INDEX

  1. 避難準備をする前に。災害予測の可否を理解しよう
  2. 避難時の心構え
  3. 備えあれば憂いなし。突然の災害に対応するために

INTERVIEWEE

松丸 亮

MATSUMARU Ryo

 東洋大学 国際学部 国際地域学科 教授
 博士(工学)。専門分野は土木工学、防災・復興、水資源、途上国開発。防災に関わる幅広い領域を専門とし、各地で「自然災害リスク対策」、「地域の防災」、「企業における自然災害対応」などをテーマに講師を務める。著書に『持続可能な開発目標と国際貢献-フィールドから見たSDGs-』「第6章:防災とSDGs」共著(朝倉書店)、『グローバル時代のアジア都市論 持続可能な都市をどうつくるか』「第10章:都市と防災」共著(丸善出版)などがある。
 

避難準備をする前に。災害予測の可否を理解しよう

画像:東洋大学国際学部国際地域学科 松丸亮 教授

――先生のご専門を教えてください。
「私は土木工学という分野の出身で、はじめはインフラの調査・計画・設計をしていました。そこでは、おもに海外における洪水をはじめとする災害の防災対策(河川防災)を行っていました。しかし、防災といっても河川の氾濫を抑えるだけではなく、土地利用などの問題にも取り組まなければならないし、住民の方々の意識改革もしていかなければなりません。それらに関わってきた経験から、今はおもに避難や復興を中心に、防災に関わる幅広い領域を専門にしています。」
――最近では地震をはじめ、台風や津波などのさまざまな自然災害が頻発しています。あらゆる自然災害に対応できる避難準備をするために、私たちはどうすべきでしょうか。
自然災害には、『予測できる災害』と『予測できない災害』があります。たとえば、洪水・台風・大雪などは事前情報である程度の予測ができます。竜巻や雷、土砂崩れについても、多くは気象にかかわることなので、ある程度の予測はできるでしょう。しかし、地震は予測ができません。津波は、海底で発生した地震を原因とすることがほとんどなので、海底で大きな地震が起きたことが分かれば、津波の発生を予測することはある程度可能です。
 

予測できる災害:洪水・台風・大雪 ある程度予測できる災害:(津波・土砂崩れ・火山噴火)雷・竜巻 予測できない災害:地震


これら自然災害予測の可否を理解したうえで、避難のために事前に準備するべきことは、『連絡手段』『物資』『避難場所』の3つです。それぞれ詳しく解説していきましょう。」

避難準備①「連絡手段」



「まずひとつ目は、家族が離れ離れになってしまったときのための『連絡手段』です。台風などの予測ができる災害の場合は数日前でも話し合えますが、地震のように突然発生するような災害に備え、連絡方法を決めておくべきです。また、自分が被災地域にいない場合でも、おじいちゃん・おばあちゃんや親戚、両親、高齢者がいるなら事前に確認しておく必要があります。」

――どのように決めておけばよいのでしょうか?
「たとえば、家族と連絡が取れなくても『最終的にその場所に行けば落ち合える場所』、おじいちゃん・おばあちゃんがいるご家庭なら『避難準備情報が出た段階で避難所に行こう』などというルールを家族の中で決めておくとよいでしょう。事前にルールや連絡手段を決めておけば、いざ災害が起き、家族と連絡が取れなくなってしまっても安心です。」


避難準備②「物資」

――避難時に必要なものは何でしょうか?
「避難に必要なものは、持ち出しやすい場所にまとめておくことが大切です。どのような災害で避難するかによって持ち出すものは変わると思いますが、準備しておくものとしては、通帳・印鑑のほか、高齢者の方は持病の薬・お薬手帳などもいざとなったときにすぐ取り出せる場所においておきましょう。」

――避難時に持ち出すものとしては、飲食料よりも通帳や薬などのほうが優先度が高いのですか?
「地震などの災害で避難するときに、重たい荷物を持って動くことは現実的ではありません。今は災害時であれば印鑑や通帳がない場合でもお金はおろせるようになっているので、最悪なくても大丈夫ですが、薬やお薬手帳は持っていたほうが安心です。 水や食料などの備蓄が必要になるのは、被災したあと、家に戻って生活しなければならない場合が多いです。」

――確かにそうですね。以前、大きな台風が来るときにスーパーで食品を買い占める人が急増し、社会問題にもなりました。
「そうですね。ただ、台風が来るからといって買い占められてしまうと、スーパーに何もなくなってしまうので、本当に必要としている人が買えなくなってしまう懸念があります。ですから、災害が来ると聞いてから急いで準備をするのではなく、普段から非常時に備えて準備をしておくことが大切です。たとえば、水は一般的に1日ひとり2Lあればよいとされていますので、一般的な2Lのペットボトルが2〜3本あれば3日くらいは飲み物に困ることはありません。大雨で浸水するような被害にならなければ、たいていの台風は1~2日我慢すれば、日本を離れていってしまいます。 あとは非常食をどれくらい用意しておくかです。最近では、大地震に備えるには1週間分というような話がありますが、この量を非常用のためだけに用意しておくのは、難しいと思います。これについては「ローリングストック」といって、あらかじめ普段使いできる食材のうち保存の利く食材を多めに買っておき、賞味期限が近づいたらそれを使い、また新しいモノを追加していく方法があります。たとえばレトルトのカレーを常備しておいて、賞味期限が近づいたり、日常生活の中でおかずとして食べてしまったら、同じ量を買い足すのです。 それから、災害用のストックや大切なものについては、1階ではなく2階に保管しておくとよいでしょう。そうすれば、洪水などで1階が浸水して使えなくなってしまったときでも安心です。普段からそうした生活を意識しておけば、いざというときに助かったり、困るようなことを減らすことができるはずです。」


避難準備③「避難場所」



「それから注意してほしいのが、避難所の場所です。たとえば、避難所が水害水域に入っている場合もあります。しかし、水害のときに水害地域に入ってしまっては避難している意味がありません。そうしたこともあり、今は、災害によって避難場所が違うこともあるので、災害に応じた正しい情報をあらかじめ確認しておかなければなりません。」

――その情報はどこで確認すればよいのでしょうか?
「検索エンジンで『ハザードマップ(被害予測地図)』で検索すると、国土交通省の『ハザードマップポータルサイト』が出てくるので、そこでいろいろな場所のハザードマップが確認できます。自治体で印刷されたハザードマップが配布されている地域もあって、中には逃げる方向が書かれているものもあります。」

――逃げる方向も重要なのですか?
「人はどこかへ行こうとするとき、無意識に慣れた道を行きがちです。広い道が好きだったり、ショートカットをするのが好きだったり……。でも、たとえば河川の氾濫が激しいときに川沿いの道を歩いてしまったら、それはとても危険ですよね。ですから、安全に避難所へ行けるルートも事前に確認しておく必要があります。 事前準備としてやってほしいのは、ハザードマップを見ながら実際に避難所まで歩いてみること。人は習慣で動いてしまうので、避難するときにはその習慣を排除する必要があります。実際に避難するときのルートを通って避難所まで行く経験をしておけば、災害が起きたときにも『今日はこっちのルートだ』と思い出せる可能性が高まります。ですから、安全に避難所までたどり着けるルートを歩くなり、車で通るなりして、きちんと避難所までたどり着けるようにしておきましょう。」  

避難準備④「アプリの活用」

――そのほかに、先生が「これはやっておいたほうがいい」という準備はありますか?
「思いつくのは、アプリの活用ですね。被災を経験したことがない人の携帯電話と比べ、被災した経験のある人の携帯電話にはさまざまな災害対策のアプリが入っていると言われています。災害への意識の違いから来るものでしょうが、今は便利なアプリがたくさんあるので、そういったものを活用することも防災対策のひとつになります。」
――なるほど。たとえば先生がおすすめするアプリはありますか?
普段から入れておくと便利なのは、雨雲アプリ。種類は問いませんが、大雨やゲリラ豪雨などはこれである程度は予測できます。予測ができれば、自ら危険な雨の中に入って行かずに、短時間で強い雨の場合は少し我慢して建物の中にいればおさまるでしょう。大きな水害、洪水の中に自分が行かなければならない状況を避けるためにも、雨雲のアプリは入れておくと便利です。 また、河川のそばに住む人は、洪水情報などを教えてくれる河川情報のアプリがおすすめです。このように自然災害は気象が関係するものが多いので、気象関連のアプリは入れておくとよいでしょう。」
 

避難時の心構え

①避難のタイミング

――いざ避難をすることになった場合、私たちが気をつけるべきことはありますか?
一番は、『なるべく早く避難する』こと。ただ、皆さんなかなか避難をされないのが現状です。その理由のひとつに、避難準備勧告のレベルを理解しきれないという問題があります。 参考:平成30年7月豪雨を踏まえた水害・土砂災害からの避難のあり方について(内閣府)

「西日本豪雨のあとにも避難に関する言葉が見直され、さまざまな言葉が増えました。今は、『警戒レベル3』で高齢者などは避難し、『警戒レベル4』で全員が避難するようにと目安が出されています。ただ、調べて理解しても、数年後にまた変わる可能性もあるので、普通に生活している方にとってわかりづらい点が問題視されています。しかし、現状では個人個人が意識して確認するしかありません。 もうひとつの大きな理由として『自分に悪いことは起こらない』という思い込みが挙げられます。たとえば今ここで火災報知器がなっても、『きっと別のところだ』と思い、多くの人は動かないでしょう。ですから避難指示が出たときには、そうした『思い込み』を払拭して、『災害は誰にでも起こりうる』ということをきちんと意識したうえですぐに行動を起こす必要があります。」
<参考動画>


引用:【防災教育】小学生向け動画「洪水から身を守るには」(詳細版)/Mlitchannel(国土交通省)


引用:災害 その時を生きのびるために〜風水害編〜/かなちゃんTV(神奈川県公式)

②高齢者や障がい者の避難

――周りに高齢者や障がいのある方がいる場合、どのようなことに気をつけるべきでしょうか?
「ご高齢の方や障がいのある方の状況にもよりますが、寝たきりの方を自宅で介護している場合には、早めの避難を最優先にしてください。たとえば洪水などの災害の場合、寝たきりの方を雨の中、搬送するのは困難なので、ハザードマップを確認して浸水可能性があるエリアであれば大雨が降りそうなときにはできるだけ早く避難するようにし、もしも避難できない場合には早急に2階など浸水の可能性が低い場所に移動してください。 また、知的障がいの方であればサポートは必須ですし、車いすで生活している方も同様にサポートが必要です。事前に確認しておいたほうがよいのは、『どこに避難するのか』と『サポートしてくれる人たち』の情報です。」
――『サポートしてくれる人たち』というのは、家族や近所の方たちということでしょうか?
「家族が身近にいるなら『みんなで逃げよう』というのが一番よいと思いますが、今は親戚付き合いやご近所付き合いのない方も多くいらっしゃいます。また地域の中で、どこに高齢の方や障がいのある方などの『災害弱者』になりそうな方がいるかを把握しておくことは大切ですが、特に都会ではそもそもそうしたコミュニティが、なかなか形成されないケースが増えてきています。また、地方でも家族の住まいが離れていたり、コミュニティがあっても老々介護のような状況になっている場合もあるので、必ずしも地域のコミュニティでなくてもよいと思います。 たとえば、介護サービス。災害が起きそうなときにデイサービスと同様に家をまわって、普段から顔の知っている介護士さんなどが声かけしてくれれば、知らない人に言われるよりも早めの避難ができるかもしれません。そうしたさまざまなコミュニティとうまく連携することで、高齢者や障がいのある方がスムーズに避難できるようになるのではないかと思っています。」

備えあれば憂いなし。突然の災害に対応するために

――自然災害が起きる前に、心がけておくべきことはありますか?
きちんと知っておいてほしいのは、『自然災害は自分の身にも起こりうる』ということ。それも、普段はさまざまなインフラに守られているけれども、想定以上のことが起こる可能性があることを知ってほしいと思います。日本の河川には当たり前に堤防があって、ダムがあって普段は洪水を防いでいてくれます。建物も強くそう簡単には倒壊しないし、海岸でも少しの高波で海から波が陸地まで来ることはありません。 しかし、私たちを守ってくれるインフラは、一定の基準をもってつくられています。つまり、その基準を超える災害が起きたとき、インフラによる守りは崩されてしまうのです。自分の生活がすべて完璧に守られているわけではないことを理解したうえで、災害への準備をしていきましょう。そうして普段から災害が起こることを想定し、準備しておくことで、被害を最小限におさえることができるようになるはずです。」

<参考動画>


引用:フィクションドキュメンタリー「荒川氾濫」H29.3 改訂版/arakawakaryukasen
 

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