For Alumni 頂点からの景色を知る者たち 御嶽海 久司×若隆景 渥
相撲部OB 対談
頂点からの景色を知る者たち
3度の幕内優勝経験を持ち大関まで昇り詰めた御嶽海関と新関脇となった場所でいきなり幕内優勝を果たした若隆景関による東洋大学相撲部OB対談が実現。同時代を過ごした大学の相撲部での思い出や互いの印象など、ここでしか聞けないトークは必見です。
Profile
(左)若隆景 渥
わかたかかげ・あつし/法学部企業法学科 2017年卒業
福島県出身。本名・大波渥。祖父の代から続く相撲一家に育つ。本学相撲部4年時には副主将を務め、全国学生相撲選手権大会団体戦で優勝、個人戦で準優勝し、卒業後に荒汐部屋へ入門。2017年3月場所にて3段目100枚目格付け出しで初土俵を踏む。東関脇に昇進した2022年3月場所にて初優勝を果たす。過去最高位は関脇。
(右)御嶽海 久司
みたけうみ・ひさし/法学部企業法学科 2015年卒業
長野県出身。本名・大道久司。小学生の頃から相撲を始め、卒業後に出羽海部屋へ入門。本学在学時は、力強い突き押しを武器に、個人タイトル15冠。全国学生相撲選手権大会や全日本相撲選手権大会を制覇した。2015年3月場所にて幕下10枚目格付け出しデビューし、21場所目となる2018年7月名古屋場所で初優勝を飾る。2022年1月場所にて3度目の優勝を果たし、大関へと昇進。過去最高位は大関。
御嶽海 「とんがって生意気な後輩だった」
若隆景 「頭ひとつ抜けて強い、雲の上の存在」
大学時代はお互いにどのような印象をお持ちでしたか。
御嶽海 2学年下の後輩で普段はアツシと呼んでいるんですが、生意気な後輩でした(笑)。私もそうでしたけど高校ではトップの実績があって大学に入ってきたのでとんがってましたね。
若隆景 そんなことないですよ(笑)。御嶽海関はやはり強い人という印象が残っていますね。大学入学前から試合を見ていましたが、1年生のときから全国大会で優勝されたりしていて、「どうしてこんなに強いんだ」と思っていました。
御嶽海 いつも真面目に練習に取り組んでいて相撲が好きなんだというのは伝わってきましたね。強くなるだろうなぁと思っていましたけど、当時はまだ身体が本当に細くて。アツシからプロの世界に入りますと聞いたときも「お前じゃ細くて無理だろう」と本人にも伝えたくらいです。
若隆景 昔から太りにくい体質で、練習よりも身体を大きくするための食事の方がしんどかったですね。大学に入学してもまだあばら骨が浮いて見えるくらい細かった。稽古場でみんなでちゃんこを食べるんですが、御嶽海関にもよく「そのあばらが見えなくなるくらい早く肉をつけろ」と言われたのを覚えています。
御嶽海 細かったので何かお願いするにも俊敏に動けたから、寮でも同部屋に指名してね(笑)。もちろん有望株であり、育てられるなら育てたいという想いはありました。
若隆景 基礎的なトレーニングに少し変化を加えながら指導してもらった記憶がありますね。四股を踏むにしても普通とは違う動作を入れたり、摺り足をするにしても重りをつけたりと。
御嶽海 誰よりも基礎運動を大切にしてここまで強くなってきたという自負があるので。基礎は絶対に嘘をつきませんから。
若隆景 御嶽海関はレギュラーの中でも頭ひとつ抜けて強かったですね。大会でも周りがアップを始める中、ひとり日向ぼっこをしたり、後輩と談笑したりしていて、それでも優勝して帰ってくるんですから。
御嶽海 個人的にはリラックスした雰囲気からパッと切り替える方が性に合っていて。人間の集中力は何時間も持ちません。大会は1日がかりのものもあり、ずっと気を張ると疲れちゃいますから。これはプロの世界に入った今でも変わらない考え方ですね。
御嶽海 「本当に気持ちの強い力士だと思う」
若隆景 「絶対にもう一度土俵に戻るという気持ちしかなかった」
大学時代に印象に残っていることはありますか。
御嶽海 進路を決めた瞬間ですかね。もともとは角界入りする気はなく和歌山県庁に内定をもらっていました。ただどこかでまだプロを目指して努力したいという気持ちもあり…。11月のインカレ個人戦で優勝すれば格付け出し資格を得られるということで、文字通りすべてをかけて臨んだ大会でした。「自分は最強だ。天才だ」と言い聞かせながら使命感にも近い気持ちで挑み、無事優勝することができました。
大学の先輩が角界に入られる姿を見て若隆景関も影響を受ける部分はありましたか。
若隆景 当時は御嶽海関と比較できるほどの実力が自分にはまだなかったのですが、学生相撲出身の力士が増えてきた時期だったので、私もプロでやってみたいと思うようになりました。実業団からの勧誘などもありましたが、4年生のインカレで格付け出し資格を得られたらプロの世界に行こうと思っていました。結果的に団体戦で優勝、個人戦で準優勝することができたのですが、実はインカレの1か月前に足首の靭帯を断裂し手術を受けていて…。何とか試合に出られるコンディションを取り戻そうと必死でした。
お二人とも怪我を何度も経験されていますが、どのように怪我と向き合ってきたのでしょうか。
若隆景 2023年に右膝の靭帯と半月板を損傷する怪我を負って長期休場となりました。やはり怪我をした直後はグッと気持ちが沈む日や、焦り・不安に襲われる日もありました。それでもやっぱり一つひとつリハビリをやり始めたら「絶対に土俵に戻ってやる」という気持ちを常に持って怪我と向き合おうとしていました。
御嶽海 アツシは痛みを感じてないんじゃないかと思うほど心が強い。私はもう敏感すぎてちょっとした擦り傷でも触られたくないですよ(笑)。相撲人生を振り返っても自分自身ではうまく怪我と付き合ってこれたとは思ってないですね。アツシは長期休場の間に一度幕下まで番付が下がってしまった。人によっては力士を辞めるきっかけになってもおかしくない訳で。
若隆景 辞めようと思ったことは全くありませんでしたね。やっぱり相撲が好きですし、同じような番付で戦っていた力士たちが大関に上がった姿を見たときに「負けたくない」と闘争心が沸いて、早く土俵に戻りたいという一心でした。久々に稽古ができるようになったときにはみんなの輪の中に入れることがすごく嬉しくて。稽古の量は制限していましたが、徐々に復帰に近づいているという充足感がありました。
御嶽海 アツシだったら大丈夫だろうと思っていました。インカレのときも足首を怪我して復活してきた姿を見ていましたから。ただ今回怪我をした膝というのは、力士への負担が大きく、復帰しても自分の相撲を取れなくなる人も多いので、そこだけは心配でしたね。それでもまた幕内上位まで番付を上げてきましたから、本当に気持ちの強い力士だと思います。
幕内優勝の経験があるお二人ですが、優勝を経験することで何か変化が生まれたことはありますか。
若隆景 私は一度しか優勝していないので先輩にお任せしようかな(笑)。
一度優勝するだけでも大変な世界だとは思いますが…。
御嶽海 学生相撲などで何度も優勝してきた人にとっては、一度優勝するだけなら難しいことではないと思っています。ただ大関以上の番付を目指すことは本当に難しい。大関になるためには3場所続けて結果を出し続ける必要がありますから。私は目の前の一番に向けての集中力はあるのですが、逆に気が抜けるとそのままズルズルと負けることもあるタイプ。3回優勝したものの連続で優勝することはやはり難しいですね。結果が出ないと周りからの批判や同情の声も聞こえてくるのでうまく聞き流すなど、気持ちの整理も必要になってきます。
若隆景 私の場合は優勝できると思っていませんでした。場所前の稽古でも決して調子が良かった訳ではなかったですし。それでも結果として優勝できたことで自信にはなりましたし、次も二桁勝たなければという責任感も芽生えたと思います。ただ当時はコロナ禍だったのでお客さんも半分程度しか入っておらず、パレードもできなかったので、今度は盛大に祝ってもらえるよう、もう一度優勝しなければという思いですね。
御嶽海 会場に集まった多くの人が自分のためにこんなに盛り上がってくれている瞬間は、やはり他では味わえない気持ちよさがありますからね。
4年時にインカレ団体優勝を決める若隆景(写真右)
全日本選手権大会決勝戦の御嶽海(写真右)
御嶽海 「相撲が好きでいられるうちは頑張りたい」
若隆景 「怪我をする前より強くなったと言われるように」
お二人の考える相撲の魅力とは何でしょうか。
御嶽海 裸でぶち当たる男の勝負じゃないでしょうか。武器も持たないで自分の生まれ持った強さと才能で戦えるのが相撲ですから。男を磨くなら相撲ですね。
若隆景 「小よく大を制す」と言いますが、自分自身も大相撲の中では小兵の部類に入ります。大相撲には体重ごとの階級はありません。小さい力士が大きい力士を倒すというのは相撲の魅力のひとつだと思いますね。
お二人の今後の目標について教えてください。
御嶽海 自分も33歳になって上は大関、下は十両に落ち得る番付までさまざまな経験をしてきました。まだ現役でやっていけるという思いがある一方で、この先の未来も考えなきゃいけない年齢ではあります。だからこそ自分の身体が相撲を好きでいられるまでは、しっかり相撲と向き合って、未来のことは一度忘れて相撲を取りたいですね。
若隆景 怪我で幕下まで落ちたあと小結までは番付を上げることができました。三役に定着して怪我をする前よりも強くなったと言われるような相撲を取っていきたいですね。
読者の方へメッセージをお願いします。
御嶽海 東洋大学相撲部から何人も角界に入って活躍している状況は今までにありませんでした。東洋大学の卒業生としてとにかく盛り上げていきたいと思って頑張ってきたことが少しずつ実になっているので、これからもこの姿を見てもらいたいと思いますね。
若隆景 東洋大学の卒業生としてこれからも土俵に上がり続けます。もっともっと頑張って活躍している姿を皆さんに見せられるように尽力したいと思います。
Interview Movie
インタビューの様子を動画でもご覧いただけます。
相撲部
相撲部 主将
角田 虎紀 選手
法学部企業法学科 4年
2024年度を振り返ると5月の全国大会で優勝し、良いスタートを切ることができました。しかし、集大成でもあるインカレではベスト8という結果に終わり、悔しい1年という印象が強く残っています。インカレに向けては気を引き締めて良い空気感の中で稽古ができていたと思います。しかし、シーズンの初めにひとつ結果が出たことで、心のどこかで誰かに任せてもいいのではという思いが残っていたのかもしれません。
2025年度は4年生が前年の11名と比べ3名しかいません。団体戦のメンバーには必然的に下級生も入ってきますし、他大学と比べて総合的な戦力は下がってしまうのではと危機感を持っています。だからこそ、一人ひとりが頑張らなければという自覚を持ち、チームを引っ張っていくという想いで稽古に取り組まなければいけません。上級生が3人しかいないからこそ、積極的に声をかけ全員で成長し、インカレでのリベンジを果たしたいと思います。