歴史研究を通して
禅の社会的意義を探る
鎌倉時代に中国から伝わり、日本独自の文化として発展してきた禅。現代において日本人のみならず世界の人々を魅了するその思想の意義を文学部の伊吹敦教授は追究してきた。
「思春期に自分が抱えていた悩みを解決する方法を探っていたときに禅と出会い、大学で禅研究の道に進みました。しかしあるとき、友人から禅は内面的なものであり、客観性に乏しいと指摘されたことをきかっけに、文献研究により禅の持つ価値を客観的に伝えられるものにしていきたいと考えました」
伊吹教授は2001年に日本の禅と中国の禅の歴史を総括した著書『禅の歴史』を上梓した。
「1900年に中国で敦煌文書という唐の時代の文献が発見されました。そこには禅の初期の歴史が記されており、従来の禅の歴史は大きく書き換えられることになります。中国では、国家権力から離れた山林修行者の間で禅が生まれましたが、その存在が広く知られるようになると国の管理下に置かれ、その後、時とともに本来の自由な思想が損なわれていきます。一方、日本では古い価値観と修行形態が維持されているという特徴があります。このように、歴史の中で、禅がどのように変化し、どのような役割を果たしてきたのか。それを正しく捉えることで禅の意義をより明確にできると考えています」