リスクとリターンを経済学で解明する

TOYO PERSON
Q.教員としてご自身の専門分野を踏まえ、「研究者として研究」することの意味とは?

不確実な世界で生きている私たちの意思決定の意味と帰結を考える

経済学は、人々の行動に関する意思決定を体系的に分析する学問であると思います。中でも金融(ファイナンス)は異時点(現在と未来)間の取引を取り扱うことから、不確実性下(未来は常に不確実ですので)での意思決定、すなわちリスクがメインテーマとなる研究領域です。その核心は、リスクとリターンのトレードオフの関係に集約されます。伝統的投資とは異質なリスク・リターン特性をもつヘッジファンドに関心をもって研究しています。イノベーション、競争、市場創造のダイナミズムを起点に、ヘッジファンドは様々な投資行動を通じてリターンを創出しますが、同時にこれがキー・ドライバーとなって、国際金融市場ないしは金融システム全体における潜在的なリスクを内包する可能性があるのか、を検討しています。

Q.教員としてご自身が、研究者になった経緯をご紹介ください。

ふとした願いと幸運な出会いが今に至る

いつも好きなことを発見したり、疑問を見つけると時間を気にせずじっくり考えることが好きでした。学部時代のゼミでの学習や卒業論文を作成するうちに自然と企業への就職ではなく、大学院への進学を考えるようになりました。当時もいまと同じように教員採用への道は狭く、博士後期課程在学中は不安もありましたが学会発表等を重ね、幸いにも3年次終了後すぐに上智大学経済学部で非常勤講師としてキャリアをスタートすることができました。その後、三重大学人文学部に専任教員として採用され、現在の東洋大学経済学部に至っています。やはり何よりも研究者の道を歩むことができるようになったのは、大学院時代にご指導いただいた先生方との出会いに恵まれ、大きな影響を受けることができたことが大きかったと思い、心から感謝しています。

Q.教員としてご自身のご専門分野について、現在までにどんなテーマを研究されているのかご紹介ください。

リスクとは何か:分からないことだらけの興味尽きないテーマ

最初の質問で回答した内容と重複しますが、2003年にノーベル経済学賞を受賞したC.グレンジャーがRoyal Economic Society(英国王立経済学会)のAnnual Conference(年次大会)で行った講演で、「経済学とは意思決定科学である。」と述べたことがとても印象に残っています。ファイナンスのメインテーマであるリスクに焦点をあてて、国際金融市場や金融危機の研究をしてきました。ちょうど世界金融危機(2007-2009)が始まる2007年度に海外長期研究の機会が与えられ、ニューヨークのコロンビア大学に滞在しました。そこでリアルタイムで進行しつつある金融危機をテーマとした緊迫感のある教授たちの講義や研究発表に接するうちにヘッジファンドに興味をもち、研究テーマとするようになりました。

Q.研究者として、つらかったことや、嬉しかったことは?

若き日にしたいと思った仕事を続けられていること

現在の仕事への道筋を振り返ると、研究者・教員として研究や授業の“準備”をする時間がとても好きだったことに気づきます。研究では納得ゆくまで何度も検討を繰り返す根気強さが必要ですが、やがて新たな知見を得られたときには充実感を感じます。授業でも準備段階で受講している学生たちの顔を思い浮かべながら、1回1回の授業のトピックを切り出し、時間配分を検討しながら授業資料の作成と改訂に費やす時間が大好きです。何より学部時代に国際金融論の授業中にふと心に描いた(当時の世界3大金融市場のロンドン、ニューヨーク、東京に住みたいという)思いが、2回の海外長期研究で実現したことは嬉しい出来事でした

Q.大学院で学ぶことの魅力とは?

Something new(新たな知見)との出会い

社会は急速に変貌を遂げ、私たちは以前と比べられないほどの膨大な情報に接することができます。しかしその一方で、情報の洪水に流されることも多く、問題意識や疑問に正面から取り組み考え抜くことでしか、これまでの自分の常識や知識を超えた発見はできません。大学院は学生と教員が同じ目線で主体的な学びを議論の過程からともに行い、Scientific Method、すなわちResearch Questionを設定し、仮説構築、検証といったプロセスを経て、あらたな知見との出会いを経験してゆく機会を提供する場となっていると思います。

Q.大学院で学びを考えている受験生にメッセージを一言。

進学相談会にぜひご参加ください

経済学研究科では、日本の大学を卒業してきた学生さんや留学生、社会人と多様な方々が学んでいます。そうした皆さんの研究意欲の高さを日々実感しています。院生1人に2人の指導教員がつき、論文発表会を重ねることを通じて院生同士が切磋琢磨し、修士論文を作成してゆきます。大学院で学ぶ目的や卒業後の進路の希望は皆さんそれぞれと思います。大学院進学相談会が開催されていますので、ぜひご参加ください。

プロフィール

氏名:棟近 みどり(むねちか みどり)
経歴:現在、東洋大学大学院経済学研究科経済学専攻 教授
経済学修士(青山学院大学)。MSc in Financial Management (University of London)。上智大学経済学研究科博士後期課程単位取得満期退学。
三重大学を経て、東洋大学経済学部に着任。英ロンドン大学、米コロンビア大学客員研究員。
専門:国際金融、ファイナンス

掲載されている内容は2022年7月現在のものです。