「鉄道? う~ん…」
素直な気持ちをぶつけ、JRに入社
機械を整備し社会基盤を支える
東海旅客鉄道株式会社
Shoichiro Kato加藤 正市朗さん
地元にUターン就職するために漠然と公務員を考えていました。しかし、小さいころから物をつくるのが好きで専攻した機械工学を活かしたく、大学の企業説明会や地元の静岡県内で開催された企業説明会に参加しました。説明会で、出身高校のすぐ近くにJR東海の静岡車両区があることを知ったのが、入社のきっかけです。
面接では本音を話すあまり、「鉄道は好きですか?」と聞かれたときに思わず「う~ん・・・あまり好きじゃないほうかもしれません」と返してしまいました。運行ダイヤや乗り継ぎなど必ずしも便利ではないし、現状が手放しで良いとは言えない。しかし、人々の生活に与える影響力がとても大きいのが鉄道だと正直に答えたのです。その客観的な考えがかえって評価していただけたようで、最終的にご縁をいただきました。
研修センターで2か月間学んだ後、実際の工場で車両の構造や整備の実技を学ぶ研修をさらに2か月受け、その後、静岡車両区に配属されました。
車両の検査は、1週間に1度、主要部分を動かして点検する「仕業検査」、3か月に1度、主要な部品の点検を入念に行う「交番検査」、4年に1度、動力装置やブレーキなどの重要部分を分解して行う「重要部検査」、8年に1度、パンダグラフや車輪など車両の主要部分を取り外して念入りに行う「全般検査」の4段階があります。重要部検査と全般検査は自社以外の車両点検も受託しており、滅多に見ない路線の車両が入場してくると、車両の仕様が異なるため点検は大変ですが会社による設計思想の違いを見ることができるのでワクワクします。
最初に交番検査を任されたときはしっかりとカバーのネジがしまっているかが不安で、祈るような気持ちで車両を送り出しました。約120km/hものスピードで走行するなか、数kgの重い車両部品が外れてでもしたら大変なことになります。全般検査のように大掛かりな検査の場合は試運転を行いますが、交番検査はそのまま通常の運転に使われるため、緊張しました。
事故や不具合などで運行中に緊急停止した車両はその場で点検を行います。すばやく異常を見極め、お客様もいる場で最適な判断をしなければなりません。焦ると作業ミスにつながりますので、常に平常心を保つことが重要です。鉄道はお客様の命を預かる仕事だと身が引き締まります。
5年目になった2021年7月からは内勤になり、メンテナンスを行う作業者の安全配慮に関する仕事をしています。安全な車両は安全な現場からつくられます。現場の意見を引き出すため、月に1回アンケート調査を行って作業上の課題に対する意見を集約します。現場に出向き作業者との会話から情報を得たり、実際の点検の様子を確認したりしています。今では現場の方々との交流もずいぶん増えてきました。
現場から出された意見を踏まえ、優先度と作業効率や予算を考慮して最適解を探します。現場に出ていた経験があるため、作業者の気持ちも分かり、なんとか予算の範囲内でできることはないかと工夫しています。例えば車庫全体を冷暖房するのは無理でも、服装で不快さを軽減できないかと作業服の素材をメーカーと相談しながら開発するなどしています。
車両のメンテナンスは常にお客様を安全にお運びすることを意識して作業しています。これまでの業務経験を活かして、後輩たちへ車両の検査の重さを伝えていきたいと思い、安全と責任を伝える教育・育成にも力を入れています。
私は自分から話すのが苦手で、黙っていると初対面の人に取っ掛かりにくい印象を与えがちです。このため、できるだけ自分の方から話しかけるよう心がけています。世間話などを行い、相手に心を開いてもらってから本題に入るように雰囲気づくりを大切にしています。
自分の気持ちを先にオープンにすることが、お互いの本音を出し合い、良い関係を引き寄せるコツです。