第1回:保存修復を経て文化財『狭衣』を未来へと伝える
第1回のWeb展示では重要文化財『狭衣』を例に、文化財の保存修復に関する資料を紹介します。
この「狭衣」は平安中期に描かれた、4巻から構成される悲恋物語です。
東洋大学が所蔵する「狭衣」は、重要文化財に指定されています。
指定の理由として、東洋大学の「狭衣」は鎌倉時代の本として古くから伝えられており、紙の劣化損傷や虫による被害が極めて少なく、非常に良い状態で残されていることが挙げられます。
…しかし、いくら状態が良いと言って何もせずにそのままにしておきますと、劣化の進行を防ぐことは出来ません。
日本の文化財の保存においてまず劣化・損傷しないように処置することは、文化財活用のための大前提となります。そして文化財の修復は、原物の尊重とその維持を第一とします。
図書館では平成23年度に国と東京都の補助を受け、狭衣の保存修復作業を行いました。
実際の修復作業は高い技術を有した専門業者が行いますが、図書館では貴重書を未来へと伝えるためにこのような維持管理も一業務として担っています。
修復作業は「狭衣」が本来もっている風合いや全体の様子を極力変えない方針で行いました。
「狭衣」の修復の様子を、BeforeとAfterの画像でご紹介いたします。
修理前(左):綴じ部に強い癖が見られ、各括の折山の重なりがずれていた。
修理後(右):本紙二つ折り部分の強い癖を直し、ずれを整えて新調の絹糸で綴じ直した。
修理前(左):綴じ糸が切れ、綴じ部の折り山がずれていた。また括同士を繋ぐ部分の糸が切れたり抜けたりしていた。
修理後(右):括ごとに折り山を揃え、綴じのずれを整えて新調の絹糸で綴じ直した。
最後に「狭衣」には、付箋の貼り後と思われる糊の付着や不審紙の紙片が数多く見られました。これらは「狭衣」が使われてきた経緯を示すものであり、それ自体に歴史的価値を有していると考えられます。よって全て残して修復を完了しました。
修理前(左):付箋が貼られていた。先が折れ曲がりつぶれていた。
修理後(右):皺を伸ばし、活用の面などを考慮し内側に折り畳み収めた。
貴重書デジタルアーカイブでは、目視では見られない詳細部分を拡大機能により閲覧することが可能です。
現在「狭衣」も貴重書アーカイブにて一部を公開しています!
ぜひこの機会に「狭衣」を貴重書デジタルアーカイブで眺めてみてはいかがでしょうか?
<保存修復と『狭衣』に関する図書館資料>
■図書
- 小松茂美編集・解説 『伊勢物語絵巻 ; 狭衣物語絵巻 ; 駒競行幸絵巻 ; 源氏物語絵巻』中央公論社 , 1988年
- 池田寿著 『日本の文化財 : 守り、伝えていくための理念と実践』勉誠出版 , 2019年
- 文化財保存修復学会編 『何をどう残すのか?』クバプロ , 1999年
- 秋田貴廣編 『文化財保存学入門 : 感じとる智慧・つながる記憶』丸善出版 , 2012年
- 三浦定俊著 『古美術を科学する : テクノロジーによる新発見』廣済堂出版 , 2001年
- 国宝修理装潢師連盟編 『本紙のもつ情報』クバプロ , 2009年
- 彬子女王編 『文化財の現在過去・未来』宮帯出版社 , 2013年
- 森本和男著 『47都道府県・国宝/重要文化財百科』丸善出版 , 2018年
- 飯倉洋一編 『アプリで学ぶくずし字 : くずし字学習支援アプリKuLA(クーラ)の使い方 』笠間書院 , 2017年
- 田中鳴舟著 『知識ゼロからのつづけ字・くずし字の書き方』幻冬舎 , 2011年
- 佐藤優監修 『一生モノの教養が身につく世界の古典 必読の名作・傑作200冊』宝島社 , 2020年
- 斎藤茂太著 『悩む人ほど強くなる:神経質を喜べ』 小学館 , 2018年
- 内藤誼人著 『図解身近にあふれる「男と女の心理学」が3時間でわかる本』明日香出版社 , 2018年
- 大塚ひかり著 『快楽でよみとく古典文学』小学館 , 2010年
■参考図書
- 京都府文化財保護基金編 『文化財用語辞典』第一法規出版 , 1976年
- 文化庁文化財保護部美術工芸課監修 『文化財保護行政ハンドブック 』ぎょうせい , 1998年
■電子ブック
- 森本和男著 『47都道府県・国宝/重要文化財百科』丸善出版 , 2018年
掲載日:2021年7月26日