For Alumni 活躍する卒業生#01 真言宗御室派総本山仁和寺 財務部 管財課長・学芸員 朝川 美幸
活躍する卒業生 #01
受け継がれてきたものを、次の世代へ。
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真言宗御室派総本山仁和寺
財務部 管財課長・学芸員
朝川 美幸
Profile
あさかわ・みゆき/文学部印度哲学科(現 東洋思想文化学科) 1994年卒業
1971年生まれ。福島県双葉町で育つ。東洋大学卒業後、京都・仁和寺に学芸員として着任。以来、同寺が所蔵する10万点以上の古文書や美術品の管理、調査研究、展示企画などに長年携わり、文化財を未来へと繋ぐ役割を担っている。東日本大震災以降は、出身地である福島県を中心に被災文化財の保全活動にも取り組み、古文書の搬出や修復、記録作業を継続。「文化財は一度失われると元には戻らない」という信念のもと、地域の歴史を後世に伝える活動を続けている。共著に『もっと知りたい仁和寺の歴史』(東京美術)がある。
仁和寺
886年(仁和2)、光孝天皇の発願、888年(仁和4)に宇多天皇により完成。真言宗御室派総本山。1994年(平成6)12月「古都京都の文化財」として、「世界遺産条約」に基づく世界文化遺産に登録された。![]()
原発事故への問いが、学芸員への道に繋がった
私は福島県の双葉高校に通っていました。ちょうどその前に、発電所での事故※があり、当時の先生に、「こういった事故が起きたとき、自分たちに何ができるかを考えておく必要がある」と言われたのを覚えています。私自身にできること、それはその町の歴史を残し伝えることだと考え、それを実践できる学芸員を目指すようになりました。学芸員になるためには、歴史を学んだ方が早いと思っていたのですが、双葉高校の教員で東洋大学出身の先生から『井上円了の教育理念』という本を貸していただいたことがきっかけで、哲学を学ぶ大切さを感じ、東洋大学への入学を決めました。
※1986年4月のチェルノブイリ原子力発電所事故
学生時代の経験が、今の仕事の土台になった
学生時代に経験したことで今の仕事に活きているのは、『東洋大学百年史』の編纂補助を行ったことです。資料に必要な情報を集めたり、過去の著作について調べるといった作業を担当していました。
仁和寺に就職してから本を作る機会があったのですが、自分でページ割りを考えたり、どういう誌面にすれば一般の方に手に取ってもらえるかを検討したりと、出版に関わる一連の工程を学ぶきっかけになったと思っています。また、井上円了哲学センター(旧 井上円了記念学術センター)では先生方の原稿の文字校正をする仕事もさせていただいていました。まさか仁和寺に来てから同じような仕事に携わるとは思っていなかったので、今、仁和寺で行っている仕事の一部を、その当時させていただいていたんだなと感じています。
“残す”だけではなく、“伝わる形” で未来へ繋ぐ。


自分ではなく、お寺にとって何が大事かを追い求めて
仁和寺では、文化財の管理・保全、調査研究などを行っています。例えば最近では、御殿にある北庭と呼ばれている庭の芝を張り替えたり、石組みが崩れている箇所の修繕を行いました。これがどう文化財保全に役立っているかというと、昔の写真や残っている図面を元に、当時の姿をできる限り忠実に再現することで、庭園本来の景観を未来に伝えることに繋がっているのです。その時代の人が見ていた景色を現代に持ってくることで、当時の人がどういった気持ちで眺めていたか、何を美しいと思っていたかを見に来た方に感じてもらえるように、修繕業者にこの庭の本来の姿を伝え、それを再現していただいています。
こういった文化財の保全活動を行う上で最も大切にしていることは、自分の思う美しさや価値観を求めるのではなく、仁和寺が大切にしている価値観とは何かを考えることです。自分が見て、このお庭の景色ってちょっとものが多いよなと思うときもあるのですが、お寺にとってみたらこの庭に何かを足したり引いたりしてはいけないものなんです。歴史を残し伝えていくということは、自分の価値観で行うのではなく、あくまでもお寺の価値観というものを考えた上で常に行動しなければならないものだと考えています。
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十万点を超える文化財を、守り、伝え、繋いでいく
仁和寺には十万点を超える文化財が所蔵されているのですが、これらを自分たちの世代で次へと繋いでいかなければ、失われていく一方なんです。実際、過去には戦乱や火災によって失われてしまったものも数多くあり、古文書の中には今も焼け焦げた跡が残る書籍や経典類があります。それらを一つひとつ修復していくことで、この先百年、さらにその先へと歴史を伝えていく存在へと生まれ変わっていきます。
ただ残すだけでなく、その歴史を多くの方に知っていただくために、一般の方に向けた展示も行っています。展示ではできるだけわかりやすい言葉で説明文を書き、さらにインターネット上では知ることのできない情報を必ず一つは盛り込むようにしています。「ここに来たからこそ出会える歴史がある」、そんな体験をお届けしたいという思いを込めています。
歴史を失うのは一瞬ですが、それはとても寂しいことだと感じています。だからこそ、仁和寺に残る十万点を超える古文書や典籍、書物類の修復や目録化を地道に進めながら、ひとつでも多くの歴史を次の世代へ繋いでいけたらと考えています。
Interview Movie
インタビューの様子を動画でもご覧いただけます。