INDEX

  1. 複合的な知識や実践力を獲得するために東洋大学へ
  2. “副業”大学生が挑んだ、データ活用から始める都のDX推進
  3. コロナ禍の今、訪れたDX推進のチャンス

INTERVIEWEE

寺田 一世

TERADA Issei

東洋大学 情報連携学部情報連携学科 4年
情報連携学部情報連携学科エンジニアリングコースで学ぶ傍ら、2021年1月に東京都庁のデジタルシフト業務を担う非常勤職員として「デジタルシフト推進専門員」に採用された。コロナ対策サイトの構築やオープンデータの推進など東京都のデジタルシフトに取り組んだ経験を持つ。

複合的な知識や実践力を獲得するために東洋大学へ


   
――はじめに、寺田さんが情報連携学部を志望された理由を教えてください。

高校生の頃、学びを進めるなかで現代社会の課題を解決するためには偏った知識ではなく、複合的な知識が必要だと思うようになりました。その思いにマッチし、かつ “芸術”という他大学にはない視点が含まれた学びに魅力を感じ、東洋大学情報連携学部を志望しました。入学当時、情報連携学部は開設から2年目で、新しいことがチャレンジできるのではないかという期待感も後押しになりましたね。

入学して最も魅力を感じたのは、第2外国語がプログラミング言語であることです。1年生の時に、データサイエンスの中でも汎用性が高く、広く活用されているプログラミング言語であるPythonを学びました。大学ではこのような最先端の知識や技術にふれることができるため、社会に直結した学びがあると日々実感します。大学入学後ゼロからプログラミングを始めましたが、今では「こういう機能がほしい」と思ったことを自らの手で具現化できるようにまでなりました。

――身につけた技術を生かして、富山県の新型コロナウイルス感染症対策サイトの制作にも関わったとお聞きしました。

富山県内の陽性者数や入院者数などをまとめたWEBサイト「富山県 新型コロナウイルス感染症 対策サイト」と、県民が利用できる支援制度をまとめた「富山県 新型コロナウイルス感染症 支援情報ナビ」を制作しました。きっかけとなったのは、SNSを通じて東京都のコロナ対策サイトが複製・改変が許されたオープンソースソフトウェアとして公開されているのを知ったことです。ふるさとの富山県で新型コロナウイルスの感染者が出始めたタイミングだったため、何か力になれないかと思いました。

制作した対策サイトは、他の地域のサイトを参考にしつつ、東京都新型コロナウイルス感染症サイトのプログラムをベースにシステムを構築しました。素早く正確な情報公開を可能にしているのは、富山県と共同で構築した情報をやり取りするためのシステムです。また、陽性者数の推移や受診・相談センターへの相談件数などの数字をグラフ化することで見やすさにも配慮しました。大学内で交流のあった留学生にも翻訳の協力をしてもらい、英語表示にも対応しています。公開後は1日に最大15,000人の方に閲覧いただいており、富山県から公認をいただくことができました。(※)

現在、卒業研究として「持続的なバスオープンデータ作成支援のためのWeb ベース GTFS-JP 作成ツールの実装と評価」に取り組んでいますが、コロナ対策サイト制作時にお世話になった自治体の方々にも、実証実験という形でご協力いただいています。現場の声を聞かせていただくことができ研究に深みが増しました。

(※)寺田さんの富山県新型コロナウイルス感染症対策サイトの開発・運営に関する取り組みは、社会貢献活動を通じて、特に顕著な活動成果を挙げたとして東洋大学でも2020年度に表彰されました。
     

“副業”大学生が挑んだ、データ活用から始める都のDX推進


   
――富山県版のコロナ対策サイト制作をきっかけに、東京都のデジタルシフト推進専門員に応募をされたそうですね。どのようなお仕事に携われたのでしょうか。

2021年1月に採用されましたが、目標を具体化していくスピード感に驚かれました。

取り組んだのは採用サイトの制作です。そのほか、行政のオープンデータ化推進の一貫として行われた「東京都中央卸売市場日報」のオープンデータにも携わりました。「中央卸売市場のサイトで提供している卸売予定数量と販売結果のデータを飲食店の需要予測に活用すれば、フードロス削減につながるのでは」というIT企業からの提案がきっかけとなり、取り組みがスタートしました。そこで開発したのが、市場日報を一般の方がより利用しやすくするための自動変換ツールです。Pythonを活用し、今まで公表されていた中央卸売市場の販売予定数量と販売結果のデータを、機械がより判読しやすい形式のデータに自動変換するプログラムを組みました。形式が異なるデータは機械がエラーとして判読してしまうため、形式の統一を図るための修正プログラムを制作するのに苦労しました。

――採用されて数カ月で、ツールを一から開発するお仕事を任されるとはすばらしいですね!寺田さんは今まで行政サービスを受ける側でしたが、今回サービスを提供する“内部”に入ってみて、気づいたことはありますか。

大学での研究は比較的自由に行うことができますが、行政の立場となると私が良いと思っても多くの方から賛同を得られなければ実現することはできません。サービスを利用する方に意識を向けたプログラムの開発が必要だと痛感しました。そのため、アクセス解析のレポートやアンケートフォームから寄せられる利用者の声を注視し、日々改善に繋げるようにしています。より多くの方の意見を反映できるように、今後工夫していきたいです。
   

コロナ禍の今、訪れたDX推進のチャンス


  
――デジタルシフト推進専門員として都庁のDXに携われたご経験をふまえて、今後、さらにDXを推進していくにあたって、どのようなことが重要とお考えですか。

DXという言葉は、非常に広い範囲で使われていると感じています。全てを一度にDXするのは難しく、小さなゴールに向かって一つひとつ着実に進めていくことが大切なのではないでしょうか。

具体的に働く環境を例に挙げてみましょう。私がデジタルシフト推進専門員として勤務し始めた当初、業務用に支給された都の端末は、使用できるWebブラウザがMicrosoftのインターネット・エクスプローラー(IE)でしたが、その後、情報処理により適したGoogle Chromeを全職員が使えるようになりました。これも、行政組織にとってはDXへの大きな一歩です。また、オフィス内にはフリーアドレスが導入されました。いずれも数カ月の間の変化で、職員の方々がより働きやすくなるように変わっていることを肌で感じました。

都庁に限らず、企業でも学校でも、固定席を見直す、書類を電子化するなど、身近な業務からDXを取り入れる意識をもつことで大きな目標達成に繋がります。従来のやり方にこだわらずに、新しい考えを取り入れてチャレンジする姿勢を忘れないでほしいですね。

――DXと聞くと大きな改革をイメージしてしまいますが、改めて見直すとすぐに取り組めることも多いのですね。一方で、小さな改革であってもリスクを恐れてなかなか踏み出せない企業や学校もあると思うのですが……。

個人的には、デジタル面において海外に比べ日本はとても遅れていると感じています。だからこそ、DXが進んでいる海外での成功事例を真似することも必要ではないでしょうか。先ほど都庁のフリーアドレスのお話をしましたが、フリーアドレス自体は、もっと前から導入していた企業もありましたよね。このように、すでに上手く活用されている制度やアイデアを取り入れるのであれば、リスクもある程度低いように思います。

また、「良い取り組みを開示しない」という日本の企業体質も合わせて見直していくべきです。職場環境を整えるための良い事例は着々と生まれているはずなので、外部向けに公開されるようになれば日本社会全体がより良い方向へ進むと思います。

新型コロナウイルス感染症による影響は、もちろんマイナスな影響が大きいですが、その一方で、国内におけるDXはかなり前進したと感じています。この逆境を新しい世の中を作れる機会と捉えて、前向きに取り組むことが何よりも大切だと思いますね。

――寺田さんご自身の今後の目標をお聞かせください。

卒業研究で開発したバスのデータツールを今はクローズドで公開していますが、今後は全国の方が利用できるように調整したいと思っています。利用者の声を聞き、改善を繰り返して運営を続けていきたいです。

卒業後は、デジタル人材として都庁への就職が決まっています。行政で働くことを元々考えていたわけではありませんが、専門員を経験して行政の仕事の面白さややりがいを知り、「この仕事を続けたい!」と思うようになりました。正職員になることで、これまで以上に大きなプロジェクトに関われるのではないかという期待が膨らんでいます。

また、これから活用が広まるであろうメタバースについても勉強したいとも思っています。津波などの災害シミュレーションなど、国の防災に役立つようなプログラムも制作してみたいですね。
    

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