目標3 あらゆる年齢のすべての人々の健康的な生活を確保し、福祉を促進する目標13 気候変動及びその影響を軽減するための緊急対策を講じる

22世紀の世界哲学構築にむけて

重点研究課題:(8)

研究主体:国際哲学研究センター

研究代表者:河本英夫教授(文学部哲学科)

研究期間:2019年10月~2022年3月

世界の課題解決を導く方向性と手がかりを新しい時代の哲学で提示する

グローバル化が進み、価値観が多様化する現代社会。先行き不透明で混迷を深める時代において、人間と社会のあり方を根源から考察する哲学の役割はますます重要となっている。東洋大学国際哲学研究センターでは、22世紀の地球社会のとるべき進路を見出そうと、現代社会が抱える諸問題に応じた新しい時代の哲学を切り開くべく活動してきた。東洋大学の創設者である井上円了が志したように、研究の成果を社会に還元させることを目指し、芸術や医療、工学といった分野との学際的交流を通じて、問題解決型、発信型の「世界哲学」を確立していく。

すでに確立された方法論を、実際に活用・応用する

2019年度に「東洋大学重点研究推進プログラム」に採択され、国際哲学研究センターでは「22世紀の世界哲学の構築に向けて」をテーマに、「哲学・哲学史グループ」「環境グループ」「情報技術グループ」の3つのプロジェクトに分かれて活動を進めてきた。プロジェクトには文学部哲学科の教授陣のほか、社会科学系や情報科学系などの教授陣が名を連ねる。それぞれの専門分野の知見を持ち寄りながら、多面的に世界の諸課題と向き合っている。

例えば、「哲学・哲学史グループ」は、哲学研究を遂行しながら、その研究方法自体を批判的に検討する。また、「環境グループ」では、最先端の知見がもたらす多様な「環境」の概念から把握される新たな人間像を析出している。そして、「情報技術グループ」は、ロボットやAIの社会実装に必要な倫理的設計デザインの枠組みを模索するといった活動だ。

代表を務める河本英夫教授によれば、2020年度は俯瞰的視野から各グループが共通で論ずるテーマとして「世界という実現性」を設定し、これまでの21世紀における混沌とした「世界」の多様性をそのものとして一度受け止め、そこから普遍性を取り出す試みに従事したという。そして、2021年度は、各グループの哲学研究と他分野交流における活動成果をまとめ、世界哲学を基礎とした世界の諸課題の再構築、課題解決の方法論や理念を提案していく。

伝統的な「真・善・美」に加えて新たな領域が必要な現代

哲学の考え方をどのように世界の諸課題の解決に用いるのか。そして、新たな時代を切り開く哲学をいかに構築していくのか。河本教授はまず、哲学において、普遍的な価値として語られる「真・善・美」とは何か、ということから説き始める。

「哲学をするとはどういうことか。それは、問いを立て、経験の可能性を広げることです。そのためにはうまく問いを立てられるかということが重要になります」と河本教授は童話「うさぎとかめ」を例に挙げた。

「よく知られた童話ですが、なぜ、かめはうさぎを起こさなかったのかと考えてみましょう。何がなんでも競争に勝ちたかったからでしょうか。足の遅いかめにとっては、初めから勝ち目のない競争であり、『勝ちたかったから』という見方は少し外れています。かめは自分のためにゴールを目指していたのであり、うさぎと競争したのではなかったのです。哲学とは、当たり前だと思うことについて、一度立ち止まって考えてみること。すると、問題がどこにあるのかが見えてきます。可能性の幅を広げて物事を認識すること、それが『真』なのです」

河本教授は諸課題に対する哲学によるアプローチの仕方を説明する。そして、「現実の社会では、様々な問題が繰り返し起き、議論が二分され、紛糾することが多くあります。そのような時に、哲学では、なぜ議論が二分するのかと考えます。それは、十分な選択肢が与えられていないことが原因であり、選択肢を増やして考えるという方法をとります。世の中で起きている事象に対して問いを立て、選択肢が足りなければ、さらに選択肢を設定する。これを『善』と言います」と続けた。

さらに、2030年頃までに、人々はどのような暮らしや社会を望んでいるのかと問う。

「未来をどのようにデザインするか。個人の能力がそれぞれ発揮でき、社会に軋みがない状態をデザインすることができればよいのですが、そのような国など実際にはないでしょう。未来をデザインするには細かな配慮が必要であり、それは映像で描いてもいいし、物語で描いてもいい。それが『美』です」

このような伝統的な哲学の3つの領域に加えて、現代社会では「健康」という領域を含めた4つの領域で物事を考える必要がある。これまでの伝統的な哲学では、世界や人間の可能性を拡張する方向で物事を考えていくというアプローチをとってきた。一方で、現代においては、世界とは何かを説明し、人間の個とは何かを説明するというような「理由づけ」を与えて納得するというのではなく、「世界は何になりうるか」という方向から考えていくことが必要とされると、河本教授は語った。

SDGsの実現につながるシステムモデルを提示

哲学研究における「成果」とはどう見るのか。哲学は実証研究や実用研究とは異なり、短期的に成果が出るものではない。問いを立てて考えていくためのシステムモデルを提示していくことが必要となる。

今回のプロジェクトでは、「環境」グループは情報技術グループと共同しながら、「環境」「主体」という概念を哲学的に再定義し、SDGsに関する思想的基盤を提示する。「環境」グループは2021年度中に、SDGsの目標「6. 安全な水とトイレを世界中に」と関連づけ、「水資源」をテーマとした学際的な公開シンポジウムを開催する予定だ。

河本教授は、「安全な水を使うことができている世界の人口の割合を考えたとき、全然それが足りていないという課題が見えてきます。その課題に対して哲学ができるのは、何が問題になるのかを提起し、多様な選択肢を示していくことです。持続可能な社会を考えることと、人間のもつ創造性を発揮させることは簡単に整合させられません。どのように整合させればよいのか、そのしくみを考え、世界で起きている問題に対する回答の方向性と手がかりを示していくことが、哲学の仕事なのです」と話す。

研究の最終年度となる2021年度は、哲学研究の成果を広く社会に還元する方法を模索している。具体的には2020年度に刊行した書籍に関する合評会を開催し、成果をもとに22世紀の世界哲学を構築するためのビジョンを明確にすることなどを検討している。

「各グループが取り組んできた哲学研究と他分野との交流による活動成果をまとめ、世界哲学を基礎とした世界の諸課題解決のための方法論や理念を提案していきたい」と述べる河本教授。3年間の研究成果として、社会への還元を意識した取り組みが期待される。

河本 英夫

東洋大学文学部教授、東洋大学国際哲学研究センター長。
東京大学教養学部基礎科学分科卒業。東京大学大学院理学系研究科博士課程修了(科学史・科学基礎論)。日本学術振興会奨励研究員、長崎大学助教授等を経て、1991年東洋大学助教授に就任。1996年より文学部哲学科教授。専門は哲学、システム論、科学論。次世代型システム論「オートポイエーシス」を展開し、現象学、精神病理学、リハビリ、アートなど多彩な現場とコラボレーションを行う。