INDEX

  1. 地域活性化への思いを胸に、広がり続ける「PROJECT TOYO」の輪
  2. 一人一人の自由な発想を生かし、「やってみる」ことで商品の可能性を見いだす
  3. 地方創生につながる多彩なプロジェクトを発信し、SDGsの実践の場を広げていく

INTERVIEWEE


宮下陽大
MIYASHITA Haruto

東洋大学附属姫路高等学校1年
地域活性部「PROJECT TOYO」所属


 
矢木由香子
YAGI Yukako

東洋大学附属姫路高等学校 家庭科教諭
地域活性部「PROJECT TOYO」顧問

地域活性化への思いを胸に、広がり続ける「PROJECT TOYO」の輪



――もともとは有志の生徒6名によって2019年度に発足した特産品開発チームですが、2021年度に「地域活性部 PROJECT TOYO」に昇格し、今では全学年合わせて44名が所属されているそうですね。宮下さんをはじめ、多くの生徒が入部を希望する理由は何なのでしょうか。

宮下 私は中学時代(東洋大学附属姫路中学校)に、家庭科の先生が顧問をされている「PROJECT TOYO」の話を聞きました。そこで、地域活性化につながる活動への興味が高まり、入部を決意しました。他の部員も「地域のために何かしたい」という熱い気持ちを持って入部した人が多いと思います。開発した商品の販売を通じて直接地域の方々の反応を感じられることも、この部活動ならではの魅力ですね。

矢木 「高校生が頑張っているから」と購入してくださったり、商品のおいしさに感動してリピート購入してくださったり……地域の方々の温かい声が喜びや自信につながりますよね。学校案内や学内の部活動紹介でもこれまでの実績を伝えているのですが、「他にはない体験ができる」と好感を持ってくれる生徒が本当に多いんです。意欲的な姿勢がとても頼もしいですし、新たなプランが生まれることへの期待も感じます。

――先輩が築き上げた実績が後輩の獲得につながっているのですね。さかのぼって、2019年度に活動を開始された経緯についても教えていただけますか。

矢木 前任校で特産品を使った商品開発をクラブ活動で行っていましたので、本校の壷阪前教頭先生にやってみないかとお声がけいただいたことがきっかけです。参加を呼びかけたところ1年生6名が集まったので、全員で頭をひねって地域活性化の方法を考えました。話し合いの末に浮かんだのが、農家の方が保有する休耕田の活用です。「畑やらないか。」という生徒の一声をきっかけに、自治会や地主との交渉を重ねて、畑づくりを開始しました。

まず初めに育てたのは、姫路市の伝統野菜である姫路若菜。近年はほとんど出荷されなくなったものの、本校の科学部が復活を目指して栽培研究に取り組んでいることを知り、その思いを応援するべく栽培に挑みました。とはいえ、本格的な農業に乗り出すと壁にぶつかることばかり。水やり一つとっても、深さ1.3メートルの側溝に入って水を汲み、持ち上げ、野菜にあげるという作業は大変で3人がかりで行う必要があり、苦戦したことを覚えています。しかし、部員たちがSDGsや環境に配慮して太陽光パネルを用いた水中ポンプを自作するなど、工夫を重ねてくれたおかげで少しずつ生産性が向上しました。近隣の方が農具を分けてくださったり、通りすがりの小中学生が手伝ってくれたりと、地域のコミュニティが新たに生まれたことも嬉しかったですね。皆さんの協力の甲斐あって姫路若菜は無事収穫され、地元食材と組み合わせた缶詰として商品化されました。
    

一人一人の自由な発想を生かし、「やってみる」ことで商品の可能性を見いだす



――姫路若菜に始まり、栽培したイチゴやローズマリーのアイス、鹿肉の缶詰まで……。多種多様な商品の開発は、どのようにきめていくのでしょうか。

矢木 部員がさまざまなアイデアを発表してくれるので、「とにかくやってみよう」をモットーに何でも挑戦しています。資材の調達経路や自治体・企業とのタイアップなどは教員が協力しますが、それ以外は生徒の自主的な活動に委ねていますね。

宮下 実行してみると、自然と商品化できるものが絞られます。畑に植えた白カボチャがほとんど枯れてしまったり、「藍染め」のために育てた藍が鳥に食べられたり……。「PROJECT TOYO」の農作物は、無農薬にこだわっているので虫害・鳥害を受けやすく、失敗も多いんです。その中で収穫できた野菜を材料に選び、試作品を作ってどんな商品にするか多数決で決めています。

――栽培が成功するかどうかが最初のハードルなのですね。そこからお客様が魅力を感じる商品を作り出すには、また違った創意工夫が求められると思います。

宮下 試作品ができたら先生方にも食べてもらうなどして、さまざまな意見を聞くことを大事にしています。今年度に開発したサツマイモのアイスは文化祭でも販売して、部員以外の生徒からも感想をもらいました。改善点を考えるために客観的な感想がとても役立っています。

矢木 それでも行き詰まったら、「ターゲットは誰?」「何が一番の売り?」「販売するシーズンは?」と部員に問いかけます。お客様の目線に立って商品を使う場面を想像すると、何が必要か見えてくるんです。

宮下 サツマイモのアイスを試作した時は、きな粉を入れるかどうかで意見が割れましたよね。そこで販売時期が冬であることを思い返し、「暖かい室内でこたつに入って食べるなら、アイスが溶けてきたタイミングで『味変』できるといいのでは」と気付きました。最終的に売り出したのは、バニラ味ときな粉味の二種類。きな粉味はカップの底にきな粉を敷き、食べ進めながらきな粉を混ぜられるよう工夫しました。試行錯誤した分、販売体験でお客さんから直接「おいしかったよ」と伝えられた瞬間はとても嬉しかったですね。

矢木 イチゴのアイスは地元のスーパーに陳列して、1週間で200個を売り切りました。姫路若菜と地域のブランド豚肉「雪乃豚」を組み合わせた缶詰もとても好評でしたね。今では、缶詰の詰め合わせが姫路市のふるさと納税の返礼品に選ばれています。商品化までは大変なことも多いですが、努力が実って、部員が喜んでいる姿を見ると胸がいっぱいになります。 

<関連コンテンツ>
東洋大学附属姫路高等学校地域活性部「PROJECT TOYO」の活動記録

 

地方創生につながる多彩なプロジェクトを発信し、SDGsの実践の場を広げていく



――続いて、現在取り組まれているプロジェクトについても教えてください。

宮下 これまでは有害駆除された鹿の肉・皮を材料にして商品を開発しましたが、骨や角までは使い切れていませんでした。そこで次は、鹿の骨からだしを取った「鹿骨スープ」と鹿肉、無農薬栽培の米を合わせて、備蓄できる食品を作ろうとしています。その後の骨を細かく砕いて畑の有機肥料にすることも検討中です。

矢木 そして、甘酒や米粉パンなどの商品を販売して米の魅力を伝える、「米班」グループのプロジェクトも進行しています。この企画は、地域における米の自給率の低さを問題視した部員の発案で始まったもので、もう一人の顧問である山崎仁友美先生とともに活動しています。現在は無農薬で米を栽培する農家の方に教わって、生産過程やその苦労を学んでいます。麴甘酒づくりに欠かせない麹菌は兵庫県宍粟市で伝統的な製法が確立されているので、商品化すれば文化の継承にもつながるのではないでしょうか。
   


――地方創生やSDGsにつながるユニークな企画ばかりですね。商品化するまでは試行錯誤が続くと思いますが、その日々が部員の皆さんの成長を支えているのだと感じます。

宮下 確かに入部した頃に比べると積極的になり、「PROJECT TOYO」に貢献したいという思いも強くなりました。この部活動はまだまだ進化の可能性を秘めているので、部員みんなが力を発揮できるようサポートしていきたいですね。

矢木 宮下くんを始め、最初は遠慮がちだった生徒たちも活動を続けるうちに積極性を身に付けていきます。やりたいことを自ら発見し、実現の可能性に心を躍らせ、達成した喜びを胸に次の目標へ向かっていく……。そういった経験が、地域の役に立っている実感や自信に結び付くことでしょう。「PROJECT TOYO」は、これから未来を背負って自分の足で歩んでいかなければならない生徒たちにとって、まさに「生きる力」を育む場所になっていると感じます。



――「PROJECT TOYO」に懸けるお二人の熱い思いが伝わりました。最後に、宮下さんと同世代の高校生や大学生など若者世代がSDGsに取り組んでいくために大切なことは何か教えていただけますか。

宮下 SDGsに対して難しいイメージを持たれる方も多いと思いますが、実は日々の小さな行動を意識するだけで将来を大きく変えられるんです。例えば、日本では年間約612トン、東京ドーム約5杯分ものフードロスが発生しています。この問題を解決するには、一人ひとりが日常生活の中で食の無駄を出さないことが欠かせません。誰もが気軽にSDGsに取り組めるよう、これからは社会に実践の場を増やすことが大切だと思います。

矢木 そのためにも、「PROJECT TOYO」のような生徒主体の活動を発信していくことに意義がありますよね。部員が生み出した企画や商品が世の中に広まって、人々が地方創生やSDGsに関心を持ち行動を起こすきっかけになれば、こんなに嬉しいことはありません。
    

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