INDEX

  1. 生徒一人一人に合わせた「マンツーマン」の日本語教室
  2. 大学のボランティアサークルが、在留外国人の「受け皿」になる
  3. 大学を舞台とする異文化交流の好事例。生徒たちとのつながりを創出する

INTERVIEWEE


阿曽 温生
ASO atsuo
東洋大学 経済学部総合政策学科 3年


大塚 歩起
OTSUKA ayuki
東洋大学 社会学部社会学科 3年

生徒一人一人に合わせた「マンツーマン」の日本語教室



――お二人がサークルに入られたきっかけを教えてください。

阿曽 英語を用いて何かにトライしたり、子どもの教育に携わったりできるサークルを探していました。外国にルーツを持つ子どもたちを対象に日本語教室を開催しているボランティアサークル「SPIRIT」を見つけた時、自分にぴったりだと感じました。見学をした際に、授業を担当していた先輩がすごく楽しそうで、その姿に憧れてサークルに入りました。

大塚 僕は学びの一環でフィールドに出たいという気持ちが強く、もともと地元・埼玉の学習支援教室でボランティアをしていました。そこでは生活保護世帯の日本人小中学生を対象に授業をしており、学ぶことも多くやりがいを感じていました。たまたま大学の授業で社会学部国際社会学科が後援する「SPIRIT」の活動について話を聞き、マイノリティである外国人を対象とした日本語学習支援活動を通じてより多角的な視点で学びたいと思ったことがきっかけです。

――普段はどのような活動をしているのですか。

阿曽 毎週木曜日の放課後、大学の教室を借りて日本語教室を開いています。現在教室に来る生徒は10人程度で中国にルーツを持つ小中学生が多いですね。過去にはネパール、フィリピン、フランスなどにルーツを持つ生徒もおり、これまで15か国以上の子どもが参加してくれました。人によって日本語の理解度に差があるため、基本的にマンツーマンで指導しています。ひらがなが分からない子に対してはサークルが所有する教材を使用して簡単な単語から教えることもありますし、日本語がある程度理解できている場合は学校の宿題を一緒にする場合もあります。日本の昔ばなしやかるたなど、日本の文化や風習を学ぶことができる教材もあり、息抜きをしながら楽しく勉強できるように心がけています。

大塚 新しい生徒が教室に来た際は、挨拶や今日の出来事などの日常会話から日本語の理解度を確認します。現在私が担当している生徒の多くは、日本語のスピーキングはかなり上達しているので、前半は会話をメインに勉強し、後半は国語の教科書を読み合わせるなど、生徒の希望にあわせて授業を進めています。授業中に生徒が「わかった!」とリアクションをしてくれた時は、大きなやりがいを感じますし、とても嬉しくなります。


教科書やかるたなどさまざまな教材がそろう

阿曽 例えば急な転勤で中国から日本に来た方は、保護者も日本語が分かりません。その場合は保護者と英語を使ってやりとりし、親子で一緒に勉強することもあります。文京区には他にも日本語教室を開催している団体がありますが、小中学生が対象ではなかったり、有償であったりと、利用するハードルが高いことも。SPIRITの日本語教室は、大学生で運営しているからこそ、無償で行うことができます。夜20時まで開室することで、中学生が放課後に立ち寄ることができるよう工夫しています。また、会場が大学施設内であることも、メリットの一つと考えています。在留外国人は言葉の壁があるため大学進学者が少ないと言われています。SPIRITの日本語教室に参加し、子どもの頃から大学生との関わりを持つことで、将来の選択肢の一つとして大学進学を検討するきっかけになれば、大変有意義だと感じています。
 

大学のボランティアサークルが、在留外国人の「受け皿」になる



――活動の中で感じる、日本語教育の課題を教えてください。

大塚 普段何気なく使っている日本語の使い方を説明するのは案外難しいということ。例えば、「Aさんに鉛筆をやってやった」という表現で「やって」と「やった」の区別をうまく説明できず、「Aに鉛筆をあげた」という意味を理解してもらえないことがありました。どのように伝えればスムーズに理解してもらえるのか、いつも試行錯誤しています。

阿曽 日本語教育について社会や国といった広い視野で考えると、支援が必要な子どもの数に対して日本語教室の数が足りていないと感じます。一般的な公立の小中学校では一人一人のレベルにあわせた語学支援が難しいため、その受け皿となる地域の日本語教室が必要です。しかし、在留外国人の方々が年々増加している一方、日本語教室の数が少ないため、どうしても受け皿に入りきれない在留外国人の方が出てくるという課題があります。「在留外国人の最後の受け皿になる」という先輩方から引き継がれてきた理念を大切にして、今もSPIRITは活動に励んでいます。



大塚 言葉の通じない日本に来て、学校では知らない言語でどんどん授業が進んでいき、友だちにもうまくなじめない、どうしたら良いか分からないと、塞ぎ込みがちな子も多いように感じます。学校では、友だち同士の会話も日本人のスピードにあわせて進むので、意味は分からないけれど「みんなが笑っているから、笑う」といった場面もあるでしょう。SPIRITの活動は日本語支援ですが、それだけじゃない。拠り所がなく不安な気持ちを抱える生徒たちに対して、「SPIRITの日本語教室に来れば、何でも相談できる」と思ってもらえるよう、「君たちの味方だよ」というマインドで子どもたちの声を“聞く”ことを特に意識しています。
 

大学を舞台とする異文化交流の好事例。生徒たちとのつながりを創出する



――これからどのようなことに挑戦したいと考えていますか。

阿曽 異文化交流などのイベント開催を通じて、生徒と大学生とのつながりを作りたいと考えています。昨年の大学祭では、活動資金の調達と生徒との交流と目的として、焼き小籠包のブースを出店。残念ながら衛生管理の関係で、生徒から教えてもらった中国本場の蒸し小籠包のレシピを再現することはできなかったのですが、レシピを教えてもらったり、当日のブースに遊びに来てくれたりと、サークル部員と生徒とのつながりが強まりました。そこで、さらにつながりを深めるイベントを開催できないかと画策し、昨年12月にサークルとしてはじめてクリスマスイベントを開催しました。

大塚 普段はマンツーマンスタイルなので、改めて自己紹介から始まり、お菓子やジュースを用意して、〇×クイズで日本や中国の文化を学んだり、ビンゴ大会をしたりと、イベント当日はとても盛り上がりました。先生と生徒という立場ではなく、みんな同じ立場で楽しめるイベントだからこそ、生徒たちとの仲を深められたと思います。これからも生徒たちの気持ちに寄り添いながら、意義ある活動を目指して努力を続けていけたらと思います。

阿曽 サークルの活動を継続していくためには、人材確保が不可欠です。日本語教室に通いたいという申し込みはたくさん届くのですが、サークル側の人数が足りずにお断りすることもある状況です。対応できる大学生の数を増やし、さらには支援の質を高められれば、語学支援が必要な子どもたちの「大きな受け皿」になれると信じています。SPIRITの活動に興味がある東洋大学の学生は、ぜひ一度見学に来てみてください。生徒たちが目に見えて成長する様子に、楽しさややりがいを感じられると思います。
 

▼東洋大学 日本語教室SPIRIT@toyo_spirit
https://x.com/toyo_spirit

 

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