INDEX

  1. 趣味からフォトグラファーの道へ。受賞作品から見るプロの視点
  2. 人物写真は難しい?カメラが趣味なら知っておきたい、撮影のコツを聞いてみた
  3. 初心者におすすめの撮り方とは?写真を趣味にして、美しい一瞬を残そう

INTERVIEWEE

日野 拳吾

HINO Kengo

2014年 東洋大学 社会学部メディアコミュニケーション学科卒業
フォトグラファー
1992年広島県生まれ。東洋大学卒業後、大手住宅設備メーカーに入社し営業として勤務する傍ら、建築や広告のフォトグラファーとして活動。2018年にフォトグラファーとして独立。アシスタントとしてクロカワリュート氏、須田卓馬氏、専属アシスタントとして青山裕氏に師事。2022年、APA(公益社団法人日本広告写真家協会)が主催するアワードにて準グランプリとなるAPA特選賞を受賞。
日野拳吾 ホームページ/SNS

〈撮影協力〉
渡邉さん
東洋大学 国際学部国際地域学科
一色さん
東洋大学 法学部法律学科
松下さん
東洋大学 国際学部国際地域学科

趣味からフォトグラファーの道へ。受賞作品から見るプロの視点


APA AWARD 2023特選賞受賞作品:『Self-awareness』©日野拳吾


――まずは、フォトグラファーになろうと思われたきっかけを教えてください。

東洋大学在学中、ちょうどスマートフォンが普及し始めました。誰もが気軽にきれいな写真を撮影できるようになり、SNSも流行し出しましたね。私自身も写真の魅力に引き込まれ、一眼レフカメラを購入。所属していた旅行サークルでは、いつのまにかカメラ担当としていろいろな場面を撮影するようになっていました。大学卒業後、住宅設備メーカーの営業として富山県に配属され、近くに友人がいなかったため、一人でもできる趣味としてカメラで風景撮影を楽しんでいました。その趣味がきっかけで、取引先である工務店やハウスメーカーの方から、家や家族写真の撮影を依頼されるように。自分の写真で多くの人に喜んでもらえたことが印象に残っていました。その後、結婚を機に転職することになり、家族の後押しもあって、フォトグラファーになる決意をしました。

――日野さんは、上記の写真でAPA特選賞を受賞されました。APA特選賞に選ばれた写真のポイントについて教えてください。

写真には、目の前で起きている事象を切り取る「スナップ」と、被写体や場所、衣装などを自分たちで決めて撮影する「セットアップ」の2種類があります。受賞した写真はスナップに当たり、偶然性の高い作品です。私は仕事用のカメラとは別に、日常の風景を撮影するプライベート用のカメラをいつも持ち歩いています。好きなことを仕事にしても飽きずに楽しみ続けるための私なりの工夫です。ある日、公園の丘の上で楽しそうに遊ぶ子どもたちの姿に惹かれ、思わずシャッターを切りました。帰ってから改めて写真を見返して驚いたのは、中央に笑顔の女の子が写っていたことです。カメラを構えた時の私は、その子の存在に気付いておらず、きっと私が写真を撮っているのに気付いて、一瞬だけポーズを取ってすぐにいなくなったのだと思います。この写真が、なぜか私の頭の中にずっと引っかかっていました。APA AWARDに応募するに当たり、「私の写真」という募集テーマの解釈に悩んでいた時、この写真がパッと思い浮かびました。自分は女の子のことを撮ろうとしていなかったのに、女の子からは自分のことがはっきりと見えている。写真は自分を映し出す鏡などと言われていますが、まさにこの写真には「自分」が女の子を通して写し出されているようだったからです。“自己認識”を意味する『Self-awareness』というタイトルをつけて応募したところ、準グランプリとなるAPA特選賞を頂きました。APA AWARDは作品の背景情報などを伝えられず、タイトルと写真だけで審査される公募展なのですが、審査員の方にも私の意図が通じたからこそ受賞できたのだと思います。
 

人物写真は難しい?カメラが趣味なら知っておきたい、撮影のコツを聞いてみた



――ポートレート撮影をする際、どのような点を大切にしていますか。


ポートレート写真、つまり人を被写体とする撮影では、コミュニケーションを重視しています。師匠から「写真を撮ることは、コミュニケーションであり、人を知ることでもある」と教わり、私もこれまでの経験を通じてその教えを確信するようになりました。人には普段表に出さない内面がありますよね。例えば、私は人見知りなのですが、そう見えないと言われることが多いです。そんな風に、写真を通すと言葉や風貌だけでは分からない一面に触れられる点がとても魅力的だと感じます。心が通じ合った状態で見えてくるその人の魅力や空気感を撮影することが楽しく、それがポートレート撮影において大切なことだと思っています。

――今回は、白山キャンパスで本学学生のポートレート撮影をしていただきました。それぞれの写真について、ポイントを教えてください。

今回の撮影でも、被写体となる学生さんのお名前や写真を事前に教えていただきました。雑談をしながら緊張をほぐすことはもちろん、私が写り方を実践して見せたり、撮った写真を見せたりすることで、不安を取り除いて撮影自体を楽しんでいただけるように心がけました。それでは、それぞれの写真のポイントを解説します。



✓何かに触れてリラックスする
秋の優しい光を活かした温かい写真にしたいと思い、雰囲気に合う松下さんに被写体をお願いしました。人は何かに触れたり、体重を預けていたりするとリラックスしやすいので、今回は階段の手すりに手を添えてもらい、会話をしながら柔らかい表情を引き出しました。
キリッとした表情の場合でも、被写体が緊張しているのかリラックスしているのかは写真に現れるので、所作や指示、会話などでリラックスしてもらうことが重要になります。



✓半逆光で撮影する
太陽の位置(光の向き)によって、写真の印象は大きく変わります。逆光は被写体が影で暗くなり、順光は太陽がまぶしくて目を開けづらくなります。そこで、斜めから太陽の光を受ける「半逆光」で撮影するのがおすすめです。顔に当たる光がちょうどいいバランスになり、簡単にきれいな写真を撮影できます。被写体である渡邉さんは活力あふれる女性だったので、振り返る仕草や表情、髪の動きなどで彼女のキャラクターを表現したいと考えました。



✓色をそろえる
被写体である一色さんの服の色とカーペットの色が合うと思い、この場所を選びました。色味をそろえることでまとまりが生まれ、写真全体の雰囲気がとても良くなります。ロールカーテンから漏れる夕方の穏やかな光が、一色さんの優しい雰囲気にぴったりでした。柔らかい光には、肌をきれいに見せる効果もあります。撮影中は、一色さんの彼女について話していました。やはり、パートナーのことを考えている時は良い表情になることが多いですね。



✓遠近感を意識する
ここは思わずカメラを向けたくなる面白い通路でした。長い通路では、正面ではなく少し斜めから撮影すると奥行きを出せます。神社の参道などで撮影する際にも使える考え方ですね。渡邉さんには光の方向に顔を向けてもらい、顔を明るくすることで、人を引き立たせることを意識しました。



✓逆光で包み込む
逆光で撮影すると、被写体は影になる一方で、ふんわりとした雰囲気の写真になります。柔らかい光に包み込まれるようなイメージで撮影しました。松下さんは静かなタイプの女性だと感じたので物憂げな表情をリクエストしました。ポーズや表情を作ってもらう時に意識するのは、「その人に合わないことはしない」こと。合わないことをさせられると、人は恥ずかしくなってしまって、写真にもそれが表れます。その人が自然体でいられる写真を撮りたいと思っています。



✓スマートフォンで広めに撮影する
きれいに並んだ柱や空の抜け感が良いと思い、この場所を選びました。実は、この写真はスマートフォンで撮影しました。スマートフォンのカメラの方がこの時携えていた一眼レフカメラのレンズよりも画角が広く、空間や後ろの校舎の「東洋大学」の文字をしっかりと写せると考えたからです。学生さん3人が並んで話しているシルエットを強調して撮影し、「大学で友だちと過ごす時間」を切り取りました。
 

初心者におすすめの撮り方とは?写真を趣味にして、美しい一瞬を残そう



――写真初心者は、どのような点に気を付けるとうまく写真が撮れますか?


スマートフォンで撮影する際は、被写体を画面の中央に配置してください。スマートフォンのレンズは広角なので、被写体を画面の端に配置すると広がって写ります。そのため、顔が端にあると大きく写ってしまいますし、逆に足が端にあると長く見える効果もあります。また、少しの手間ですが、レンズをきれいにすることも大切です。レンズが曇っていると、特に室内や夜の写真を撮影する際は色が悪くなってしまいます。ただ、私はわざとレンズに指紋をつけることもあります。そうすると、ふわっと幻想的な雰囲気の写真になるからです。少し難しいテクニックとして、「前中後」を意識するとおしゃれな写真になります。被写体の手前や奥に何かを写し込み、要素が3つ並んだ構図にすると、バランスの良い写真が撮れますよ。

このようなテクニックも意識して、写真初心者の方にはたくさん写真を撮ってほしいですね。写真が趣味になると、普段何気なく見過ごしていたものが新鮮に感じられるようになります。空の美しさに気付いたり、何でもなかった風景が面白く見えたり。「次は何を撮ろうか」と考え始めると、視点が変わって日常の中にある美しさを見つける楽しさを味わえるようになります。虹や夕焼けのような分かりやすく美しいものだけでなく、朝カーテンから漏れる光や空気が澄んで遠くまできれいに見える空など、写真の知識があるからこそ気付ける美しい場面があります。感性で物事を捉えられるようになると、何をしていても楽しくなりますよ。

――写真には、どのような力があると考えますか。

私は写真にしかできないことが3つあると考えています。1つ目は一瞬で情報が伝わること。映像は初めから終わりまで見てようやく伝わりますが、写真は一瞬にすべてを詰め込みます。パッと見て人の心を動かす、その一瞬のコミュニケーションは写真にしかない力です。2つ目は、想像の余地を生むことです。映像は時間や音などの情報が多いために鑑賞者の解釈が限定されがちですが、写真は見る人によって解釈が異なります。見せる側も見る側も楽しめる、自由度の高さや奥深さが魅力です。3つ目は真実性です。近年AIの技術が進歩してきたことで、広告写真などで“誰でも良いが人の顔が欲しい”場合は、AIで生成された画像に置き換わっていくと思います。ただ、写っているものや人が真実でなければいけない場合もあります。例えば、写真集はその本人でなければ意味がありませんよね。写真に写ったものが真実であるという当たり前の事実が、AIが発達した現代ではますます重要になってくるのです。
 

この記事をSNSでシェアする