目標3 あらゆる年齢のすべての人々の健康的な生活を確保し、福祉を促進する目標 11 包摂的で安全かつ強靭で持続可能な都市及び人間居住を実現する

つながりがある社会を支える価値と支援システムに関する研究

重点研究課題:(3) (8)  

研究主体:福祉社会開発研究センター

研究代表者:金子 光一 教授(社会学部 社会福祉学科)

研究期間:2019年10月~2022年3月

新しい福祉の価値とデジタルを活用した支援システムで、つながる社会

幸福な社会、そして誰もがその人らしく、豊かな生活を送ることのできる社会をつくるためにー。東洋大学福祉社会開発研究センターでは現在、社会福祉学を軸として、社会科学、人文学、理工学など、分野の異なるさまざまな知見を取り入れた研究を通して、福祉の新たな価値とICTやAIを使った新たな支援システムの開発に取り組んでいる。SDGsが目指す、”No one will be left behind.”(誰も取り残さない)を実現し、つながりがある社会を構築するには何が必要なのか。情報システムを活用した支援システムを構築することで、新しい福祉の価値が創造される日はそう遠くはないはずだ。

学部の垣根を越えた新しい支援システムの開発

福祉社会開発センターは、社会学部を中心に、文学部、ライフデザイン学部、国際学部、理工学部の5つの異なる学部に所属する教授や客員研究員で構成され、学部横断的に研究体制をとっていることが大きな特徴だ。現在は、社会福祉政策(SPA=ソーシャル・ポリシー・アンド・アドミニストレーション)、ソーシャルワーク(SW)、理工学(SE=サイエンス・アンド・エンジニアリング)、など、それぞれの分野の専門的知見を融合して、研究を進めている。センター長であり、社会福祉学科の金子光一教授は、「自分の専門領域を超えた知見を他の学部の先生方から得ることで、研究分担者一人ひとりが広がりと深みのある研究を進めることができています。このようにお互いの領域を超えてチームを組むことができるのも総合大学である東洋大学だからであり、学際的な研究に取り組むことができていると思います」と話す。

「東洋大学重点研究推進プログラム」として現在取り組んでいるプロジェクトは、つながりがある社会に必要な価値や条件を検証し、そのための新たな支援システムの開発だ。このプロジェクトでは「すべての人の権利が保障され、相互に認め合い、支え合う社会の構築」を目標としている。これまで社会福祉の「支援」というと対面で行うものが主とされてきた。だが、コロナ禍で対面でのやりとりが制限されるなか、オンラインミーティングなども盛んになり、さまざまな形でデジタル技術の活用の重要性が高まってきた。

「重点研究推進プログラムに応募した時は、福祉の現場にICTが取り入れられ始めていることは意識していましたが、当時は現在のコロナ禍のような社会状況になることはもちろん予測していませんでした」と金子教授が話すように、誰にも予想さえし得なかったこのコロナ禍という状況は、社会のデジタル化を一気に加速した。

2019年度に始動したこのプロジェクトでは、海外でICTを使った支援についての研究発表をしたり、科学技術と社会福祉に関する書籍を出版したりしてきた。2020年度には、国際シンポジウムをオンラインで開催するなど、コロナ禍において対面での活動が制限されるなかにあっても、精力的に活動を展開している。

ICTやAIを活用した新たな福祉の価値を創造する

実際に福祉の現場では、どれだけデジタル化が進んでいるのだろうか。

金子教授によれば「ICTやAIの技術を用いることで、従来の『支える側』と『支えられる側』という2つの枠組みに捉われない、担い手と受け手が相互に認め合う空間も生まれてきている」という。例えば、センターが世田谷区と連携して進めてきた「世田谷区と子どもと障害ユニットのコラボ事業」では、重度の障害を持つ人が、指先だけを使ってロボットを動かし、自分の感情を表現したり、子どもたちと楽しくコミュニケーションを取ったりする姿も見られた。

「これまで誰かに支えられていた側の人が、ICTやAIの技術を使って、自らの力で他者のために役立つ何かをする。それにより、『お互いが支え合う』 新たな福祉の価値が広まっていくことを期待しています」と金子教授は話す。

また、誰もが経験したことのないコロナ禍という状況により、社会的に孤立をしている人や、望まない孤独を感じている人が増加し、精神的な支援を必要としている人々の存在が浮き彫りになった。深刻化する孤立や孤独の問題を受けて、日本政府は2021年2月、「孤独・孤立対策担当室」を設置し、この社会問題に取り組んでいる。それに先立つ形で、センターでは、理工学の技術を活用して、 Twitterで発信される情報などのデータを収集・分析しながら、潜在化している人々にアプローチできる支援システムの開発に着手した。

「これまでも、支援のネットワークから漏れてしまう人たちを見つけ出し、それらの人たちを支えたいと思っていましたが、社会科学的な方法では限界がありました。そこで、理工学部所属の先生の協力のもとで、SNSで発信されているメッセージをビッグデータから拾い上げ、そのような人を顕在化することができないか考えました」と金子教授は話す。AIやICTを使ったアプローチにより、これまで潜在化していたニーズを浮き彫りにすることを目指した研究は、孤独を感じる人々の発見にもつながるものと期待されている。

このような社会福祉の現場における理工学の知見の重要性が高まる一方で、日頃はものづくり中心の研究を進めており、直接的に社会との関わりを持たない理工学を専門とする教員たちにとっても、今回の研究は新たな価値の発見にもつながった。

「ものをつくるということが、実は人の新しいつながりを生む力になることに喜びを感じてもらえれば、うれしく思います」と話す金子教授は、社会福祉学や社会科学の枠組みでの研究にとどまらず、理工学や自然科学の知見や技術を存分に生かしながら、文理融合した学祭的な研究を進めるところに、今回の重点研究推進プログラムの大きな意義を感じている。

地域共生社会の実現を目指し、新しい福祉の形を発信

同センターが3年間の期間で採択された「東洋大学重点研究推進プログラム」は2021年度で一つの区切りを迎える。そこで、今後は、シンポジウムの開催や書籍の発行などを通して、この2年間で取り組んできた研究の成果を国内外に示しながら、新しい福祉の形を発信し、社会的に弱い立場にいる人のための支援システムの開発に一層力を入れていく。

「民の利益になるような研究」を目指すこのプロジェクトは、哲学的な精神を重んじる東洋大学の教育理念にも通じる。金子教授は、「お互いを知って、認め合って、助け合うこと。福祉とは、一方的な優しさだけでなく、お互いに得るものがあり、みんなの利益になるのだということを広く知ってもらいたい」と考える。差別や偏見がなく、人間としてお互いを認め合う社会、それこそが「地域共生社会の実現」につながる。

人間としてお互いを認め合う社会を構築するためには、その前提として自分自身を知ることや他者を知ることが重要である。そしてそのことは、歴史上の著名な哲学者や思想家が真剣に考えてきたことでもある。「アダム・スミスの『良心論』やG. W. F.ヘーゲルの『承認論』、ロバート・オウエンの『協同の理念』などに、今日のつながりのあり方を考えるヒントがある」と金子教授は考える。

東洋大学の社会学部社会福祉学科は2021年度で創設100周年を迎え、日本の社会福祉教育の歴史の中でも最も古い伝統を誇る。さらに、2023年には、本学赤羽台キャンパスに、福祉の拠点となる新学部「福祉社会デザイン学部」も創設予定だ。金子教授は「学科から学部への再編。これは福祉の学部としてさらに大きく飛躍できるチャンスです。これまでの長い伝統を踏まえ、さらには新しいシステムを融合しながら、これからの時代のニーズにふさわしい支援システムの開発を続けていきたいと考えています」と意気込みを語った。

金子 光一

東洋大学社会学部教授、東洋大学福祉社会開発研究センター長。
ロンドン大学大学院社会科学・社会福祉行政学専攻研究生課程修了。日本女子大学大学院文学研究科社会福祉学専攻博士課程後期修了。博士(社会福祉学)。淑徳大学社会学部専任講師、助教授、東洋大学社会学部助教授を経て、2006年より東洋大学社会学部教授に就任。日本社会福祉学会会長、文部科学省教科用図書検定調査審議会委員、日本学術会議連携会員、社会事業史学会会長などを歴任。専門は社会福祉学、社会福祉史。