INDEX

  1. インフラの維持管理とは?
  2. 維持管理の観点から生まれた『KSボンド』【東洋大学×鹿島道路】
  3. インフラの維持管理で人々の安全を守る。シビルエンジニアの使命

INTERVIEWEE

福手 勤

Prof. FUKUDA Tsutomu

東洋大学 理工学部 都市環境デザイン学科 教授
工学博士。専門分野は土木工学、建設材料学、社会資本マネジメント。旧運輸省時代に軟弱地盤上の空港舗装の開発に取り組み、その成果の一部を羽田空港の沖合展開事業、再拡張事業、関西国際空港に活用。その後、インフラメンテナンスに関する研究に取り組み、国や自治体の要請などで実プロジェクトに反映させている。同時に人口減少・少子高齢化時代のインフラ管理や自治体経営を念頭においたアセットマネジメントの分野にも領域を広げ、インフラのメンテナンスにおけるハードとソフトの融合を目指した研究活動・社会貢献に取り組んでいる。取得特許は「コンクリートの湿潤養生方法」(特願2013-157744)、「水中不分離性コンクリート」(特願2013-51744)、「既設コンクリート舗装の付着オーバーレイ工法」(特願2008-269543)。

インフラの維持管理とは?

 



――福手教授のご専門を教えてください。

土木工学や建設材料学、社会資本マネジメントを専門としていて、空港や港などのインフラの建設・維持管理に関する研究を行っています。土木という観点から、人々の安全を考え、支えるための研究ですね。

――インフラの維持管理というと、具体的にはどのようなご研究になるのでしょうか?

どんなによいインフラをつくったとしても、使っているうちにだんだん傷んでいきます。それは車や建物、私たちが身につけている靴や服でも同じ。買ったときはキレイだけど、使っているうちにだんだんと傷んでくるものです。

インフラには港や空港だけでなく、道路やトンネル、橋、水道、堤防などいろいろなものがあり、同じように時間とともに傷んでいきます。これをそのままにしてしまうと、ある日突然橋が落ちたり、トンネルの天井が落下したりする恐れがあります。そうした危険を防ぐために日頃からメンテナンスを行い、長持ちさせるためにどうすればよいかを考えていくことが、維持管理に関する研究です。また、地震や台風などの自然災害に備えた補強・補修なども維持管理の一例ですね。

高度経済成長期には、古くなったら壊して新しいものをつくればよいという風潮がありましたが、これからは人口減少によりインフラ建設に振り分けられる予算も減少していきますし、地球環境に配慮したインフラ整備を考えていかなくてはなりません。そのため、『今あるインフラをいかに長持ちさせるか』『維持管理によりどれだけ耐久性を高められるか』という観点がこれからはより重要なテーマとなってきます。私たちは今あるものを丁寧に使っていかなければならないのです。

――丁寧に使う、というのはどういうことでしょうか?

モノと同じように、インフラも丁寧に使うことによって、その構造物は長持ちします。たとえば、道路の橋。これは本当に基本的な話ですが、雨が降ったときに水が流れていく側溝がありますよね。それが落ち葉で塞がって排水溝が詰まってしまうと、水はそこに溜まってしまいます。しかし、本来は橋の上に水が溜まるようなことは設計段階では想定していないので、そうした事態が起きれば、それだけでも早く傷む原因になってしまうのです。

また、自家用車の場合ですと、定期的に車体の表面をキレイに水洗いをしたり、ワックスをかけたりしますよね。汚れの除去や雨水を弾くことで塗装にできる傷や傷みを防ぎ、さらに錆びなども抑えることができます。こうした日々のメンテナンスを行うことで長持ちさせることを、『丁寧に使う』ことと表現し、今、土木の分野では重要なテーマとなっているのです。
    

維持管理の観点から生まれた『KSボンド』【東洋大学×鹿島道路】

土木用高耐久型エポキシ系接着剤『KSボンド』/ 鹿島道路

  
――インフラの維持管理の一例として、今回産学連携で実用化されたKSボンドは、どういった課題を改善するために開発されたのでしょうか?

課題は、大きくふたつありました。ひとつ目は、空港が建設された際に想定していたよりも、大きな機体の飛行機が数多く離着陸するようになったことです。空港の場合、とくにエプロン(乗客の乗り降りをする場所)の舗装は大きな飛行機が一定時間同じ場所に留まることで、かなり過酷な負荷が舗装にかかります。そうした場所は強度の高いコンクリートでできているのですが、建設当時の想定のコンクリートの厚さでは割れてしまう恐れがあることがわかりました。そのため、舗装を厚くして、さらに強度を上げなければならなくなったのです。

ふたつ目の課題は、『KSボンド』の開発のきっかけとなった羽田空港をはじめ、日本の空港の多くは埋立地にできているので、弱い地盤の上に建設されていることです。長い時間の経過により、場所によって一部の舗装が沈下して、勾配が許容値を超えてしまうといった現象が見られるようになりました。

この勾配が許容値を満たさなくなると、舗装の上に水が溜まるようになり、飛行機の荷重だけでなく、舗装を痛める要因を増やしてしまうことになりかねません。そこで部分的に沈下してしまったところにコンクリートを打ち足すのです。

――なるほど。そのコンクリートを打ち足すために、『KSボンド』が活躍するのですね?

はい。コンクリートは強度があることはわかっていても、その性能は永久的に続くものでないため、補修補強を含む維持管理を繰り返し行っていかなければなりません。今回開発したKSボンドによって、コンクリートの維持管理は行いやすくなり、舗装の性能を維持することができるようにしました。空港のエプロン舗装のように重量の負担が長時間に集中することがある場所などで大いに活躍するでしょう。

――「コンクリートを維持管理していくことが難しい」とされてきた原因には、具体的にどのような理由があったのでしょうか?

コンクリート舗装が何かしらの原因で痛んだ場合、選択肢として“壊してつくり変える方法”がありますが、また1からつくることは時間もコストもかかり、そう簡単なことではありません。そうなれば、“今ある舗装を厚くして強化する方法”が考えられます。しかし、そのためには現状のコンクリートと、その上に打ち足すコンクリートがきちんとくっつかなければいけません。まさにその『接着する方法』が大きな課題となっていました。

――ただ足すだけでは、くっつかないんですか?

はい。単純に既存の硬いコンクリートの上に、水分を含んだ柔らかいコンクリートを流し込んでも両者をきちっとくっつけることは難しいので、既存のコンクリートの上に接着剤をつけて、新しいコンクリートを打っていかなければなりません。しかしながら、しっかりと接着されていなければ、既存の古いコンクリートと新しく打ったコンクリートの間に亀裂が入ってしまいます。そうすると、せっかく厚くして強度をあげようと思っても、厚みを増した効果が出ずに割れてしまうのです。

課題は、水分を含んだ新しいコンクリートと既存の硬いコンクリートという、質の異なる素材を接着させる技術でした。つまり、ふたつをつなぐ接着剤は、硬いコンクリートにも、水分を含んだ柔らかいコンクリートにもくっつかなければなりません。接着剤のところで剥がれてしまわないようにする技術開発が必要で、これを可能にしたのが『KSボンド』なのです。

『KSボンド』産学連携による共同研究の裏側

――この共同研究でもっとも苦労した点というのは、どのようなことでしょうか?

接着剤は、大きく無機材料と有機材料のものに分けられるのですが、これまで一般的には無機物に分類されるコンクリートには、無機材料の接着剤を使う方法がセオリーでした。ところが、KSボンドは有機材料でできています。

最初は『コンクリート同士をくっつけるのだから』と定説通りに無機材料で試していたのですが、うまくいきませんでした。つまり接着がうまくいかず、接着面ではがれてしまうことが多かったのです。そこで、新しい発想で試行錯誤を繰り返し、有機材料のエポキシ樹脂を使った接着に成功したのです。

――有機材料を試すことは、通常ではありえない発想だったわけですよね。

そうですね。固まったコンクリート同士であればエポキシ樹脂でもよいのですが、エポキシ樹脂は通常、水分があるとなかなか固まらない性質があるので、水分を含む柔らかい状態のコンクリートを接着する素材としては、常識的には考えられないことでした。

しかし、そこは化学に詳しい専門家の力を借りて、有機材料と無機材料の相性をきちんと確認したり、そのための配合を見直したり、既成概念にとらわれず、試行錯誤を重ねてようやく実現しました。さまざまな専門家の英知を結集した、まさにチームプレーで解消した賜物です。これこそが共同研究の姿だと思います。

インフラの維持管理で人々の安全を守る。シビルエンジニアの使命

 


――今回の研究成果として、具体的に羽田空港と出雲空港で実装されているということですが、このKSボンドがほかの建造物にも活用できる可能性はありますか?

管理基準の厳しい空港で使用できるということは、たとえば港や道路、橋など、ほかのインフラにも使える可能性は十分にあるでしょう。同じように『硬いコンクリートの上に、柔らかいコンクリートを打ち重ねて補強する』というニーズは、これから出てくるかもしれませんね。

――たとえば、建物などに活用される可能性もあるのでしょうか?

ひとつの可能性として、あると思います。建物の補修は建築の分野になりますが、柱を補強することで耐震性を高めることが可能となります。そうしたときにもKSボンドは応用できる技術だと考えています。

――今回のインタビューの冒頭で、先生の研究内容を「土木という観点から、人々の安全を考え、支えるための研究」と表現されました。最後に、先生が研究者として大切にされていることを教えてください。

日本語では『土木』を土と木、つまり建設工事に使う材料の名前であらわしますが、英語でいうと『Civil engineering(シビル・エンジニアリング)』と言います。エンジニアリングは“工学”、シビルは“市民のための”という意味です。そして土木技術者は、『シビルエンジニア』と呼ばれています。

私は、土木を専門に研究する人間として、この『シビル』という言葉の意味を大切にしています。人の役に立ち、人々が安全に暮らせるようになることが一番の目的であり重要なこと。そうした役割が、『シビル』という言葉には集約されていると私は思っています。

これまでのインフラ整備の積み重ねのおかげで、今の日本では蛇口を回せば水が当たり前に飲めるようになりました。今後は『日々いかに快適に生活を送ることができるか』、また『巨大な自然災害から逃げ延び、生活産業基盤を守っていくことができるか』が強く求められます。しかし、これから人口が減り、そこに回せるお金が減っていくなかで、どうやって今のレベルを維持し、これらの要請に応えていくかは、とても大きな課題です。

研究者は、研究をすることが目的ではなく、その研究の成果を社会に貢献させていくことが大切です。だからこそ研究者は、『つくりあげた技術や知識を社会のためにどうやって生かしていくか』をつねに考えていかなければなりません。『KSボンド』もこれができたことによって空港が安全に使い続けることができるようになりました。この研究がこの先、空港以外のさまざまなところでも生かされるようになり、人々の安全を守る一助となることを願っています。

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