INDEX

  1. 日本における地域福祉のあり方の変遷と課題
  2. 地域のつながりの希薄化に対して注目される「コミュニティカフェ」とは
  3. 「誰一人取り残さない」インクルーシブな地域共生の実現のためにできること

INTERVIEWEE

山本 美香

Yamamoto Mika

東洋大学 ライフデザイン学部生活支援学科生活支援学専攻 教授
博士(学術)。専門は社会福祉学。地域福祉論(小地域福祉活動・住民活動など)、生活困窮者に対する住宅政策などをテーマに研究を行う。日本地域福祉学会、日本社会福祉学会に所属。著書に『地域福祉の理論と方法』[編著](弘文堂)、『臨床に必要な居住福祉』[編著](弘文堂)など。

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日本における地域福祉のあり方の変遷と課題


    
――はじめに、日本における地域福祉のあり方について、これまでの流れと現状を教えてください。

地域福祉という考え方自体は割と古く、1960年ごろから存在しています。かつて日本では伝統的な村落共同体が形成され、隣近所で支え合う仕組みが成立していました。都市部では町内会などが形成され、それぞれに地域をまとめる役割を果たしていたのです。しかし、高度経済成長期を経て、人口が都市部に移動し、過密化する一方でその他の地域では過疎化が進み、これまで存在していた伝統的な地域社会は脆弱化していきました。

現在の地域福祉政策では、誰もが住み慣れた地域で暮らし続けることが掲げられていますが、1970年代ごろは、家庭で看れなくなった高齢者や障がいのある方は施設へ入居するのが当たり前と考えられていました。それから国際的な潮流もあり、現在のような地域で支え合い、地域の中で暮らし続けるという考え方に移行してきたのが、1980年代ごろからです。2000年から施行された「介護保険法」と、2000年に改正された「社会福祉法」は現在の日本の地域福祉を形づくる上で非常に重要であり、社会福祉制度に大きな変化をもたらしました。これらの法律の一番のねらいは、在宅福祉サービスを手厚くし、介護が必要となった高齢者でも住み慣れた地域に留まれるようにすることです。

そして、政府は「一億総活躍社会」の実現に向けて、子ども・高齢者・障がい者などすべての人々が“地域の中”で協力し、生きがいを共に創り、高め合うことができる「地域共生社会」のための政策を展開しています。ここで「地域共生社会」とは、支え手側と受け手側に分かれるのではなく、地域のあらゆる住民が役割を持ち、支え合いながら、自分らしく活躍できる地域コミュニティを育成し、福祉などの地域の公的サービスと協働して助け合いながら暮らすことのできる社会とされています。

――「地域共生社会」が謳われる一方で、少子高齢化や地域住民のつながりの希薄さなどから、理想と現実には大きなギャップがあるようにも思えます。

先ほど申し上げたように、かつての日本には隣近所とのつながりを大切にする共同体の仕組みが成り立っていました。しかし、現在の日本は、アメリカやイタリア、ドイツなどの国々と比較しても、近隣の人との付き合いが希薄であることが国際調査でも明らかになっています。

国が掲げる地域共生社会の実現のためには、地域に関わる人材の充実が不可欠ですが、すでに地域の状況はひっ迫しています。地域福祉コーディネーターや生活支援コーディネーターなど人材の拡充も図られていますが、地域の中で積極的に関わろうという人は一握りで、特に若い世代の関心が薄くなっています。このような状況では、現在の体制はあと10年も続かないことが予想されますが、人手不足の問題は海外でも同様に起きており、現在これらを根本的に解決する特効薬はありません。そのため、まずは一人ひとりが住んでいる地域に目を向け、そこに積極的に関わっていくことが重要なのです。
   

地域のつながりの希薄化に対して注目される「コミュニティカフェ」とは


   
――地域のつながりの希薄化が進む現状で、注目されている取り組みなどはありますでしょうか。

コミュニティカフェの可能性は、国内はもちろん海外からも大きな注目を集めています。私は東京都北区にあるUR豊島5丁目団地のコミュニティカフェで研究を行っています。豊島5丁目団地も近年は住民の高齢化が進み、高齢者の孤立や孤独死なども問題となっていました。そこで、団地の自治会活動の一環として「コミュニティカフェを立ち上げてみてはどうか」という意見が上がったことから、カフェ開設に向けた企画が始動しました。私は「カフェを作るべきか否か」という開設前の調査段階から、この企画に関わっています。

カフェ開設の主な目的は、住民の集まる場所があることで生まれる関係づくり、住民の居場所づくり、高齢者の孤立の防止の3つです。さまざまな検討フェーズを経て約3年前に「フラット5(ファイブ)」という名称で開設し、月に一度、学生と一緒にカフェ訪問をしていました。

――コミュニティカフェでは、具体的にどのような活動を行っているのでしょうか。

これまでは、お茶を飲みながら折り紙や塗り絵、お裁縫など手を動かしながら話をする企画を学生と一緒に行ってきました。多い時には7~8人の学生が参加していましたが、若い人の少ない団地では、実は学生が参加してくれることは非常に喜んでもらえるのです。気難しく、普段はなかなか会話の輪に入れないような方も、不思議と学生とは打ち解け、帰るときには表情が柔らかくなっている…ということもしばしばあります。学生のエネルギッシュな若さやコミュニケーション能力の高さに感心しながら、若い人と高齢者とが交流することの重要性も感じました。また、そこに住む方々がこれまでどのように暮らしてきたのか、現在は日常のどんなところに不便を感じているかといったことも、身近な会話から読み取ることができ、地域が抱えている課題も何気ない会話から見えてくるのです。

――現在はコロナ禍でカフェへの訪問は難しいと思いますが、どのようなことを危惧されていますか。

コミュニティカフェにはどのような方が来るのか、参加したことでソーシャルキャピタル(生活、人間関係、地域活動への意欲など)にどのような変化があったかなどの効果測定をしているところでしたが、現在はカフェをオープンすることが難しくなってしまっている状況です。訪れる人に話を聞くことができないため、カフェを運営する自治会の女性部の方々に「どのような気持ちで運営に携わっているのか」「今後、このカフェをどのようにしていきたいか」「利用者像について」といったことを伺い、運営に関する調査に転換しています。

カフェをオープンできないことによって、これまで通って来てくれていた人が今はどのような生活をしているのか、外出できないことで生活不活発病などに陥っていないかと心配しています。いろいろな集まりがクローズしていく中で、高齢者が集える場所も感染へのリスクなど多くの課題が突き付けられています。直接会わずに人と人とのつながりをオンラインで作る方法、人数を絞って開催する方法、室内で行っていたものを屋外で行うなど、それぞれの地域でさまざまな工夫がなされていると聞いています。
          

「誰一人取り残さない」インクルーシブな地域共生の実現のためにできること


    
――誰もがいきいきと暮らすことができるインクルーシブな地域社会のための仕組みとして注目されていること、個人ができることについて教えてください。

先ほど述べたコミュニティカフェのほか、自治会という仕組みは日本独特のものであり、自治会で開催されるイベントなどに関心を持っている海外の方も多いようです。豊島5丁目団地では、団地の方と学生が一緒になってもちつき大会を開催したことがあったのですが、その時にもイギリス人とアメリカ人の方が見学に来ました。「何のために開催しているイベントなのか」「誰が主体でやっているのか」といった質問を受けましたが、日本の地域社会の構造やあり方に対して強く関心を持っているようでした。

――一方で、日本の若い世代は地域への関心が薄いと言われています。しかし、住んでいる地域に関心がないというよりは、地域のイベントなどは特定の人が参加していたり、同世代がいなかったりと、参加するハードルが高いと感じている方も多いと思います。

そうですね。大きな課題である地域福祉に関わる人手不足には、地域の中の若い人たちの力が必要です。若い世代は特に地域への関心が薄いとされていますが、やはり地域の中で誰もが安心して暮らし続けるためには、人と人、人と地域のつながりは欠かせません。災害が起きた時や、年を重ねてからの暮らしなどを想定してみると、いざというときに近くで助けてもらえる関係性をつくることは大切です。そのためには、日ごろから地域に関心を持つこと、地域で何が行われているかを知ることを意識しながら、まずは地域の掲示板に目を向けてみる、商店街のお祭りに参加してみるなど、小さなこと、楽しいと思えることからつながりを見つけてほしいと思います。

――コミュニティカフェや自治会の活動から、一人ひとりの生きがいや社会資源につながるような仕組みづくりについて、何かヒントがあれば教えてください。

例えばコミュニティカフェのような場で集まって作ったものをWebサイトで販売し、得られた資金を誰かの役に立つように活用するというようなことは、高齢者にとって生きがいにもつながると思います。高齢者の方々が作ったものを売り、その売り上げを地域の小学校や子ども食堂の支援につなげている自治会などもあります。豊島5丁目団地のコミュニティカフェでも吊るし雛を作ったことがありますが、かわいく、そして完成度の高いものが仕上がりました。ただ集まって終わりではなく、「次の活動」につなげていくことも検討しています。

また、特に地域への関心を持ってもらいたい若い世代に向けて発信力を高めるためには、SNSツールを積極的に活用していく必要もあると感じています。地域には掲示板や広報誌が存在しますが、その発信力には限界があります。地域のイベントなどをTwitterやInstagramで発信することも、地域の活性化にきっと役立つはずです。

地域を意識し、目を向け、参加することこそが、“誰一人取り残さない”より良い地域社会を作るための第一歩として真に必要なことなのです。
    

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