東洋大学 東洋大学 研究・産官学連携活動案内 2021

SPECIAL ISSUE 01

石井桃子の翻訳に子どもの
心と言葉を育てる秘密をみる

竹内 美紀

文学部准教授
(国際文化コミュニケーション学科)

石井桃子の翻訳を通して
海外児童文学の世界にのめり込む

政治・経済の世界に身を置いていた文学部の竹内美紀准教授が、児童文学の研究に没頭するようになったきっかけは、自身の子育て経験にあった。「政治も経済も大事なのは人です。子育てを通して、幼少期に絵本を読むことが、人間性の育成に大きな影響を与えることを身をもって実感しました。日頃から子どもに絵本の読み聞かせをしていたのですが、特に興味を持ってくれたのが、石井桃子が翻訳した作品だったのです」

石井桃子は戦前から戦後にかけて活躍した児童文学作家。『クマのプーさん』や「ピーターラビット」シリーズなど、現在も親しまれている海外児童文学の翻訳も数多く手がけた人物だ。子どもがなぜ石井桃子が翻訳した絵本に惹かれるのか?その秘密を探るべく、竹内准教授は大学院の人文科学研究科に進み、翻訳研究に取り組むこととなる。
「石井の翻訳の特徴は、原文の意味を忠実になぞりつつ、日本語としても面白く読める文体に訳しているところにあります。物語の世界に没入し、登場人物になりきって日本語で語り起こしていることが読み取れる。児童文学のように簡単な文章ほど翻訳が難しいと言われていますが、原文と翻訳を読み較べると、石井の翻訳が、いかに巧みかがわかります」

竹内准教授はこれまでの研究を『石井桃子の翻訳はなぜ子どもをひきつけるのか』という著書にまとめて出版。海外児童文学の世界に新たな視点をもたらした。

コロナ禍における
読み聞かせの役割

2020年、コロナ禍による臨時休校が実施され、多くの親と子どもたちが不安を抱えていた。そのような状況下で、竹内准教授は「オンライン版 絵本で支援プロジェクト」を立ち上げた。

「図書館などでの読み聞かせイベントも中止された中、家にしかいられなくなった親子のために絵本を届けたいという想いから、ウェブ会議システムを使った絵本の読み聞かせ会を開催しようと考えました。賛同者も多く集まり、立ち上げから1ヶ月間、毎日読み聞かせを行いました。当初は絵本が売れなくなるなどの理由からオンライン形式に反対の声も上がりましたが、石井桃子が創設に貢献した「東京子ども図書館」がいち早く子どもたちのために動画配信を始めたことが心の支えになりました。著作権に配慮をしながら、現在もプロジェクトは続いています」

未曾有の事態においても読み聞かせの文化を絶やしたくないと思った理由について竹内准教授はこう語る。
「人類は長らく声の文化で過ごしてきました。活版印刷が発明されてからは文字の文化が発達しましたが、小さな子どもは文字が読めません。ですから、まずは身近な大人の声で文字の世界に導いてあげることがとても大切なのです。そうして本が読めるようになると、子どもは物語の世界を自分で頭の中に立ち上げる。すると行間を読んで他人の気持ちを想像できるようになる。それが社会の疑似体験となって、豊かな心を育ててくれるのです」

竹内准教授は、『クマのプーさん』や「ピーターラビット」シリーズなど、石井桃子が翻訳した原文を独自に読み解き、その過程を出版物として形にしてきた。

Profile

竹内美紀

竹内 美紀

文学部准教授(国際文化コミュニケーション学科)

竹内美紀

竹内 美紀

文学部准教授(国際文化コミュニケーション学科)

同志社大学法学部政治学科を卒業後、松下政経塾に学ぶ。第二電電株式会社国際部などで経験を積んだ後、子育てを機にフェリス女学院大学大学院 人文科学研究科博士課程に進み、2017年より現職。

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