For Alumni スペシャルインタビュー 漫画家 玖保 キリコ
スペシャルインタビュー 漫画家 玖保 キリコ
みんなそれぞれ違っていい
シニカルな作風で知られる漫画家・玖保キリコさんは、イギリス人のご主人と結婚後、ロンドンで暮らしています。
ちょっと里帰りした玖保さんに、大学時代の思い出や漫画家デビューのきっかけ、独特の視点で描かれる作品づくりのヒミツについてお話を伺いました。
Profile
くぼ・きりこ /文学部英米文学科 1982年卒業
東京都出身。1996年から家族とともにロンドン在住。代表作に『シニカル・ ヒステリー・アワー(白泉社)』 、『いまどきのこども』『バケツでごはん 』『ちょべりぶ』(以上、小学館)など。『キリコ・ロンドン』『中級キリコ・ロンドン』(以上、角川書店 )など 、ユーモアに富んだエッセイも発表している。
公式ホームページ「玖保倉庫」 https://kubokiri.com
絵を描き続けることで見つけた自分の世界
- 漫画家を目指されたきっかけを教えてください。
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小さな頃から絵本や漫画を読むのが好きだったんです。アイドルになるとか、科学者になるという夢のように、私はずっと漫画家になると言っていました。週刊マーガレットが好きで、特に忠津陽子先生の作品がお気に入りでしたね。でも、兄もいたし、年上の男の子の従兄弟もいたので、少女漫画に限らず、サンデーやマガジンなど、何でも読んでいました。
- ご自身で作品を描き始めたのは、いつ頃からですか?
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小学校の頃からです。私、クラスに一人か二人いる、絵の上手な子だったんです。コマ割りをして漫画を描いては、クラスみんなにぐるぐる回していました。漫画家になろうと思って、ひたすら絵を描いていました。
でも、暗い子どもだったと思います(笑)。中学生や高校生になって、いろんなことを考え始めるようになると、自意識との闘いがあり、いつも井戸の底から上を見上げているような気分でした。 - 大学は英米文学科に進まれましたね。
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高校時代もずっと漫画を描いていたので、周りの友人たちには、美大に行くと思われていました。英米文学科に進むと友人からも先生からも驚かれましたね。でも自分の中では、絵が学びの対象になることで、描くことを嫌いになるんじゃないかという想いがあり、美大受験は一度も考えなかったんです。
- どんな大学生でしたか?
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半端にまじめな学生でした。授業を休んでどこかに行っちゃうことができなくて、今日はサボるぞ!と決めて、休むような(笑)。当時は大学の近くの千石に、三百人劇場というミニシアターがあって映画を2本か3本立てで安く観られたので、よく通っていました。
サークル活動では、1年生の頃、付き合いで競技ダンス部に入ってみたのですが、予想以上に体育会系で。週に数回練習があって、土日はだいたい試合。これを続けていたら、漫画を描く時間がなくなると思ったので、1年で辞めました。そこからは、漫画を描くことに集中しました。 - 在学中、初めて『月刊LaLa』に掲載されたときのことを聞かせてください。
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在学中から、漫画雑誌に投稿していたのですが、自分で締め切りをつくって、2か月に1回送ることを決めていました。最初は少女漫画っぽい作品で応募していたのですが、時間がないときに短いギャグ漫画を描いたら、そっちの方が雑誌に載ることになったんです。8頭身の少女漫画でデビューするつもりだったのに(笑)。初めて雑誌に掲載されたのは、4年生の8月でしたね。
漫画家と会社員、二足のわらじを乗り越えて
- その後は、どのように漫画家への道を切り拓いていったのですか?
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大学時代はまだ連載も決まっていなかったので、卒業後は一般企業に入社。漫画家を目指していることを知っていた親からは「会社に迷惑がかかるよ」と、就職を反対されましたが、新卒採用で就職ができるのは人生で一度きりしかないと就職の道を選びました。でも、入社後に出版社の方が作品を気に入ってくださり、連載が決まったんです。そうすると、会社員と漫画家の二足のわらじになって寝る間もないくらい忙しくなって……。過労を理由に1年1か月で退職しましたが、会社の方は不思議だったと思います。「残業もしていないのに過労?」って。退職後は、2か月くらいずっと寝ていました(笑)。
連載が始まってからは、幸いなことに、お仕事をいっぱいいただけるようになりました。忙しくても仕事の種類が違うと息抜きになるので、通常の連載の合間に表紙を描くといったことをやったりしながら、仕事にバリエーションをつけて進めていましたね。あとは、休息のときも漫画を読んでいました。漫画を描く間に、漫画を読む生活でした。大島弓子先生や萩尾望都先生が好きで、今でも帰国するたびに読んでいます。 - 漫画家として順調なキャリアを積み重ねる中で、イギリス人のご主人とご結婚され、96年にロンドンに移住。不安はありませんでしたか?
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私は実家を出た後、都内で何度か引っ越しを繰り返していたので、イギリスに行くのも引っ越しの延長のような軽い感じで捉えていました。仕事に関しては自分が締め切りをきっちり守るタイプなので、イギリスに行ってもちゃんとできるという自信もありましたし。漫画はどこにいても描けるので、輸送手段があれば、どこでも住めるかなと。当時はまだインターネットが登場したばかりでFedExなどの国際輸送サービスを使って原稿を送っていました。今では、大容量のデータもインターネットで送れるようになり、編集自体もデジタルになったので、だいぶ楽になりましたね。
- 「海外移住」という気負いはないようですね。
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ロンドンで暮らし始めてひと月くらい経った頃に、突然ホームシックになった時期がありましたが、それも1か月くらいでおさまって、気づいたら、もうイギリス生活も30年近くになりますね(笑)。
人間観察から生まれるシニカルな魅力
- 次に、作品について聞かせてください。『いまどきのこども』『シニカル・ヒステリー・アワー』など、玖保さんの作品には共通して、シニカルな視点や独特のユーモアが感じられますが、作品のテーマはどこからくるのでしょうか?
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私は人間観察が好きなので、そういうのが反映されているのかなと思います。日頃から人をよく見ていて、例えば、バスや電車に乗るときは携帯を見ないで、目の前に座っている人が家に帰ってこれをして、これをするだろうな、というストーリーを適当に考えたりしています。その人が本当はどういう人なのかは分からないんだけど、想像するのが好き。だから、私が作品で描くのは、壮大なドラマではなくて、スケールの小さい話です。日々のちょっとした出来事を面白く切り取れたらいいなと思っています。
- 人間観察という話がありましたが、『くるまれてクリスチナ』では、スナックを舞台に、現代社会でどこか生きづらさを感じている人たちが描かれています。海外で暮らす玖保さんの目に映る、日本人の姿なのでしょうか?
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日本に限ったことではありませんが、今の若い人たちは、とても傷つきやすいと思うのです。何かを言われるとすぐに落ち込んでしまったり、私の時代に比べて、すごく繊細に感じます。インターネットの普及も大きな要因かもしれません。対面では言われなくても、別の形で情報が入ってきたりしますから。昔とは、いじめ方も違うと思うし、人とのやりとりも複雑で、デリケートになっている気がするのです。日本のSNSの記事で、「LINEをすぐに返さないのは礼儀知らず」というような内容が書かれていて、怖いなと感じました。そういう直接的ではないやりとりで、相手を怒らせてしまったかもしれない、嫌われているかもと考えて、くよくよしている人がいるのではないかなと思います。外から見ると些細なことなのですが、自分がいざ渦中にいると、やっぱり辛いだろうなと思うし、そういう意味で、今の時代は日本でも世界でも共通する人間関係の難しさがあると思うのです。
- そんな時代を生きる若者たちに、玖保さんはどんなメッセージを伝えたかったのでしょうか。
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みんなそれぞれ違っていてもいいんだよ、ということですね。ちょっと距離を置いてみたり、視点を変えることで、大したことないと思える悩みもあるので、なるべく生きやすい道を見つけてもらえたらなと思います。
漫画家としての使命と未来への挑戦
- デビュー以来、ずっと第一線で活躍されてきましたが、漫画家を続ける中で大切にされてきたことはありますか?
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頂いた仕事を期日通りに仕上げる。それを続けてきただけです。「これ私にできるかな?」と少し不安に思うような仕事が来ても、玖保さんならできると思って依頼されているのだから「できるはず!」と自信を持ってやってきました。あとは、やっぱり自分が本当に楽しいと思える仕事をしようと決めていましたね。
- 今後、挑戦されたいことは?
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もうこれ以上のものは描けないっていう漫画を描ければうれしいなと思います。毎回締め切りがあって作品を出しているので、もうちょっとうまく絵を描けていたらとか、もうちょっとこうしたかったというのが、後になると出てくる。「私の決定版」という感じで作品を描ききれる、そんな日が来るといいなと思います。
- 最後に、卒業生の方へメッセージをお願いします。
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私の時代と比べて、すごく大変な時代に在学・卒業している方が多いと思いますが、常に心は前向きに、未来を信じて、楽しい人生を送ってください。
Interview Movie
インタビューの様子を動画でもご覧いただけます。
玖保キリコさんの作品をご紹介
<最新作>
祖母姫、ロンドンへ行く!
椹野道流さんの『祖母姫、ロンドンに行く!』(小学館)が玖保キリコのコミカライズで配信予定!ワクワクの初めての原作付き漫画。
詳細は玖保のウェブサイト玖保倉庫https://kubokiri.com/をご覧ください。
いまどきのこども
小学館
小学生の日常を子ども目線で笑いと刺激たっぷりに描く! 子どもにだっていろいろドラマがあり、大人の世界と共通するものもたくさんあることを忘れちゃいけない。
シニカル・ヒステリー・アワー
白泉社
ツネコちゃん、キリコちゃんほか子どもたちのシニカルな視線を通して描く不条理体感ギャグ。理屈抜きのかわいさ、おかしさで日常の過激な混沌を鋭く斬る!?
バケツでごはん
小学館
動物園の動物たちは実は秘密の地下鉄で動物園に通ってきていて、動物園は彼らの職場なのであった! 動物たちも職場での動物関係と私生活の動物関係、親子関係の悩みや葛藤があり、動物を使って人間社会を風刺していく。
進め!カンデム地球防衛隊
白泉社
電子書籍オリジナル作品! ちょっと未来のとある国の幼稚園。両親が共働きで忙しいハナは、優しいくまのロボットシッター、くま吉と過ごす毎日。ある日、ハナは幼稚園のお友達と一緒に、あらゆる悪と戦う地球防衛隊を立ち上げた! ハナたち5人が、今日も悪を退治する!
ヒメママ
マガジンハウス
ごく普通の庶民なのに、わがままで「お姫様のような姑=ヒメママ」リサ。嫁姑バトルはもちろん、息子と孫まで巻き込んだどたばた騒動満載。ワガママで憎らしい、でもどこか憎めないリサを巡る物語。
三匹、おうちにいる
文芸春秋
電子書籍オリジナル作品! 登場するのは、ちょっぴり慌て者の母・ケロコ(カエル)と、いつでも冷静父・ドック(犬)、そしてとってもマイペースな息子・トンキー(こぶた)の三匹動物家族。「ピクニックに行っても、やってることは家の中と同じ!?」「親のセリフをまねする子どもにドキッ」「大人には分からない、子どもたちの摩訶不思議な遊び方」など、あるあるネタ満載。
くるまれてクリスチナ
自由国民社
自分への自信がちょっと足りない“うさみみ”こと宇佐美美恵子が着ぐるみスナック“クリスチナ”に迷い込み、肩書きや地位とは関係のない人間関係の中でさまざまな人と出会うことで、弱っていた心に潤いをチャージして、元気を取り戻していくストーリー。