東洋大学 東洋大学 研究・産官学連携活動案内 2021

Katou Kazunori

SPECIAL ISSUE 02

細胞機能学の知見を基に
新発想で熱中症対策を模索

加藤 和則

理工学部教授(生体医工学科)、
生体医工学研究センター長

熱に弱い血管細胞を
保護する成分を探し出す

近年の日本では、気温上昇に伴う熱中症患者数の増加が大きな問題になっている。水分と電解質の補給や住環境の改善など個人レベルの予防策は取られているものの、発症のメカニズムについてはいまだに不明な点が多いのが現状だ。そんな中、加藤和則教授は専門分野である細胞機能学の知見を武器に、熱中症の研究に立ち向かっている。

「熱という負荷が体にかかることで熱中症は起こります。では、体のどこが熱に一番弱いのか?そんな疑問が湧いてきたとき、ある医師が『血管は熱に弱い』と言っていたことを思い出しました。そこで約40℃の環境で血管の細胞を培養してみると、多くの細胞が死んでしまったのです。詳しく調べると、高温環境によって血管の内側にある血管内皮細胞が変形していることが判明しました。その細胞を熱から保護する成分が体内にあれば熱中症を防げるのではないか?と考え、候補となる物質を探す研究が始まったのです」

ブドウ糖をエネルギーとする他の細胞と異なり、血管の細胞は脂肪酸をエネルギー源としていることに注目した。脂肪酸の代謝に関わること、そして野菜や果物に含まれており人体への影響が少ないことを条件に成分探索を続けた結果、複数の有効成分を特定し用途特許を取得。そのうちの一つが、ハッサクの皮に含まれるオーラプテンという物質だ。

オーラプテン研究の成果を
地域産業活性化の足掛かりに

「細胞を使った実験では、オーラプテンを添加することで熱を加えたときに細胞が受けるダメージが大きく減少することが分かりました。熱中症に対するオーラプテンの具体的な効果はヒト介入試験の結果が出るまで分かりませんが、熱に負けない強い血管を作る体質改善のサプリメントとして実用化できるのではと考えています」

加藤教授は今回の研究で得られた成果を実社会に還元すべく、産官学連携の取り組みも進めている。
「和歌山県はオーラプテンが含まれるハッサクの生産量が全国1位。日本国内で73%のシェアを占めています。しかし、近年は消費量の減少や生産者の高齢化などの問題を抱えています。そこで、従来は廃棄されていたハッサクの皮からオーラプテンを抽出して熱中症対策のサプリメントを開発するといった、健康問題だけでなく地域産業の活性化につながるプロジェクトを自治体や企業と一緒に進行中です。学内の産官学連携推進センターのサポートもあり、計画は順調ですね」

熱中症だけでなく免疫機構やがん発生のメカニズムについても研究を行う加藤教授は、細胞研究の面白さをこう語る。
「機能の異なる細胞一つ一つの働きが、体全体の健康状態をコントロールしています。熱中症も細胞レベルで捉えると新たな事実が次々とわかってくる。研究対象として興味が尽きません」

研究室では、シャーレで血管内皮細胞を培養し、様々な成分を添加して反応を確認する実験を行なっている。条件を絞り込むことで有用な成分を発見する確率が高まる。

Profile

加藤和則

加藤 和則

理工学部教授(生体医工学科)、生体医工学研究センター長

加藤和則

加藤 和則

理工学部教授(生体医工学科)、生体医工学研究センター長

東北大学大学院薬学研究科博士課程修了後、国立がんセンター研究所薬効試験部室長、順天堂大学医学部免疫学准教授などを経て、2011年より現職。細胞機能学的アプローチから、がん研究や熱中症研究に取り組む。

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