Q.教員としてご自身の専門分野を踏まえ、「研究者として研究」することの意味とは?
本質的な問題を問い続けること
主としてアフリカにおける資源富裕国の経済開発に関わる研究をしてきました。大学院生時代はマグレブ(北アフリカのアルジェリアやモロッコ、チュニジアなど)諸国の産油経済や発展途上国の経済分析をしていました。北アフリカ諸国の経済研究を続けるなかで54カ国(西サハラを含めると55カ国)もの国々を抱えるアフリカには、石油や天然ガス、そして鉱物資源が豊富な国々も少なくないことに注目するようになってきました。しかしながら、そうした資源富裕国であったとしても、その国に暮らす国民の生活が豊かかというと、そうではない。植民地独立から半世紀以上も経過した現在でも、政治的な不安定性や紛争・テロ、そして貧困問題などを抱えていることがわかってきました。むしろ、資源が豊かだからこそ紛争やテロが発生したり、政治経済構造に歪みが生じたりと様々な問題を抱えている。なぜそのような構造的な問題が生じてしまうのか。報道やメディアでは一時的な現象を追って称賛したり悲観したりすることが多いなかで、長期的・巨視的な視線で経済の本質的な問題を問い続けることが研究者として果たすべき役割だと思っております。
Q.教員としてご自身が、研究者になった経緯をご紹介ください。
若いときの経験を大切に
大学に入学してすぐにヨーロッパへ短期の語学留学をしました。そのときのフランス国籍の友人が、実はアフリカ(北アフリカ)出身の移民2世であったり、パリにはアフリカ出身の労働者がいたるところで働いていたりなど、その頃の自分が抱いていたヨーロッパに対する世界観が大きく変わった経験をしました。その後、学生時代を通じて中東・アジアを中心に放浪するうちに、世界のことをもっと知りたいという欲求が強くなっていったのを覚えています。大学院に在籍中には、アフリカのマダガスカルからの留学生と同じ研究室に在籍していたことで、アフリカについて議論する日々を過ごすことになりました。そうした経験をもとに、発展途上国に住む人々がなぜ貧しい生活を強いられているのかを追求したいという気持ちが芽生え、研究者としての道を志しました。
Q.教員としてご自身のご専門分野について、現在までにどんなテーマを研究されているのかご紹介ください。
アフリカ地域の資源開発(石油・天然ガス、鉱物資源)、紛争問題
主にアフリカ地域の資源開発(石油・天然ガス、鉱物資源)や紛争・安全保障問題を理論・実証的な見地から研究をしています。特定地域に限定せずに発展路上諸国に共通して見られる開発問題に関心を抱いています。ここ数年は、エネルギー資源(石油・ガス)開発、特に新興産油国の開発初動段階における制度基盤形成プロセスに焦点を当てた研究をおこなっています。石油資源開発に関する研究では、レンティア国家の制度的特色(非民主的統治体制、隠匿性等)やその特殊な経済構造(オランダ病、資源の呪い仮説等)に関連する分析を重視されており、当然のことながら既存産油国の問題を分析対象としてきました。これに対して、現在おこなっている研究では、油田開発の初期段階に位置するアフリカの新興産油国の政治経済構造を分析の対象にしています。すなわち、資源が未発見であった貧困国が、資源採掘が進み産油国へと移遷するなかで、どのような制度設計が実施され、それが将来産油国へ発展したときに経済構造にどのような影響を与えることになるのか、その因果関係を明らかにしようとしています。
Q.研究者として、つらかったことや、嬉しかったことは?
世に問うことの難しさ
自らの研究成果を学会や著作物として世に問うということは、多くの方々からの意見や反応を得ることができる貴重な機会であり、そこに大きな喜びを感じております。同時に研究成果を世に問うに至るプロセスには地道な作業と膨大な時間、そして執筆にかかわる多くの苦しみや挫折がつきものです。そうした苦しみに耐える力、自らの考えを表現し世に問うことへの責任感や使命感、若い頃に抱いた知的好奇心を持ち続けることが研究者には求められていると思います。
Q.大学院で学ぶことの魅力とは?
主体的に研究する楽しさ
研究者としての道のりは平坦ではないのです。しかし、いかに長い、辛い道のりが待っているとしても、勇気をもって最初の一歩を踏み出すことが何よりも重要であることを実感しています。大学院は、研究者として必要な基本的な学問的知識や方法論を学ぶ貴重な時期であると思います。また、大学院では主体的に研究することの意義を最初に学ぶ場であると思います。指導教授とはもちろんのこと、同じ志を持った同窓生と数多くの議論を重ねていくことで、自分の研究者としての立ち位置を明確にする絶好の機会であると考えています。
Q.大学院で学びを考えている受験生にメッセージを一言。
「回り道」も貴重な学修の場
研究者を志して大学院への進学を決めたのですが、実際には大学院を修了後、発展途上国への投融資調査をおこなうシンクタンクでの仕事に就いていました。当時、キャリア形成という意味では「回り道」をしているという気持ちがありましたが、その時期に発展途上諸国への投融資案件の実務に関わる仕事をしてきたおかげで、様々な国の政策担当者や実務家、現場の声を聞くことができました。そうした経験は、研究者になった後も様々な面で活かすことができていると実感しております。人生では「回り道」に思えるようなことも、実は自分にとって必要な修業期間であることが多々あると思います。大学院での学びを考えている学生には是非、視野を広く、柔軟な発想で研究に取り組んでいただきたいと思います。
プロフィール

氏名:吉田 敦(よしだ あつし)
経歴:現在、東洋大学大学院経済学研究科経済学専攻 教授
1997年3月明治大学 商学部商学科卒業。1999年3月明治大学大学院 商学研究科博士前期課程商学専攻修了。2001年9月Université Paris X Nanterre(フランス)国際経済学科DEA課程修了。2006年3月明治大学大学院 商学研究科博士後期課程商学専攻修了。博士(商学)。
一般財団法人 海外投融資情報財団特別研究員、千葉商科大学 人間社会学部勤務を経て、2022年4月より東洋大学経済学部。
専門:アフリカ経済、資源開発(石油・天然ガス、鉱物資源)、紛争
著書:『アフリカ経済の真実 資源開発と紛争の論理』(2020年)筑摩書房
掲載されている内容は2022年7月現在のものです。
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