石井桃子の翻訳を通して
海外児童文学の世界にのめり込む
政治・経済の世界に身を置いていた文学部の竹内美紀准教授が、児童文学の研究に没頭するようになったきっかけは、自身の子育て経験にあった。「政治も経済も大事なのは人です。子育てを通して、幼少期に絵本を読むことが、人間性の育成に大きな影響を与えることを身をもって実感しました。日頃から子どもに絵本の読み聞かせをしていたのですが、特に興味を持ってくれたのが、石井桃子が翻訳した作品だったのです」
石井桃子は戦前から戦後にかけて活躍した児童文学作家。『クマのプーさん』や「ピーターラビット」シリーズなど、現在も親しまれている海外児童文学の翻訳も数多く手がけた人物だ。子どもがなぜ石井桃子が翻訳した絵本に惹かれるのか?その秘密を探るべく、竹内准教授は大学院の人文科学研究科に進み、翻訳研究に取り組むこととなる。
「石井の翻訳の特徴は、原文の意味を忠実になぞりつつ、日本語としても面白く読める文体に訳しているところにあります。物語の世界に没入し、登場人物になりきって日本語で語り起こしていることが読み取れる。児童文学のように簡単な文章ほど翻訳が難しいと言われていますが、原文と翻訳を読み較べると、石井の翻訳が、いかに巧みかがわかります」
竹内准教授はこれまでの研究を『石井桃子の翻訳はなぜ子どもをひきつけるのか』という著書にまとめて出版。海外児童文学の世界に新たな視点をもたらした。