INTERVIEWEE
鏡 優翔
KAGAMI Yuka
東洋大学 社会学部メディアコミュニケーション学科 卒業
東洋大学 総合情報学研究科 総合情報学専攻 博士前期課程1年
サントリービバレッジソリューション株式会社所属
松下 知之
MATSUSHITA Tomoyuki
東洋大学 国際観光学部国際観光学科 1年
オリンピックを誰よりも楽しむ!アスリートが描く勝利へのプロセス
――鏡選手、松下選手、パリオリンピックでのメダル獲得おめでとうございます。夢に見たオリンピックの舞台はいかがでしたか。
鏡 小学校の頃から目指していたオリンピック。練習が辛い時もありましたが、苦しい過程を乗り越えた人にしか立てない大舞台であると感じた時、緊張は喜びに代わり、自然と笑顔になれました。せっかくの機会を楽しんだもの勝ちだと考え、1試合1試合勝つたびに大げさに喜び、自分自身を盛り上げようと振舞っていましたね。
松下 私も小学生の時に水泳を始めてからずっと夢見ていたオリンピックの舞台に立てる日をとても楽しみにしていました。オリンピックを思いっきり楽しむために、最大限の努力を積んで臨もうと思っていたので、最後まで妥協せずに練習しました。実際、5月ごろに一足早くヨーロッパ入りし、そこからオリンピックに向けて猛練習していたので、自信を持って本番に臨めましたし、正直あまり緊張はしていませんでした。
――メダル獲得に対するプレッシャーはありましたか。
鏡 私は誰も成し遂げたことのない記録に惹かれて、ずっと76kg級の金メダルを“目標”にしてきました。メディアでも「金メダルを獲る」と発信するなど自分自身に対してあえてプレッシャーをかけていましたが、周りからのプレッシャーは感じなかったですね。また、オリンピックは家族が現地まで応援に来てくれていました。私は人のために力を発揮できるタイプなので、家族の応援をプレッシャーに感じることはなく、勇姿を見せたいという気持ちがパワーになりました。
松下 私もメダルを獲りたいという気持ちはずっと持っていました。もともと大舞台は得意な方ですし、誰よりも練習してきたという自信もあり、あまりプレッシャーは感じていませんでした。「あとは楽しむだけだ」と覚悟が決まり、世界のトップ選手と戦えることに胸が高鳴っていましたね。
鏡 やはり楽しむことが勝利につながっていると感じます。優勝した瞬間はあまり実感がなく、「本当に金メダルを獲ったのか」と戸惑いの気持ちもありました。その後の周囲の歓声で、オリンピックで優勝したことを心から実感しましたね。その後、プロ野球の始球式に呼んでいただけたり、写真を撮ってくださいとお願いされる立場になったりと、「叶ったらいいな」と漠然と描いていた“夢”が現実になりました。
どうすれば限界を超えられる?ポジティブに、自分を信じ抜くことが壁を乗り越える秘訣
――パリオリンピック前、壁にぶつかることはありましたか?
松下 ヨーロッパ入りしてからのハードな練習が大きな壁でした。1日に15km泳ぐ日もあり、立ち眩みで倒れることがあったほどです。
鏡 私もハードな練習には参りました。低酸素室でバイクを漕ぐトレーニングでは、距離や回転数が記録されるので気が抜けず、倒れるまで自分を追い込んでいました。
松下 鏡選手も大変な練習を乗り越えていたんですね。肉体的な疲労もありましたが、精神的な辛さもありました。周りの選手が練習量を落として本番に向けて調整し始める段階でも、私はまだ追い込みのトレーニングが続いていたので、周りとのギャップを感じて焦りましたね。
鏡 精神面で言うと、私は2023年の世界選手権で優勝した際に、一度燃え尽きてしまったんです。これ以上自分のレスリングに成長するところはあるのかと悩みました。また、オリンピック予選以降、何度か大きな怪我に見舞われ、手術や長期間のリハビリが必要でした。思うように練習できない期間が続き、やっとレスリングができるようになったのはオリンピック1カ月前。本番が近づけば近づくほど自分のレスリングに納得がいかなくなり、落ち込みましたね。
――お二人はその壁をどのように乗り越えたのですか?
松下 メダル獲得という目標が自分の中ではっきりしていたので、それを達成するために必要なことを考えて、ハードな練習を乗り切りました。怪我をしないように、練習後のケアにも普段以上に時間をかけていましたね。鏡選手はどのようにモチベーションを取り戻したのですか?
鏡 世界選手権優勝後、コーチからはまだ50%の完成度だと言われました。まだまだ伸びしろがあると分かり、新しい自分のレスリングの発見につながりました。
松下 なるほど。私も監督やコーチのことを信じて練習を続けてきた一方で、精神面では「自分を信じる」ことを大切にしていました。周りは周り、自分は自分と考え、信念を貫くことで自分のすべきことが明確になり、精神的に安定しました。
鏡 私がうまくメンタルをコントロールできるようになったのは、大学生になってからでした。もともとポジティブな方ではありませんでしたが、自分の性格を分析して「ポジティブに考える自分」を作り上げてきました。決してネガティブが悪いわけではありませんが、私にはそれが合っていたようです。そのため、怪我は「自分にとって必然な出来事」だと捉えるようになりました。平等に与えられた時間の中で、後悔する時間がもったいないですから。怪我は鍛えが足りないという教えだと考えるようにして、怪我をしていない箇所の練習を重点的に行ったことで、オリンピック前に練習が足りないという焦りや怖さはありませんでした。
今の自分を肯定する。アスリート・メダリストがオリンピックを通じて得られた、精神的な成長
――オリンピックでメダルを獲ったことで、自分の中で変化はありましたか。
鏡 自分の“選択”に自信が持てるようになったと感じます。人生は選択の連続です。練習時間と遊ぶ時間を天秤にかけた時、「練習のために遊ぶ時間を犠牲にした」と考える人もいるかもしれませんが、私は「強くなりたいから遊ぶ時間よりも練習を選択した」と捉えています。中学生の時に地元を離れて東京に転校するなど、時には辛い選択もありましたが、そうした選択を積み重ねてきたからこそ今の自分があります。これまでの選択が正しかったかどうかは、結果が出るまで分かりません。パリオリンピックで優勝したことで、自分の選択が間違っていなかったと証明することができました。
松下 私はオリンピックを通して、精神的にとても成長できました。肉体的な変化や競技力の向上が自己ベストにつながったのはもちろんですが、精神面もメダル獲得に大きく影響したと思っています。海外で試合や練習を重ねる中で、調子の良し悪しに関わらず、良いパフォーマンスをする方法を常に考えていました。その結果、自分のコンディションを正確に把握して、臨機応変に対応できる修正力が身に付きました。決勝当日も自分のコンディションを把握し、落ち着いて調整できたからこそ、自己ベストを更新できました。
――これから挑戦したいことはありますか。
鏡 私は少しだけレスリングを離れ、今までできなかったことをしています。例えば、ネイルをしてみたり、旅行に行ってみたり。オリンピックの金メダリストという立場も活かして、何か貢献できることはないか考えています。
松下 私は世界大会に向けて、さらに高みを目指します。自分を信じて努力すれば、良い結果がついてくることをオリンピックで実感しました。自己ベストを出せた一方で、個人的にはまだ100点満点ではなく、さらに良いタイムを出せると考えています。世界のトップ選手に追いつけるよう、まずはこの1年を大切にして、自己ベストの更新を目指していきます。
鏡 準優勝後すぐに世界大会を見据えて練習に励んでいるのですね。松下選手なら必ず自己ベストを塗り替えられると信じています。頑張ってください!
松下 お互いに頑張りましょう!