For Alumni 私の哲学 林 郁
私の哲学
自分の哲学を持った“ファーストペンギン”を増やしたい
株式会社デジタルガレージ
代表取締役兼社長執行役員グループCEO
株式会社カカクコム 取締役会長
林 郁
Profile
はやし・かおる/
社会学部応用社会学科 1982年卒業
卒業後に広告制作会社を起業。インターネット黎明期の1995年にデジタルガレージを創業し、ITビジネスの先駆者として業界を牽引。後進の育成やエコシステムの構築にも尽力。2003年から、カカクコム取締役会長を務める。シュヴァリエ・デュ・タストヴァン(ブルゴーニュワインの騎士団)を叙任。経済同友会 会員。
インターネットが時代を大きく変えると直感
- デジタルガレージという会社について教えてください。
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日本初の商用ホームページ「富ヶ谷」を制作したことを皮切りに、インターネットの黎明期にビジネス参入した企業です。約30年の間に、インターネットの進化と共に事業も進化を続け、現在は3つの領域を軸に展開しています。
1つは「決済プラットフォーム」セグメント、2つ目が「インキュベーション」セグメント。「価格.com」「食べログ」などを運営する株式会社カカクコムも、グループ会社としてこのセグメントに位置づけています。3つ目は「グローバル投資」のセグメントです。この3領域が独立の事業として動きながらも、それぞれが絡み合ってエコシステムを形成しています。
- 大学卒業後、すぐに広告制作会社を起業しています。
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20歳頃、父親が経営していた会社が倒産し、自分で学費を払わなければならなくなり、いろいろなアルバイトを経験しました。元々親族にメディア関係者が多かったこともあり、大学ではマスコミュニケーション学を専攻、アルバイトも、新聞社や出版社で雑誌の仕事をしていました。卒業後、印刷会社の知人に誘われ、フリーペーパーを制作していた流れで、広告プロモーションを行う会社を立ち上げたのです。
- インターネットに事業転換したのはなぜですか?
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広告会社の他にもデザイン領域とマルチメディア領域で会社を立ち上げて、3社グループとして一定の成功は収めました。しかし、このまま日本一の広告会社を目指したいかと言われたら、そうではなかった。そんなときに、インターネットと出会ったのです。
大学でメディアの勉強をしたときに、新聞からラジオ、ラジオからテレビと変遷した流れを研究していました。当時はテレビ全盛でしたが、時代の流れを見ると、テレビの時代がずっと続くとは思えなかった。その時にインターネットを知り、「放送と通信の融合が始まる。これは情報流通を大きく変える」と直感。伊藤穰一君と一緒に始めたのがデジタルガレージです。
大学で学んだジャーナリズム精神、英語でのディベートやディスカッションの経験が財産に
英語と音楽を中心に精力的に活動した学生時代
- ところで大学時代はどのような4年間でしたか?
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大学では2つのことをやろうと決めていました。1つは英語、もう1つは音楽イベントの企画・制作です。
まずは英会話研究会に入り、ディスカッションに注力。他大学も含め50校が集まる英語漬けの合宿に参加し、経済や政治などさまざまなテーマについて、膨大な資料・データをエビデンスとして、大学対抗で議論を交わしました。
音楽については、親友は米国の音大に留学し、私はミュージシャンとしてよりも、ロックイベントコンサートを企画・運営する活動に精を出しました。当時の大人気バンドをいくつか大学に招致してコンサートを開催できたことは印象深い思い出です。
- 今に生きる学生時代の学びや経験は?
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専攻していたマスコミ学の教授は元新聞記者で、「ジャーナリズムの何たるか」を教えていただきました。新聞の社説に対して自分の頭で考えてレポートを書くことなどを通して、さまざまな視点を磨くことができたと思います。
また、先に述べた英会話研究会や音楽サークルでの活動、キャンパス外では有名ファッション誌で働き、非常に大きな財産となりました。
私たちの成功体験を次世代につなげたい
- デジタルガレージは「ファーストペンギンスピリット」を社是としていますが、そこに込められた想いは何でしょうか?
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ファーストペンギンというのは、集団の中から、天敵がいるかもしれない海へ最初に飛び込んでいく存在のことです。失敗を恐れず、挑戦の口火を切る人がいるからこそ、道が切り拓かれる。一人ひとりがこの信念を掲げ、群れを率いる先駆者として社会に貢献していきたいという想いをこの言葉に込めています。グローバルに活躍する日本人がもっと出てきてほしいと考え、「ファーストペンギンアワード」を創設し、サッカー選手の本田圭佑氏や作曲家の坂本龍一氏などに授与しました。
また、同様の想いから、シードアクセラレータープログラム「Open Network Lab」を2010年に立ち上げ、日本で最初のスタートアップ育成にも取り組んでいます。
- 自身の事業成長だけでなく、後進育成に取り組む理由は?
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アメリカでもヨーロッパでも、自分の事業である程度成功した人が次世代のアイデアや人に投資し、スタートアップ側は先輩投資家の資金とノウハウを借りてビジネスを成長させる形でエコシステムが成り立っています。私たちもITビジネスのファーストペンギンとして走ってきたので、その体験を次の世代につないでいきたいと考えているのです。
- 今後の展望は?
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日常の多くの部分を機械やソフトウェアが代替してくれる時代になると「人間とは何者で、どこから来てどこに向かうのか」といった哲学的な視点なしに、良い事業、社会のためになる事業はできません。過去から現在、そして未来へと連綿と続く歴史や長い時間軸を通して見た上で、本質的な活動をしていきたいと考えています。
また、ファーストペンギンスピリットを持つ日本人を増やす取り組みも引き続き行っていきます。
- 起業を志す人にメッセージをお願いします。
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書籍『ビジョナリーカンパニー』はスタートアップ人のバイブルとなるでしょう。本書のポイントは、「まず、基本理念を共有できるパートナーを選び、事業設計はその次」というところです。
現代のような激変の時代に生き残るスタートアップの特徴は、社会善とのつながりがあることです。昔の人が言う「お天道様が見ている」と似た感覚を持って事業を行う。ビジョンやパーパスの根底に持続可能な事業哲学をもっておいてほしいですね。