの活動も一層進化を遂げていきます。

2点目として、建学の理念を織り込んだ研究活動の展開と推進体制の整備です。本学の研究活動は、この10年程で急速な進展を見せています。それは、各種外部資金の獲得という数字に顕著に示されているだけではなく、学内で学際的な研究プロジェクトが多数動いていることにも顕れています。特に、昨年11月に設立した「東洋大学いのち総合研究機構」は、創立者井上円了の思想である、「総合の大観」「活眼活書」「相含」というキーワードに示されているように、私達の周りのあらゆるものに謙虚に学び、しっかりとその倫理的な本質も見極め、研究の成果を活かして人々の幸福に寄与することを推進する役割を持つ場です。まずは、重点研究プロジェクトとして進められている学際的研究を、本研究機構による後押しによって、国内外において際立たせていこうと考えています。さらに、全教員の研究環境や条件の整備を一層進め、また、海外の大学や研究機関との共同研究を支援し、研究成果が広く社会に生み出されていくことを目指しています。

3点目は、東洋大学の心「他者のために自己を磨き、活動の中で奮闘する」を具体化する社会貢献活動の展開です。昨年の震災とその後の集中豪雨の被害にあった能登地方へのボランティア活動は、教職員の縁の下の力持ちとしての活動に支えられ実現したものですが、百数十名の学生が奮闘し、その後多くの学生の参加する自主的な活動グループへと発展しつつあります。こうした活動に参加した学生や、全キャンパスでSDGsアンバサダー(留学生も含む)として活躍している学生たちは、具体的な事柄に向き合うことで、理想を掲げることと、その理想の下で何かをなすことの違いを学びます。対立する利害関係や、複雑な現場の姿に接するとき、真の意味で本質に迫って、深く考えることが求められます。社会貢献活動は、他者のための活動が、自分の考え方や思想を照らし出してくれることを学ぶ機会となっているのです。こうした活動を一層深めていく必要があります。

以上、3点を軸として、学生たちが主体的に学ぶキャンパスライフを教職協働で支え、教職員もまた豊かな対話を通じたファカルティライフの拡充に向けて活発に行動し、大学全体が多様性溢れる活動を通じた新たな知の創造の場となり、そして、社会に向かってその知を発信し、行動によって社会に変革をもたらす拠点でありたいと願っています。

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2025年元旦
東洋大学学長 矢口悦子

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