新年あけましておめでとうございます。
新型コロナウイルス感染症により世界中で人々の交流が制限され、それまでに経験したことのない課題に対応し続けた日々を経て、私たちは多くのことを学びました。同時に、環境問題の悪化や深刻化する戦争状態により、世界的な協調が揺れている不安定な状態に直面しています。今年も大学は、高等教育機関として研究と教育を進め、社会課題の解決に向けて貢献することが求められています。その根底には、平和な社会を作り、維持する為に必要な価値について深く広く考察する力、すなわち「哲学する力」が何よりも必要であると思います。
1887年に哲学者井上円了によって創立された「私立哲学館」を前身とする東洋大学は、こうした課題に正対し、この1年もまた常にその建学の理念で自らを照らしながら歩みを重ねてまいります。
昨年、本学は赤羽台キャンパスに、これまでの情報連携学部に加え、福祉社会デザイン学部と健康スポーツ科学部を設置することで、個性溢れるキャンパスの姿を生み出しました。近隣住民の皆様からの期待も非常に高く、これまで以上に多面的な連携が展開されています。大学の存在が地域社会に与えるインパクトの強さと責任の重さを改めて痛感しております。
本年には、朝霞キャンパスに生命科学部と食環境科学部、そして理工学部生体医工学科が合流し、「いのちと食」に関わる新しい研究・教育拠点が誕生します。生命活動の多様性と持続性を探求し、人類の生存を支える基礎となる研究成果と確かな教育が社会に大きな希望をもたらし、これまで以上に豊かな貢献をすることができるように努力をしてまいります。
さらに、川越キャンパスにおいては、環境問題に真正面から向き合う新しい学部を新設する準備を進めてまいります。待ったなしの地球課題の解決に向けた革新的な研究と、その研究成果を社会に広く伝え、共同の学びを展開する為のコミュニケーターの育成も構想しています。複雑な環境問題へのアプローチには、領域を横断して、交流し合う学びの力が求められおり、そうした社会的要請に応えうる学部を創設したいと一同張り切っております。
こうした改革は、創立以来引き継がれてきた「諸学の基礎は哲学にあり」との建学の精神を確認する機会でもあり、東洋大学が「未来を哲学する」大学としてあり続けることを宣言するものでもあると考えております。
2024年、大学全体としては次のような取り組みを継続してまいります。
まずは、文部科学省による補助事業「スーパーグローバル大学創成支援事業(SGU)」が10年間の採択期間を終え、新たな歩みの時を迎えます。この間に劇的に伸張したグローバル教育の成果を土台としつつ、アジアにおける拠点として、異文化交流や体験を促進します。特に、日本語教育や留学生の日本における就職促進にも力を入れます。
そして、2021年に制定した「学校法人東洋大学SDGs行動憲章」を実質化する多様な事業を継続します。SDGs学生アンバサダーたちの積極的な企画と運営による事業の展開を支援します。研究活動においても、学問領域を越境したチームによる本学独自の重点研究プロジェクトの学際的なアプローチにより、新たなイノベーションを起こすことを目指します。これは結果として大学院教育の拡充にもつながります。コロナ禍の体験を踏まえて加速した教育DXにおいては、生成AIの出現による状況に対しても、積極的に活用する情報連携学部での取り組みをパイロットとしつつ、適切な活用と課題への対応を進めます。 こうした取り組みに加えて、昨年4月に開設したTOYOスポーツセンターの役割を一層充実させ、学生スポーツの振興を本学の特長の一つと位置づけて、全ての関係者による応援文化を醸成してまいります。そして、パリオリンピック・パラリンピックでも多数の学生や卒業生が活躍してくれることを願っているところです。
個性豊かな学生や教職員の様々な交わりが織りなす楽しいキャンパスを創り出し、誰もが「他者のために自己を磨き、活動の中で奮闘する」大学であり続けたいと思います。
最後になりますが、皆様方の御健勝と御多幸を祈念申し上げるとともに、本年も東洋大学の活動にご支援、ご協力を賜りますようお願い申し上げます。
2024年 元旦
東洋大学 学長 矢口 悦子