東洋大学 東洋大学 研究・産官学連携活動案内 2021

SPECIAL ISSUE 04

禅を客観的に捉えることで
その価値を広く伝えていく

伊吹 敦

文学部教授(東洋思想文化学科)

歴史研究を通して
禅の社会的意義を探る

鎌倉時代に中国から伝わり、日本独自の文化として発展してきた禅。現代において日本人のみならず世界の人々を魅了するその思想の意義を文学部の伊吹敦教授は追究してきた。

「思春期に自分が抱えていた悩みを解決する方法を探っていたときに禅と出会い、大学で禅研究の道に進みました。しかしあるとき、友人から禅は内面的なものであり、客観性に乏しいと指摘されたことをきかっけに、文献研究により禅の持つ価値を客観的に伝えられるものにしていきたいと考えました」

伊吹教授は2001年に日本の禅と中国の禅の歴史を総括した著書『禅の歴史』を上梓した。
「1900年に中国で敦煌文書という唐の時代の文献が発見されました。そこには禅の初期の歴史が記されており、従来の禅の歴史は大きく書き換えられることになります。中国では、国家権力から離れた山林修行者の間で禅が生まれましたが、その存在が広く知られるようになると国の管理下に置かれ、その後、時とともに本来の自由な思想が損なわれていきます。一方、日本では古い価値観と修行形態が維持されているという特徴があります。このように、歴史の中で、禅がどのように変化し、どのような役割を果たしてきたのか。それを正しく捉えることで禅の意義をより明確にできると考えています」

海外研究者との協力のもとで
禅の魅力を世界に伝える

現在、禅研究のネットワークは大きく広がっており、日本、中国だけでなく、欧米にも多くの研究者がいる。伊吹教授は、『海外の研究者との連携による中国・日本における禅思想の形成と受容に関する研究』の代表者として、他大学との共同研究に取り組んでいる。

「禅は他の宗教と異なり、神や神話を必要としない思想です。絶対神が存在するのではなく、自分自身が絶対的な存在だと説くわけです。そうした考え方は価値観が多様化してきた現代にとてもふさわしいものではないでしょうか。欧米の方々はそのような東洋の思想に驚きを感じ、研究の道に進むようです。日本は長らく禅研究をリードしてきましたが、近年は海外の研究者が、先入観を持たずに従来と異なる視点で積極的に研究を行なっており、国際シンポジウムも盛り上がりを見せています。一方、現在の日本には、研究をさらに高度化し、海外への発信力を高めていくことが求められています」

禅の研究に没頭しているうちに思春期に芽生えた悩みはどこかに消えていたと伊吹教授は語る。それほどまでに魅了される理由はどこにあるのだろうか?

「文献を読み解いていくと、道元禅師のような先達たちがどのように思索し、心を動かされてきたのかがありありと伝わってきます。それがただ面白く文献を読み耽ってしまいます。また、禅は中国の山林修行者が生み出したことからも分かるように、社会からはみ出した人たちが育んできた思想です。世の中にはいつの時代にも社会に疑問を持ったり疎外感を感じたりする人たちがいますが、そうした人々にとって、禅は充足感を与え、心の支えとなってくれるのです」

伊吹教授は科研費研究の一環として、禅の国際シンポジウムを開催。世界の禅研究者が一堂に会して最先端の研究結果を発表する。一般にも公開されており、多くの聴衆が集まるという。

Profile

伊吹敦

伊吹 敦

文学部教授(東洋思想文化学科)

伊吹敦

伊吹 敦

文学部教授(東洋思想文化学科)

早稲田大学第一文学部卒業後、同大学院文学研究科博士課程修了。東洋大学文学部助教授を経て、2006年より現職。初期禅宗史を専門としており、『禅の歴史』(法藏館)などの著書がある。

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