INDEX

  1. 一人ひとりのニーズに応えるネット通販。そのマーケティング方法とは
  2. 通信販売の歴史に見る、「買い物」の在り方の変化
  3. 賢い消費者になるための4つのポイント

INTERVIEWEE

長島 広太

NAGASHIMA Kota

東洋大学 経営学部マーケティング学科  教授
修士(商学)。専門分野は、経営学、マーケティング。2008年より東洋大学経営学部マーケティング学科教授を務める。ダイレクトマーケティングにおける企業活動と理論的研究の融合を図るために2001年に設立された日本ダイレクトマーケティング学会の会長としても精力的に活動を行っている。

一人ひとりのニーズに応えるネット通販。そのマーケティング方法とは


   
――まずは、先生のご専門について教えてください。


大きな領域でみると、マーケティング分野が専門です。中でもネット通販には、大学生の頃から通信販売についての研究を行っていたこともあり、高い関心をもっています。現在ほどネット通販が社会に浸透していなかった時代、「現物を見ることができないから利用しない」など、ネット通販に対して否定的な意見も多くありました。その時に思ったのが、「もともと形のない“サービス”はネット通販の商品として最適」ではないかということです。そこからネット通販の中でも無形財であるサービスのマーケティングを研究対象とするようになりました。

――コロナ禍における自粛生活により、買い物の手段として通信販売が再認識されたように思います。その理由の一つに「非接触」が挙げられると思いますが、長島先生は通信販売の特徴やメリットについてどのようにお考えでしょうか。

最近おこなった調査では、買い物への姿勢として、明確に「非接触」が要因としてでてきました。長期的な視点ではまず、セグメンテーションに着目してみましょう。セグメンテーションとは市場細分化と言い、類似の特徴や行動パターンをもつ消費者を区分して小市場に分け、マーケティングを行うことです。

例えば、もともと一種類しかなかった炭酸飲料がカロリーオフやノンカフェインなど幅広いシリーズを展開、販売しているのを見かけたことはありませんか。それは企業が【炭酸飲料を多く飲む人→ダイエットに関心のある人→カロリーの低い商品を選ぶ人】というように、消費者の特徴や嗜好を細かく区別し、特定のターゲット層に選ばれやすい商品開発を行った結果です。従来、このようなセグメンテーションの方法が主流でした。しかし、この方法で導き出せるのはあくまでも企業が想定した小市場にすぎず、想定した通りのターゲットが実際に商品を購入しているとは限らないのです。つまり、いくら市場を細分化しても、その中にいる個人を特定するまでは至りません。

では、通信販売、主にネット通販においてはどうでしょう。オンラインショップで商品を購入する際には個人情報を登録する必要があります。それにより、商品を購入した個人を特定することができます。それどころか、実際には購入に至らなくても、ショッピングカートに入れて購入を検討した商品を特定することさえ可能になるのです。こういった個人情報を積み上げ、ある一定数のニーズが集まったところに市場が生まれるという「積み上げ式」のセグメンテーションの仕方が、ネット通販の特徴と言えます。

また、皆さんは、Amazonや楽天などの電子ショッピングモールを利用した時、過去の購入履歴などから自動的におすすめ商品が表示された経験はありませんか。それはリコメンデーション(推奨)機能と呼ばれる、個人の嗜好や興味に応じたコンテンツを提示するサービスです。このリコメンデーション機能も、個人の識別ができるネット通販ならではのマーケティング戦略の一つだと思います。
    


――ネット通販では個人を特定できるからこそ、マーケティングの手法自体が対面販売を想定したときは異なるということですね。消費者としては、自分に合った商品やサービスがより簡単に手に入るようになり、大きなメリットを感じます。

特に、近年のリコメンデーション機能は非常に性能が上がっていると感じています。一度自分の好みにあった商品の情報が届くと、また良い商品をおすすめしてくれるのではないかと、電子モールに対する期待が高まりませんか。
    
――確かに、自分の嗜好に合った情報が提供されると、今後も同じ電子モールを利用し続けようという気持ちになりますね。

それは、電子モールに対するロイヤルティ(忠誠心)が消費者行動に大きな影響を与えているということです。実際に、電子モールの信頼度やクオリティへの満足度が高まると、消費者が今まで主に利用していたサービスから他の競合サービスに乗り換える行動、いわゆる「ブランドスイッチング」が起こりにくいという研究結果がわかりました。企業は他社よりも良いサービスを提供し、いかにスイッチングさせるかが一つの課題であると同時に、スイッチングさせない工夫も必要になるのです。ポイント制度を取り入れるのもスイッチングさせない工夫の一つですね。
    

通信販売の歴史に見る、「買い物」の在り方の変化


   
――現代、マーケティング戦略もネット通販独自のものが誕生していますが、そもそも起源はいつ頃のことでしょうか。

黒住武市氏の著書『日本通信販売発達史』によると、国内初の通信販売は1876年、学農社発行『農業雑誌』でアメリカ産トウモロコシの種を販売されたこととされています。1871年に郵便制度が導入され、それとほぼ同時期に始まったのでしょう。

さらに研究を進めていくと、1875年6月に輸入ビールの広告が読売新聞に掲載されていることが分かりました。そのビールの注文方法は郵便で、通信販売の定義にもかなっており、実はこちらが日本初だったのではないかと私は考えています。

また、さらに驚いたのは、その広告に無条件返品の表記があったことです。アメリカでは殆どのものが無条件で返品可能ですが、日本では返品に制限が設けられている場合が多いので、通信販売初期の段階で表記されていたことは興味深いですね。

――国によって返品のルールにも特徴があるんですね。郵便と同様に考えると、ネット通販は日本でインターネットが普及し始めた頃から始まったということでしょうか。

ネット通販の始まりは1993年頃と言われています。しかし、インターネットが普及する前の1980年代後半から、パソコン通信を利用して商品を購入することが可能でした。パソコン通信とは、専用ソフトを用いてホストコンピュータと各パーソナルコンピュータを電話回線で接続して情報をやり取りするサービスです。インターネットとは異なり、ホストコンピュータを中心とした限られた利用者や拠点間のみのやり取りではありますが、私もパソコン通信を使ってアメリカから研究書籍を購入しており、こんなに便利なものはないと思っていましたね。
その後、インターネットの商用開放が行われるとともに1997年頃には電子モールが発達し始めました。Amazonの日本語サイトがオープンしたのは2000年です。

――コロナ禍を契機に、リアル店舗よりもネット通販を選ぶ方が増えたように感じるのですが、実際の消費者の動向はどうでしょうか。
   

出典:長島広太「コロナ禍でのネット・ショッピングの利用実態と利用意向―心理的セグメントテーションの観点から―」より作成

これは業態ごとの年間販売額の推移を表したグラフです。

ネットショッピングの変化を見てみると、2006年から2019年で販売額が約4倍になっています。2020年に少し落ち込んでいるのは、新型コロナウイルス感染症の影響で航空券などのサービス消費が減少したからでしょうね。物財だけで見ると、販売額は伸びています。

一方、ネットショッピングと同様に昔ながらの販売業態である百貨店は微減を続け、2020年は大幅に落ち込みました。

コンビニについて言うと、例えば、家でリモートワークをする時と、オフィス出社の時では利用するコンビニ店舗や購入するものが変わってきますよね。コロナ禍で消費行動そのものが変わったことが、2019年から2020年の販売額微増に影響していると考えられます。

コロナ禍における全国的な変化として、物財消費は前年以上に伸びましたが、それ以上にサービス消費の落ち込みが大きかったという状況が見て取れます。また、現在ネットでの購入が主流となっている航空券やホテル予約などが低迷したこともあり、世界的な傾向として同じことが言えるでしょうね。

――通信販売が始まった当初と比較して、通信販売で扱われている商品について変化は見られますか。

書籍やCDなど、販売方法に関わらずクオリティがある程度推測できるもの、冒頭でお話ししたサービス関係などは消費者も買いやすく、企業としても参入しやすい分野のようです。あと、意識していない方も多いと思いますが、携帯電話の着メロやスマートフォンゲームの課金も通信販売に当たります。近年ではネットスーパーを利用し、食品や日用品を購入する方も増えていますね。

研究を兼ねて私自身も積極的にネット通販を利用していますが、今までは店舗販売が中心だった商品が、コロナ禍を機にオンラインショップで販売されているのをよく見かけるようになりました。上生菓子もその一つです。以前は、形が崩れること、日持ちしないことがネックになっていましたが、現在は輸送に適した冷凍方法が開発されネット通販で購入することができます。コロナ禍で店舗での売上がダウンし、小売店の一つの営業方法として輸送や冷凍方法の研究が進んだのだと思います。
  

賢い消費者になるための4つのポイント


    
――今後、ネット通販を利用する際に気をつけておくべきポイントはありますか。
   
①衝動買いをしないこと
最も大事なのは、衝動買いをしないことです。初見の物と出会い、衝動的に購入してしまうことはあると思いますが、購入前にしっかりと商品を確認し、特に返品等の条件を確認するようにしましょう。

 
②注文時と支払い完了時の記録をする
商品が届かなかったり、異なる商品が届いたり、何かトラブルが発生した時に必ずしも全て返品対象になるとは限りません。トラブルを避けるために、注文した時、支払い完了した時の記録をつけておくことをおすすめします。

研究の中で、慎重な人ほどネット通販の利用回数が多い傾向にあるということがわかってきました。慎重だからこそ、トラブルを避けることができ、上手く活用することができているようです。

 
③口コミも要チェック
特に初めて利用するオンラインショップに関しては、口コミも参考にしてみてください。いいことばかり書かれているよりも、少しネガティブな口コミが混ざっている方が、信頼性が高いと言われています。

 
④総合的、合理的な判断を
最後に、「値札に書いてある価格以外のコストも費やしている」という意識を忘れないでください。私たちは、商品やサービスを得る代わりに、お店までの交通費や買い物に費やす時間、また肉体的疲労、心理的疲労など、さまざまなものを差し出しています。その全てを加味したうえで検討し、合理的な判断をしてほしいです。

例えば、購入金額によって送料が無料になるケースを想像してみてください。送料を払って購入しようとしていた商品のみを買うべきか、それとも商品を追加して送料を無料にすべきか。少し先を見通して、必要になることが分かっているものであれば、追加して送料を抑えるのも一つの手です。でも、送料無料になるようにいらないものを購入するのも考えものです。商品単品ではなく、自分の消費生活全体を考えたうえで購入を検討することが大切だと思います。

越境通販と言われるネット通販の飛躍的な拡大により、地理的な制約を受けなくなった今、世界中に広がる選択肢に目を向けて、ショッピングを楽しんでほしいですね。
    

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