Q.教員としてご自身の専門分野を踏まえ、「研究者として研究」することの意味とは?
超高齢社会となった日本、急速に高齢化が進むアジア諸国、人口増加が続く世界と今後の世界中で高齢者人口が増加することは明らかです。その先頭を走る日本がどのような対策をとるかを世界が注目しているわけですが、一人一人が望んでいることを一言で言うなら「元気で長生き」だといえると思います。広い意味でみんなが「元気で長生き」し、自身が望む人生を送るための一助として運動やスポーツを通じて貢献したいと考えています。身体を動かすと身体にどのような変化が起こるのか、なぜ運動が身体に良いのか、メカニズムを研究する学問も重要です。しかしながらメカニズムが分かれば実行するか、というとそうとは限りません。大半の人はなかなか実行しないし、習慣となるのはその先です。東洋大学の大先輩が「わかっちゃいるけどやめられない」と仰っていますが、「分かっただけでは続かない」ことも多くの人が体験することだと思います。私の研究ならびに研究分野は人生・生活に密着した学問だと考えています。特に健康寿命と関連の強い転倒予防、今後は認知症予防に繋がる運動プログラムの研究並びに習慣化に繋がる方法を研究テーマとしています。研究者として研究することを通じて目の前の人(達)に貢献するだけではなく、自分の研究を発表することを通じて「元気で長生き」を望む多くの人(社会)に貢献できることが魅力だと思います。
Q.教員としてご自身が、研究者になった経緯をご紹介ください。
私の出身学部は工学部です。エンジニアを目指して工学部に入学しましたが、人とは違ったことがしたいという気持ちも持っていました。学生時代にも運動部でスポーツを続けていたことが重なり、勉強していた化学を基本に身体のしくみを研究することを職業としたいと思うようになりました。在学中の後にメンターといえる先生達との出会いがその気持ちを後押しして頂いたと思っています。大学院では運動生理学研究室に所属し、筋代謝をテーマとしていました。その後研究機関に職を得た際、上司から「ここは大学とは違って研究だけなのだから二つの分野を研究する、個人のテーマとともに日本の高齢化に貢献するテーマをチームでやりなさい」といわれて取り組んだ研究が今に繋がっています。
Q.教員としてご自身のご専門分野について、現在までにどんなテーマを研究されているのかご紹介ください。
高齢期において日常生活を人に頼ることなく送る上で必要とされる身体能力を維持するために有益な運動プログラムの開発、適切な実施頻度の検討を行ってきました。以前は加齢に伴って低下する筋力を向上させるには特別なトレーニングが必要と思われていましたが、自宅でもできる運動で可能なことを示しました。ところが追跡研究を行ったところ多くの人が運動を止め、それに伴い向上した筋力が元に戻ってしまうという結果を得たことから習慣化をもたらす方法について行動科学を踏まえながら研究しています。さらに現在は
- 転倒予防運動プログラムの開発
- 運動プログラムの地域展開方法の検討
- 世代間交流による運動実施がQOLに及ぼす影響
と、人との交流がもたらす効果も明らかとしたいと考えています。
Q.研究者として、つらかったことや、嬉しかったことは?
以前は実験室でマイクロピペットを扱うミクロレベルの研究を行っていました。研究には再現性が重要です。再現性がある実験方法を確立する過程では試行錯誤の連続で得られてた数字に自信を持てない期間が数年ありました。その間に考えた、学んだことは当時は分かりませんでしたが今考えると多面的にデータを考えられるようになるためのトレーニング期間だったと思えます。研究者としての喜びの一つは発表した論文が他の研究者に引用されること、それから始めて挨拶した人に、あの論文の著者ですね、と言われる時でしょうか。それ以外にも体操を一緒にした参加者の方からコメントをいただける機会はうれしい時間です。
Q.大学院で学ぶことの魅力とは?
○○を学びたいと思って入学されるのだと思いますが、単に疑問に対する答えを得るだけではなく、教員や院生間で意見を交換することを通じて自分が持っていなかった視点を得て、将来にも役立つ「知の越境」を経験する場となることが魅力だと思います。
Q.大学院で学びを考えている受験生にメッセージを一言。
大学院は今までの自分の棚卸しと引き出しの整理を行い、さらに引き出しを増やす場ではないかと思います。日本人は一つのことを突き詰めることを美徳とする傾向が残っていますが、新しい時代を迎える現代はむしろ多様な経験と専門分野を異にする方との交流を通じて「越境する」ことを怖がらない柔軟性が大切なのではないでしょうか。
プロフィール
氏名:神野 宏司(こうの ひろし)
経歴:
現在 東洋大学大学院ライフデザイン学研究科 健康スポーツ学専攻(修士課程) ヒューマンライフ学専攻(博士課程)教授
1987年 愛媛大学工学部工業化学科 卒業
1989年 順天堂大学大学院体育学研究科 修了
2002年 順天堂大学より博士(医学)
(財)明治安田厚生事業団体力医学研究所 研究員、副主任研究員を経て
2005年 東洋大学大学院ライフデザイン学部 健康スポーツ学科
専門:健康増進科学 運動疫学 健康教育学 公衆衛生学
著書:
「21世紀の予防医学・公衆衛生」(2008) 共著
「行動科学を活かした身体活動・運動支援」(2006)共訳 など
掲載されている内容は2018年10月時点のものです。
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