Q.大学院に進学しようと思ったきっかけは?
A.高校までの勉強はどうも苦手で熱心に取り組めなかったのですが、大学で社会学や文化人類学、民俗学などの授業を受けるなかで、学問に魅力を感じるようになりました。特に当時、西山茂先生(現在、東洋大学名誉教授)が担当されていた「宗教社会学」を受講した際、それまで「怪しいもの」「怖いもの」といった感覚で捉えていた新宗教が研究の対象となるのだとわかり、世界の見え方が変わるような感覚を覚えました。確かその頃(学部の2年頃)、大学院への進学を意識し、実際、学内の大学院進学説明会にも足を運んでいたように記憶しています。その後は、大学を休学してIターン(地方移住)事業に参加したり、公務員試験の勉強などもしたりしてみたのですが、大学院に進学し、もっと学びを深めたいという思いがむしろ強まりました。そこで学部4年のときに大学院の授業(ゼミや原書講読)を受講したことで、先生方や院生の先輩方と交流させていただく機会を得ました。そうしたことを通して、大学院生活の具体的なイメージが湧き、進学を決定しました。
Q.大学院進学について誰かに相談しましたか。また、周囲の反応はどのようでしたか。
A. 学部時代のゼミの先生、そして院進学後に指導をお願いする予定の先生、そして両親などに相談しました。反対された記憶はありませんが、かといって勧められた覚えもありません。
Q.東洋大学を選んだ理由や選ぶにあたって重視した点があれば教えてください。
A. 指導をお願いする先生の研究領域と自身が調査・研究したいテーマがどれほど合致しているかという点は当然考慮に入れました。ただ今振り返ってみますと、実際は前述したとおり、学部4年のときに大学院の授業(原書講読、院ゼミ)を受けて、東洋大学大学院の雰囲気を知ることができたからというのが最も選択に影響を与えていたように思います。
Q.入学してから感じた本学大学院の魅力や研究室の仲間とのエピソードなどがあれば教えてください。
A. 共同研究室の存在(特に博士前期課程では)は大きかったように記憶しています。少なくとも当時は、曲がりなりにも院生の自治によって共同研究室が運営されており、学生運動の残り香を感じさせる雰囲気がありました。大学院時代は授業後に有志で頻繁に飲みに行ったのも懐かしい思い出です。また文化人類学ゼミでは年に一回、先生方とともに熱海や益子、周防大島などに赴き、合宿を行っていました。研究報告があるので緊張感をともないつつも、現地で先生方や他の院生がフィールドワークをする姿を見られるのが新鮮で、とても貴重な機会でした。
Q.大学院生活の中で辛かったことや研究する中で大変だったことはありますか?
A. 日本学生支援機構の奨学金を借りたり、学内バイトをしたりしながら生活費を捻出していたので、経済的には辛い時期でした。ただし研究については学内の研究助成(井上円了記念研究助成)や学外(民間)の研究助成に助けていただいたおかげで、研究費で苦労することは幸いありませんでした。経済面以外でも色々と大変なことはありましたが、特に博士論文を執筆していた時期は精神的にも苦しかったです。ほとんど常に頭の中で博論のことを考えながら生活していたといっても過言ではなく、その割になかなか上手くまとめることができませんでした。何とか博論はかたちにしましたが、もっと精緻な分析や考察をすべきだったという後悔がないわけではありません。
Q.研究が煮詰まったときは気分転換にどんなことをしていますか?
A. 一人でいるときは、映画を観たり、散歩や買い物に出かけたり、時間があるときはやたらと凝った料理を作ったりしていたように記憶しています(今もそれほど変わっていません)。近くに先輩や同期がいれば、雑談を交えながら研究に関連するような話をすることで頭が整理されることもありました。もっとも、話をしていくと雑談がメインになりがちなのですが、それだけでも鬱屈した気分が和らぎ、もう少し研究を続けようかという気分になりました。
Q.執筆している論文の内容や受けている授業について教えてください。
A. 大学院時代は、朝鮮半島にルーツを持つ人々が中心となるキリスト教会(在日コリアン教会)の戦後における歴史的展開に注目し、そこからエスニック・チャーチ(民族教会)としていかに変容/継承しているのかを明らかにすべく、東京・大阪・広島の教会を調査し、そのデータをもとに論文を執筆しておりました。現在はそこから少し離れて、日本キリスト教界が在日コリアンを取り巻く社会問題に対していかに取り組んできたのか、その運動史の整理を行っています。
Q.既に修了してお仕事をされている方は、大学院での学びがどんな形で役に立っているかをお教えください。
A. 大学院修了後は、大谷大学真宗総合研究所東京分室のPD研究員として2年半勤めたのち、現在は日本学術振興会の特別研究員(PD)として研究を続けております。そのため、大学院時代の研究活動やその成果が、現在の経歴に直接結びついていると思います。
Q.普段研究をしている机について、こだわりポイントなどはありますか?
A. 自宅ではL字型のデスクを使用しています。マルチモニターを使用し、さらにスキャナーやプリンター、研究で用いる資料を広げるため、それなりの作業スペースが必要となります。L字型だとスペースが広いわりに、手が届く範囲にほぼすべての必要なものが配置できるので、気に入っています。
Q.普段の研究の様子について教えてください。
A.大学院時代(特に博士前期課程)はフィールドワーク中心の研究生活でした。調査先が荒川区の在日コリアン教会で、自宅からも大学からも都バスを使って一本で行けたので、2~3年は毎週のように通っていました。教会の礼拝に出席するほか、信者の方々とともに昼食を食べ、お話をうかがったり、聖書の勉強会に参加したりしてデータを収集しました。最近は1960年代から70年代にかけての資料を収集・分析することが多く、図書館や所蔵している施設で資料の閲覧・複写をしています。教団の機関誌や宗教系の専門紙の記事をひたすら読み続ける地味な作業ではありますが、想定外の「事実」を発見する瞬間がたまにあり、心が躍ります。
Q.大学に来る日のカバンの中身について、こだわりポイントや学部生時代との違いがあれば教えてください。
A.授業がある日は関連する書籍を、授業がない日は当日執筆等で必要になるだろう書籍を持ち運んでいたと記憶しております。大学院時代は共同研究室のPCをよく利用していたので、ノートPCはほとんど持ち歩いていませんでした。当時は大学から徒歩圏内の賃貸マンションに住んでいたので、書籍でカバンが埋め尽くされても、それほど苦ではありませんでした。
Q.学費の工面はどのようにしましたか。
A. 両親の理解があったため、博士前期課程の学費は実家から捻出してもらいました。博士後期課程は日本学生支援機構の奨学金などを活用しました。
Q.本学大学院を目指している受験生へメッセージをお願いします。
A. 私が在籍していたとき(2013〜2020年)と現在とでは、院生を取り巻く環境が少なからず変化していると思います。以前と比べ、経済的な支援が拡充している一方で、少なくとも私が所属していた専攻は、博士後期課程の院生がずいぶん少なくなったとも聞きます。私は人とのつながりで大学院時代を乗り切り、また現在もその縁で助けられております。大学院は学問と向き合い、少しでもそれに貢献するために日々研鑽を積む場ですが、伴走者がいるとそれだけで励みになることもありますし、時には助け合うこともあります。自身の関心と東洋大学の環境がマッチしているかという点はもちろん重要な要素ですが、同時に院生の規模や雰囲気なども事前に調べられるのであれば調べておくに越したことはないと思います。ぜひ様々勘案したうえで、後悔のない選択をしてください。
プロフィール
2020年に東洋大学大学院社会学研究科社会学専攻博士後期課程を修了。専門は宗教社会学、特に「移民と宗教」研究。現在は日本学術振興会特別研究員(PD)のほか、東洋大学で2部「宗教社会学」を担当するなどしている。
掲載されている内容は2024年6月現在のものです。
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