INTERVIEWEE
片山 美由紀
KATAYAMA Miyuki
東洋大学 社会学部 社会心理学科 教授。修士(人文学)。専門分野は心理学、社会心理学。関連著書に『自由時間のあり方研究の基礎的整理と社会心理学-WLBでみえにくい部分』(東洋大学紀要)、『乳幼児の母親の不適応(個人・母親としての危機)』(日本社会心理学会大会)、『「非本来自己感」の性・年代差からみた自己解放感の潜在ニーズ』(HIRC年報)、『自由時間行動としての観光行動』(『観光行動論』所収 原書房)など。
※記載されている所属・役職などは取材当時の情報です。
「いつの間にか」休日が終わってしまう。疲れが取れる休み方を知らない日本人。

──まずは、先生のご専門や研究テーマについて教えてください。
「休養」や「自由時間(余暇)」の意義、そしてこれらの時間をどのように過ごせば心身の回復に繋がるのかを、社会心理学の立場から研究しています。
しっかりと休みたいのに、どうすればよいかわからないまま、休日が終わってしまう。そんな葛藤・ストレスを抱えている人は多いでしょう。そのような人の、余暇の過ごし方をより良く変えていくために取り組んでいます。
──スマートフォンをいじっていたらもう夜に……なんてこともありますよね。先生は、日本人の休み方をどのように捉えていますか?
そもそも、日本では長期休みが取りづらく、「気づいたら休日が終わっていた」と感じている人も少なくありません。ヨーロッパをはじめとした多くの国々では、ILO(国際労働機関)132号条約に基づき、2週間連続の休暇取得が基本権利として保障されています。しかし、日本はこの条約に批准していません。2・3日程度の短い休暇では、疲れを解消することで精一杯になり、十分に余暇を楽しむところまでなかなかたどり着けないのです。“休暇改革は「コロンブスの卵」”。連続休暇は個人にも社会にも良いことのはずなのですが。
日本では制度としても実態としても、みんな仕事中心の生活が当たり前になっています。一朝一夕では制度を変えることはできませんが、わたしたち一人ひとりが、休養について考え直すことはできるのではないでしょうか。休むこと、自分の自由な時間を持つことを当然の権利として捉えて、どのようにその時間を過ごしたいか、考えることが大切です。
休むことは、「今」を大切にすること。生きることそのもの。そして将来の人生においても財産になります。友人や家族と「昔あそこに遊びに行ったよね」「こんなハプニングもあったよね」と思い出話に花を咲かせる時間は、人生を豊かにします。
休み方は1つじゃない! 休養のタイプを理解し、自分に合う疲れの取り方やリフレッシュの方法を考えよう

──休日をどう過ごせばいいのか迷ってしまう人も多いと思います。そもそも「余暇の過ごし方」にはどのような種類があるのでしょうか?
余暇の過ごし方には大きく分けて「祝祭」「達成」「解放」という3つのタイプがあります。自分がどの過ごし方に心地よさを感じるのか知ることが、上手にリフレッシュするための第一歩です。
「祝祭」は、ある瞬間の、刹那的な興奮・盛り上がりを楽しむスタイルです。例えば、仲間とワイワイお酒を飲んで語り合ったり、音楽ライブに参加したりお笑いを楽しむようなものが該当します。
「達成」は、自分で定めた目標に向かって活動し、スキル・知識が身に付くことに喜びを感じるもの。集中力を伴うことが多いのが特徴です。市民マラソンでタイム更新を目指したり、楽器や手芸や外国語を極めたり、知識を増やしていくことなどがあります。
「解放」は、日頃の役割や悩みから自由になり、時間の流れに身を任せて自由に過ごすこと。温泉でのんびり過ごしたり、頭を空っぽにしてゆったり散歩したりするイメージですね。ふだんの生活拠点から遠く離れた場所に行くことも解放につながります。
人によって「祝祭」タイプが多かったり、「達成」タイプが多かったり等、余暇の過ごし方にはそれぞれの傾向がみられます。自分がどのような過ごし方を好み満足するのかを見つめ直してみることが、よりよい休養につながるかもしれません。
もっとも、休養の具体例を出しましたが、実際にはこれらの具体例と3つのタイプが、必ずしも対応関係にあるわけではありません。例えば温泉に行く場合、のんびりするために行く「解放」タイプの方もいれば、ある種のテーマパークのような気分で行く「祝祭」タイプの方も居ると思います。上記の具体例はあくまで参考として捉えたうえで、自分がどのようなタイプを好むか、別のタイプも楽しめそうか、と考えてみてください。
──なるほど。ちなみに、先生は「タイパ」重視の過ごし方についてはどうお考えですか?例えば、映画を倍速で観るような過ごし方は意見が分かれる印象です。
「休養」という側面から考えると、効率重視の過ごし方が一概に悪いとは思いません。映画や本など、たくさんの作品・情報に触れている自らの姿に満足できている場合は、何ら問題ないでしょう。
逆に、ずっとPCやタブレットにかじりついて動画を観続けた結果、ふと後悔してしまうケースもあると思います。その場合は自分自身の過ごし方に満足できていない状態なので、休養の形としては好ましくありません。どのような時間の過ごし方が自分に合っているのか、満足なのか、考えてみてもいいかもしれません。
──あくまで、自分が納得できる過ごし方かどうか、という部分が基準になるんですね。自分らしい休日の過ごし方を考える際、どのようなステップで考えるとよいでしょうか?
まず、休養には優先順位があります。一番は「睡眠」。これは休養の3タイプとは関係なく、全員が最優先で考えるべき休養の形です。単に睡眠時間だけを気にするのではなく、睡眠の質を高めるための工夫も実践しましょう。お腹の調子を整えたり、やわらかいものに包まれたり。目や耳を温めるグッズの活用もおすすめです。
その次が「癒し」です。休養の3タイプである「祝祭」「達成」「解放」を、比較的ゆるやかに実践する場合が該当します。好きな音楽を聴いたり、いつも通り料理をしてみたり。特に、簡単な編み物や野菜の千切りのように細かい作業に集中するものは、日頃のストレスを忘れられるので効果的です。
最後に、「積極的リカバリー」というものがあります。これは、回復に向けてより積極的にアクションを起こす段階で、軽く身体を動かしたり、能動的に何かに取り組んだりすることが該当します。ここでポイントとなるのが、目や頭といった「首から上」だけではなく、「首から下」の身体も動かす、または刺激を受けられるようにすることです。
──「首から下」ですか。例えばどのようなことがありますか?
アクティブに動くことをイメージするかもしれませんが、運動だけに限った話ではありません。例えば、テレビやスマートフォンでスポーツ試合のライブ映像を観るとします。強く関心を持ち、試合にのめりこんだ状態で観ていれば、選手が素晴らしいプレイをしたとき、思わずガッツポーズをしたり、拍手したりするでしょう。これも「首から下」が動いている状態です。
そのため、スマートフォンをはじめとした画面を観て過ごす休息が、即ち悪いことだとは考えません。ただ、1日のなかで「頭を使うだけの時間」の割合が大きくなりすぎるのは、気を付けた方がよいでしょう。スマートフォンが普及し、AI活用も進んでいる状況ですので、仕事も遊びもじっと画面を見つめたまま、という人が増えているように思います。そうではなく、心身ともにリラックスできることや、思わず夢中になってしまうことを見つけてみましょう。
──「休んでいるのに疲れが取れない」という人は、「睡眠」「癒し」のフェーズだけではなく、「積極的リカバリー」を試してみるといいかもしれませんね。
そうですね。なかなか外に出たり体を動かしたりする気力が湧かない場合は、胸を開くようにして腕を動かすストレッチをすると、活動する気力が戻ってくるかもしれません。両手をあげて、ゆっくり呼吸し、有名な漫画『ドラゴンボール』の「元気玉」のエネルギーを集めるようなイメージで元気が出てくるのを待つのもおすすめ。心がなかなか動かない場合は、体を動かすことから始めてみてください。
趣味がすぐに見つからなくても大丈夫!おすすめの疲労回復と休み方の4選

──気軽に・短時間でできる「積極的リカバリー」のアイデアをいくつか教えていただきたいです。
今回は4つご紹介します。
■自然を使って「心をチューニング」する
まず戸外に出て、近所にある街路樹や、道端に生えている花を見つけてください。気になるものを見つけたら、スマートフォンで写真を撮るのではなく、手描きで葉っぱの形を模写してみましょう。紙とペンが面倒なら、スマホのメモ機能を使って指で描くだけで十分です。上手に描こうとする必要はありません。植物の形を自分の指で追う作業によって、自然と向き合う時間が生まれ、心が不思議と整っていきます。
■紙の雑誌と1時間過ごす
大きめの書店や図書館に行き、「紙の雑誌」を1冊入手してみてください。1冊の雑誌には1つの世界が詰まっています。Webで記事を読むときは自分の気になる情報だけを検索することになりますが、1冊の雑誌と付き合うと、自分が興味を向けてこなかった事柄にも偶然触れることができます。1時間集中してページをめくれば、日々考えていることから距離をおいて、雑誌のなかの世界に浸れます。
■「いつもの自分」とは違うことをしてみる
洗えば落ちるヘアカラースプレーを使ったり、いつもと違うファッションアイテムを身に付けたりして、普段の自分とは違う姿になることがリフレッシュにつながります。身に付けるものを変えるのが難しい場合は、100円均一ショップで不思議なおもちゃを買ってみるのもおすすめ。暗闇で光る棒やスライムなど、自分の持っていないものを探してみましょう。
「いつもの自分」という枠から少し外れることで、同じ役割ばかりで過ごす疲弊感や倦怠感から抜け出し、フレッシュな感覚を取り戻せるのです。
■部屋の中でもできる「プチ・アクティビティ」を実践する
暑い時期、寒い時期、外に出る元気がわかない人も居るでしょう。そんなときは、家でできるプチ・アクティビティを試してみてください。例えば、中古のパターゴルフクラブを買って、部屋でボールを打って転がしてみる。好きな香りのアロマを焚く、部屋を暗くしてキャンドルを灯す。何をするにも億劫になってしまう人は、家でできるアクティビティの選択肢を増やしておくと、上手にリフレッシュできるようになるかもしれません。
──ありがとうございます。どれもすぐに試せそうなアイデアばかりですね。
新しいことを始める時は面倒臭いと感じやすいものですが、一度やってみると「案外楽しかった」と思える場合が多いです。ハードルを限界まで下げて、いろいろな休み方を試してみて、自分にぴったりの方法を見つけてみましょう。
職場や家庭といったコミュニティの中で、求められる役割に徹して生きることを役割の一元化といいます。こんなときは「わたし」という個人の感覚が置き去りにされがちです。そしてもし役割に疲れ果てたときには逃げ場がなくなってしまいます。けれども「こんなことを楽しむ別の自分、別のわたしが居る」という安心感、選択肢を複数持っておくことは、将来の自分を支えるお守りになります。みなさんが、自分に合った余暇の過ごし方を見つけて、心も体も上手にリフレッシュできることを願っています。