教員からのメッセージ

TOYO PERSON
Q.教員としてご自身の専門分野を踏まえ、「研究者として研究」することの意味とは?

私の専門はスポーツ科学領域のアスレティックトレーニング学という分野になります。具体的には競技力向上とスポーツ外傷・障害予防の側面からアスリートのコンディショニングに関係している内容で、最もスポーツ現場に近い研究分野のひとつです。そのため多くの場合、実験室でデータを取るというより、スポーツ現場に出向いて実際の現場で起きていることを対象に調査や測定などを行なって研究を進めていきます。
私の専門領域において研究者として研究することの意味は、スポーツ現場に貢献することと考えています。具体的にはスポーツ現場の指導者、選手が競技力向上とスポーツ外傷・障害予防の問題解決のために求めている情報を提供できることと考えています。
そのため、研究した結果を一方的に伝えるだけでは本質的な意味でスポーツ現場に貢献できる研究とはならず、研究を通してお互いの立場で意見交換できるところまで完了して実際の現場に役立つ研究としての意味があります。スポーツ現場と協働した研究がこの分野の研究として大きな役割であると考えています。

Q.教員としてご自身が、研究者になった経緯をご紹介ください。

大学教員となる機会を得て、研究に携わるチャンスがきたことがきっかけですが、本当の意味でスポーツ科学の研究者として立場を意識し始めたのはつい最近です。大学教員になる前はアスレティックトレーナー、コンディショニングディレクターという立場でスポーツ現場に立っていました。その時は、研究に対してポジティブな印象はなく、スポーツ現場での活用は実際難しいという印象でした。そのため、「研究のための研究」ではなく、実際のスポーツ現場で活用できる「現場のための研究」があったらいいなと思っていました。その経緯もあって、実際の現場にヒントになったり、活用しやすい実践研究、症例研究を大事にしています。

Q.教員としてご自身のご専門分野について、現在までにどんなテーマを研究されているのかご紹介ください。

元々私もアスリートで、非常にけがが多く、けがからの復帰に大変困ったという経緯からアスレティックトレーナーを目指しました。そのため、研究もスポーツ外傷・障害予防領域の研究に携わってきました。具体的に私の場合はテニスにおいて多く起きるけがを調査し、実際に最も発生率の高い足関節捻挫に関して、テニスのプレー中のどの場面で起き、その際に足関節にどのようなメカニカルストレスがかかるのかを調査しました。最終的には、調査結果から明らかになったメカニカルストレスで起きる足関節捻挫に対しての予防トレーニングを提案し、その有効性を検討するという流れで研究を進めてきました。
その他、けがからの復帰のためのトレーニングの症例報告であったり、最近は、けがのみではなく、アスリートの健康問題として注目されている相対的エネルギー不足 Relative Energy Deficiency in Sport (RED-S)に対しての予防を提案する研究にも取り組んでいます。

Q.研究者として、つらかったことや、嬉しかったことは?

スポーツ現場でどんなにアスレティックトレーナーやコンディショニングディレクターを経験していても、研究の作法を知らないとなかなか研究ベースで物事を展開できません。その作法を会得するまで時間を要したことが大変でした。具体的には、修士も博士も働きながらでしたので、なかなか時間の確保が難しかった点です。
嬉しかったし、辛かったことは、博士課程を修了した後にニュージーランドで1年間研究のためだけに時間をいただいたことです。研究のことだけをじっくり考える時間を初めて与えてもらったことに感謝しました。と同時にスポーツ科学研究のグローバルスタンダードと自分のレベルの違いを思い知らされた時は辛かったですね。しかし、その思いが、自分の頑張りの原動力にもなっています。今はまだ、辛い最中ですかね。

Q.大学院で学ぶことの魅力とは?

知らなかったこと、理解できていなかったことがまだまだ沢山にあることを認識できる。できなかったこと、知らなかったことを解決して、自身の可能性を伸ばすことにトライできることだと思います。
私の専門領域は応用分野の学問であるため、本来であれば、基礎学問となる解剖学や生理学が理解できている必要があります。しかし、学部時代にはその基礎学問とトレーニングや外傷・障害予防などの応用学問領域をリンクさせて考えることができない、もしくは、その時間が十分に取れないようです。大学院で学ぶということは自身で研究をデザインしていくこととなりますので、その基礎学問の理解度が試されることにもなります。そういう意味では、基礎学問の理解と現場で起きている問題をリンクさせて考えることができるようになり、スポーツ現場のためになる研究に従事し、自身も成長することができることが魅力ではないでしょうか。

Q.大学院で学びを考えている受験生にメッセージを一言。

専門的な分野で理論的に物事を考え、思考する能力を養うことはもちろんですが、その能力は人生においても活用できます。教えられる、与えられるという学びではなく、自身で課題を見つけ、その課題解決に取り組んでいく思考が身につくはずです。
特に私の専門領域の学問は常に現場から学びを得ることが多い領域です。スポーツ現場で試行錯誤している指導者、選手と協働してスポーツ現場への貢献を目指す方は、ぜひ大学院での学びを検討してみるのも選択肢として良いのではないでしょうか。

プロフィール

氏名:岩本 紗由美(いわもと さゆみ)
経歴:
現在 東洋大学大学院 准教授
1990年 武庫川女子大学 文学部卒業後一般企業にて勤務
1997年 筑波大学大学院 体育研究科 修士課程修了後本格的にプロのアスレティックトレーナー、コンディショニングディレクターとして活動 その間、プロアスリート(野球、ゴルフ、テニス、競輪)や実業団(陸上競技、バレーボール、バスケットボール)などのフィールドで活動
2005年 東洋大学 ライフデザイン学部 健康スポーツ学科 准教授
2011年 早稲田大学大学院 スポーツ科学研究科 博士後期課程修了 博士(スポーツ科学)
専門:アスレティックトレーニング学、コンディショニング論
著書:
テーピングの基礎の基礎(2010年)など

掲載されている内容は2018年10月時点のものです。