11.住み続けられるまちづくりを17.パートナーシップで目標を達成しよう

持続可能なインフラの提案によりグローバルな協調の再構築に関する研究-「インフラメニュー」と「経済性・社会性評価アプリケーション」制作-

重点研究課題:(1) (4) 

研究主体:PPP研究センター/国際学部グローバル・イノベーション学科

研究代表者:根本 祐二 教授(経済学研究科 公民連携専攻)

研究期間:2019年4月~2022年3月

国民の意識と行動を変えて、「持続可能なインフラ」を目指す

「東洋大学重点研究推進プログラム」の採択を受けて、東洋大学PPP研究センターは2019年度より、「省インフラシミュレーションソフト」や「シリアスゲーム」、「経済性・社会性評価アプリケーション」を開発して実証実験を重ね、研究を進めている。2006年度に日本で初めて、公民連携(Public Private Partnership : PPP)を専門とする研究機関として設置された同センターは、世界で7カ所あるPPP研究所の一つとして、『国際連合』からも正式に認証を受けて活動する組織だ。崩壊寸前の社会インフラを再生し、豊かな未来を作るために、どのような活動や提案を行っているのだろうか。

取材:2021年6月

すでに確立された方法論を、実際に活用・応用する

1960年代から1970年代にかけての高度経済成長期の日本では、インフラを整備するための集中的な投資が行われた。それから50年近くを経て、当時、日本各地で整備された道路や上下水道、学校、公共施設などのさまざまなインフラの機能は、当然ながら劣化や老朽化をたどり、全国各地で橋が崩落したり、水道管が破裂したりするなどの事故が起きている。社会インフラの問題解決にかける時間的な猶予はない。しかし、現実問題として崩壊したインフラを全て改修、補修、更新するための財源は確保できないことに加え、少子化が進むなか、社会インフラの利用減も予想されている。

こうした現状を受けて、東洋大学PPP研究センターが現在取り組んでいるのは、省インフラ社会を実現するためのプロジェクトである。「最終的な目標は、インフラに依存しなくても豊かな社会を作り上げること」にあると、センター長を務める根本祐二教授は話す。

「現在、中国、東南アジア、中東、アフリカなど、世界のさまざまな国が、日本同様にインフラの老朽化問題に直面し、省インフラ型への転換期を迎えています。日本が、省インフラの先進国として、成功ノウハウを海外へ輸出することができれば、SDGs達成に向けた国際貢献にもつながると考えています」

そこで、同センターでは、省インフラを実現するために必要な知識や経験を体系化し、それを世界へ応用することを目指してプロジェクトを進めている。

ツールやアプリを組み合わせて、本質的な「合意形成」を実現

「省インフラ」を実現するために、PPP研究センターは地方自治体からの依頼に基づき、研究委託契約を結んで、さまざまなサポートやアドバイス業務を行っている。

地方自治体が抱える一番の課題は、納税者である地域住民と、どうしたら説明会レベルを脱した本質的な「合意形成」を行うことができるか、である。根本教授によれば、これまで国民にとってインフラとは、「できるだけ立派で、近くにあること」が豊かなことだと考えられてきた。しかし、これまでの常識を覆し、「一定の質であればそれ以上は求めずに、浮いた財政を活用していく」という考え方に変えていかなければ前に進むことはできない。

そこで、合意形成をより効果的に行うために、「省インフラシミュレーションソフト」を開発し、提案している。根本教授はソフトの開発について「現在のインフラを完全に更新していくと、どのくらいのお金がかかるのか、どうすれば削減できるのかを、一般市民が、プロの力を借りなくてもパソコンを使って正確に計算できることがポイントです」と述べる。

また、同センターでは、シミュレーションソフトより簡単に、ゲーム感覚でできる「シリアスゲーム」の開発や提案も手がけている。これは市民に向けたワークショップの場面で気軽に活用しながら、住民と行政を対立させずに、テーマに関心を持たせて主体的に考える方向へ促すことが目的だ。

さらに、スマートフォンのアプリを使って匿名で投票できるシステムを制作し、実証実験も行っている。これは、「Deliberative polling(討論型世論調査)」と呼ばれる手法で、1回の投票で終わらずに、「質問⇒説明・討議⇒再質問」によって市民の理解や認識を変えることにつながる。

根本教授は「コロナ禍で、現地になかなか足を運べない状況が続いているなか、こうしたアプリケーションを活用した取り組みは、世界中どこからでも参加できるので大変有効です。海外で展開していくうえでも、オンラインのフォーマットを今この時期に確立することで、今後に役立てることができます」と期待を寄せる。

明確なビジョンを提示して、まちづくり自体を変えていく

地域のインフラを整備していく取り組みは、各地方で行われている。その一方で、今後は、国の政策や、まちづくり自体を変えていく必要がある。その一つが、人を動かすことによって、インフラの提供コストを大幅に下げていくという考え方だ。

具体的な解決策として、学校の統廃合に伴い、学校を拠点としたコンパクトシティの実現を目指す。目安としては、1〜1.5万人市場のエリアを形成することだ。それによって、民間も投資できるようになり、図書館、公民館などの公共施設だけではなく保育所や幼稚園、郵便局、クリーニング店、ガソリンスタンドなど、便利な施設・サービスが一箇所に集約されていく。

コンパクトシティ実現の鍵は、やはり「合意形成」が握っている。地域住民の多くは、コンパクトシティの考え方自体には理解を示して賛成をしても、拠点をどこにするかという問題で最後まで対立を長引かせる傾向にある。そこで、同センターでは、地域の誰もが納得のいく拠点をイメージしてもらうために、『拠点決定シミュレーションソフト』の活用を提案している。

根本教授は「大学という立場だからこそ、政治的な思惑や恣意を一切除いて、客観的な数字やデータを提示して、意見やアドバイスをすることができるという利点がある」とし、「まずは優先順位をつけて、決めたルールを理解してもらうことが、私たちに求められる役割」であると考えている。

例えば、富山県富山市はコンパクトシティを推進し大きな成果を上げている。今後の各地におけるコンパクトシティの実現を成功させるポイントは、「いかに明確なビジョンと、長期的・全体的な視点を地域住民に提示することができるか」にかかっているという。

これまで同センターでは、公開セミナーや各市町村を対象にした研修、シンポジウムなどを開催し、「省インフラでも生活は豊かにできる」と、メッセージを発信し続けてきた。この新しい概念を社会に定着させ、国民の行動や意識を変えていくことがよりよい未来につながる。

「かつて石油危機が起きた時、日本人は高くなった原油を買わずに済むように方向転換しました。その結果、省エネルギー先進国として世界でトップクラスの省エネを達成したのです。インフラも同じです。国民一人一人が、インフラに対するこれまでの常識を捨てて発想の転換をし、行動を変えていく必要があります」と語る根本教授。そのためにも今後は、国や地方自治体それぞれの課題に合うようなソフトウェアをカスタマイズして実証実験を重ね、「持続可能な省インフラ社会の実現に貢献すること」を目指している。

根本 祐二

東洋大学大学院経済学研究科教授、東洋大学PPP研究センター長。
東京大学経済学部卒業。日本開発銀行(現日本政策投資銀行)地域開発部、米国ブルッキングス研究所客員研究員、設備投資研究所主任研究員、地域企画部長などを経て、2006年東洋大学経済学部教授に就任。専門は、公民連携、地域再生。内閣府、国土交通省、東京都、横浜市などで公職多数。