INDEX

  1. 著作権を徹底解説。「何のために」「どんなものが」あるのかを知る
  2. レコード(CD)には3つの権利が関わっている
  3. インターネットの発展と著作権法の関係とは

INTERVIEWEE

安藤 和宏

ANDO Kazuhiro

法学部法律学科 教授
博士(法学)。専門分野は知的財産法、音楽著作権ビジネス。高校教諭、音楽出版社の日音、キティミュージック、ポリグラムミュージックジャパン、セプティマ・レイ、北海道大学大学院法学研究科特任教授を経て、現在は東洋大学法学部教授。著書に『よくわかる音楽著作権ビジネス 基礎編 5th Edition』、『よくわかる音楽著作権ビジネス 実践編 5th Edition』(共に株式会社リットーミュージック)など。

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著作権を徹底解説。「何のために」「どんなものが」あるのかを知る



――そもそも、「著作権」とはどのようなものなのでしょうか。

音楽をはじめ、小説や絵画、写真などの著作物、つまり思想や感情を創作的に表現したものに対して与えられる権利のことを指します。単なるデータは「思想や感情」を表現したものではないことから著作物には該当しませんし、学問的な理論そのものについても、アイデアであって表現ではないことから、著作物には当てはまらないとされています。

著作権は文化の発展を促進するための手段として、著作者に付与される権利です。そして、他人の著作物を無断で利用する一定の行為を著作権侵害として著作権法で定めています。

――「著作権侵害」と言うと、具体的にはどのようなものが挙げられるのでしょうか。

「著作権侵害」=「他人の著作物を勝手に利用すること」と考える方が多いと思います。ですが、他人の著作物を勝手に利用することがすべて著作権侵害とは限りません。その考え方に基づくと、例えばレポートの作成のために図書館で借りた本の一部をコピーしたり、友人から借りたCDを自分のパソコンに取り込んで音楽を聴いたりすることも他人の著作物を利用する行為なので「著作権侵害」になってしまいますよね。

――確かに、友人同士で本や雑誌を貸し借りすることも違反になってしまいますね。

小さいころにお友達同士で漫画を回し読みした方も多いと思いますが、著作権侵害で訴えられた人はいないと思います(笑)。

というのも、著作権侵害とされているのは、著作物の「拡布行為」だからです。拡布行為とは、端的に言うと「広める」行為のことを指します。著作権法は、公衆に向けて著作物を権利者の許諾なく広めることを禁止しています。ですので、コンサートやライブで著作権者の許可を取らずに楽曲を演奏することや、自分のブログで他人が撮影した写真をそのまま掲載することは拡布行為として著作権侵害となるのです。

ここで勘のいい読者の方は「他人の著作物を複製する行為は、拡布行為ではないのになぜ禁止されているのか」と思うでしょう。その理由は、複製は拡布の準備行為に当たるからです。海賊本を目の前で1万冊作成されているのに、「海賊本を作るのをやめなさい」と言えないのはおかしいでしょう。

一方、友人から借りたCDをパソコンにコピーするのは、拡布の準備行為ではないので、著作権法では禁止されていません。つまり、私的に使用するための複製であれば、権利者の経済的利益を不当に害しないため、著作権侵害にはならないのです。ただし、ネット上に無断でアップロードされた漫画や書籍、音楽、映画等を違法と知りながらダウンロードする行為は、私的に使用する目的であっても著作権侵害となりますので、注意してください。 

さて、複製行為や拡布行為の中でも、一定の条件の下に自由利用が許されているケースもあります。例えば、大学の授業で使用するために、他人の著作物を掲載した資料を印刷して、履修者に配布したり、文学作品を朗読したりすることなどが当てはまります。また、大学の図書館で書籍や雑誌を学生のみなさんに貸し出していますね。文化祭で学生が音楽を演奏したり、演劇を上演したりしますが、観客から料金を取らず、学生自身も無報酬であれば、権利侵害にはなりません。最近は大学でオンライン授業が増えていますが、著作権法を改正して、事前に授業で使用する教材をインターネットで履修者に送信することもできるようになりました。

――なるほど。著作物の利用行為のうち、法律で禁止されている行為だけが「著作権侵害」になるのですね。

その通りです。原則として、他人の著作物を無断で公衆に広める行為が著作権侵害になると気をつけていただければ、権利者から訴えられることはまずないと思います。

レコード(CD)には3つの権利が関わっている



――先生のご専門である音楽著作権ですが、レコード(CD)にはどのような権利が関わっているのでしょうか。

レコード(CD)には、楽曲の権利、歌唱・演奏の権利、音(原盤)の権利が関わっています。なので、法律的には少し複雑です。

まず、楽曲の権利についてお話しましょう。日本国内でCDまた配信楽曲として販売された楽曲のほとんどは、JASRAC(ジャスラック)やNexTone(ネクストーン)といった著作権管理事業者が楽曲の権利を管理しています。例えば、あるイベントでAという楽曲を演奏することになった場合は、これらの著作権管理事業者が楽曲Aの権利を管理しているかを事業者のWebサイト等で確認し、「楽曲を使用します」という申請をし、使用料を納めなければなりません。

YouTube、Instagram、TikTok、FacebookといったSNSで楽曲を使用する場合、拡布行為に当たりますので、楽曲の権利者から許諾をもらわなければなりません。ただし、JASRACやNexToneはYouTubeやInstagram、TikTok、Facebookの運営者と包括許諾契約を締結しています。なので、これらの動画投稿サイトでJASRACまたはNexToneの管理楽曲をアップロードする場合、ユーザーが楽曲の権利者から許諾をもらう必要はありません。それぞれのSNSでは日々多くのユーザーがさまざまな曲を使用しますよね。これらを投稿するたびに逐一申請してもらうことは難しいですし、管理事業者もすべてを確認することはできないでしょう。そのため、JASRACやNextoneは「サイト全体に対して、管理している楽曲の使用を許可します」という契約をこれらのSNS運営者と結んでいるのです。ですので、SNS運営者がSNSサービスにおける楽曲使用の許可を得ていれば、自由に楽曲を使った投稿ができます。

難しい話をしましたが、SNS上で楽曲を使用したり、演奏動画をアップロードしたりする場合に確認しべきことは次の2点です。

第一に、「使用する楽曲が、どの著作権管理事業者が管理しているのか」ということ。これは、イベントなどでの使用と同じく、JASRACNextoneのWebサイトで確認をしましょう。 たまにJASRACやNexToneではなく、音楽出版社あるいは作詞家・作曲家が管理している楽曲があります。この場合は、直接、権利者に問い合わせて、許諾をもらわなければなりません。第二に、「楽曲をアップロードするSNSが、一つ目のステップで確認した著作権管理事業者と包括許諾契約を結んでいるのか」ということです。包括許諾契約をしている場合は、自分で申請する必要はありません。反対に、包括許諾契約をしていないときには、SNSで楽曲を使用することを著作権管理事業者に申請しなければいけません。

――近年は、若者からご年配の方まで、多くの方がSNSを利用していますよね。私自身も、よく高校生のダンス動画などを見ています。

ユーザーが増えているからこそ、著作権管理事業者が楽曲を一元的に管理することで、使用許諾の手続は非常にスムーズになったといえるでしょう。

でも、「ダンス動画」となると少し話は変わります。今お話ししたのは、あくまでも「楽曲」そのものに対する権利に関することであり、楽曲の歌唱・演奏が収録された「音」に対する権利は別に存在するのです。音楽業界では、これを原盤権といいます。ダンス動画を作成する場合、市販のCDや配信音源を利用することが多いと思います。実は、CDや配信音源を利用する場合、次の3つの権利をクリアしなければなりません。

①実演(歌唱・演奏)に対する権利
②レコード(音・原盤)に対する権利
③楽曲に対する権利

インターネット上にアップロードする動画での実演(歌唱・演奏)と音(原盤)の利用について、JASRACやNexToneのように一元的に管理している団体はありません。したがって、CDや配信音源を利用した動画をアップロードする場合、楽曲の権利者とは別に、実演(歌唱・演奏)と音(原盤)の権利者から許諾をもらわなくてはなりません。しかし、実務的には実演(歌唱・演奏)の権利は、レコード製作者に譲渡されているため、音(原盤)を使用する場合は、レコード製作者から許諾を得ることになります。

なかなか複雑ですよね。CDや配信音源を利用して動画を作成する場合には、レコード製作者から許諾をもらわないと権利侵害になってしまうおそれがあります。

――音(原盤)を使用するかしないかで、ユーザーに求められる行動も大きく変化しますね。自分だけで判断できるか、難しいようにも思えます。

著作権情報センターという公益社団法人が著作権電話相談室を設けて、著作権に関する質問を受け付けていますので、どういう場合にどのような権利処理が必要なのかを訊いてみてはいかがでしょうか。著作権の専門家が親切丁寧に答えてくれると思います。

インターネットの発展と著作権法の関係とは



――SNSに音楽を使った投稿をするだけでも、確認すべき点があることは盲点ですね。 インターネットが普及したことで、このような決まりになったということでしょうか。

もともと著作権法は、放送局やレコード会社、作詞家・作曲家等の業界関係者だけが理解していればよかった。しかし、インターネットが普及したことで、そうした業界関係者以外の一般ユーザーが広く著作物を利用し、情報を発信する時代になりました。一般ユーザーが著作物を拡布する機会が格段に増えたことで、著作権を理解する必要が出てきたのです。つまり、インターネットという便利なツールの下では全員が「拡布行為」の主体になりうるのです。そうした状況の中で、著作権法もデジタル・ネットワーク社会に対応する改正を順次行ってきました。

法律で利用を過度に制限し、押さえつけるだけでは、文化の発展の寄与するという著作権法の目的に反する結果になりかねません。そのため、違法ダウンロードの対象を拡大するなど、権利を強化する法改正もありますが、一方でデジタル・ネットワーク社会に対応するために著作物の自由利用を拡張する法改正も進められています。

例えば、動画の中の映り込みや音の入り込みです。自分が作成した動画に、たまたまキャラクターのイラストが入った洋服を着た人が通りかかったときや、近くの商店街から音楽が流れてきたときには、キャラクターや音楽に対する使用許諾の申請は不要です。これまでは写真の撮影、録音、録画に限られていましたが、改正法により、放送、生配信、スクリーンショット等、「写り込み」にかかる権利制限の対象範囲は拡大されました。インターネットという便利なメディアを使いやすくするために、法改正も進んでいます。今後もデジタル・ネットワーク会社に対応するための法改正が頻繁に行われると思います。

――確かに、「制限が多いから」と音楽の使用を諦めるよりも、正しい方法で音楽を広めるほうが、ユーザーの発信できる情報の幅も広がりますね。

最初に申し上げたように、拡布行為に気を付けていれば、普段の生活で著作権侵害になる場面はあまりありません。ただし、著作権法は年々複雑になっていきますし、音楽CDには3つの権利が絡んでいますので、音楽をはじめ著作物を扱うときには「著作物を扱うんだ」という小さなスイッチを入れてほしいですね。その意識があることで著作権侵害も防げますし、ひいては新しいテクノロジーやサービスの誕生に結び付くと私は考えています。

そして、もう一つ、音楽を利用して何かを発信したり、表現するときに持っていてほしい視点があります。それは、クリエイターや製作者の視点です。音楽業界というように、音楽ビジネスは多々ある産業の一つです。ユーザーの皆さんが正しく音楽を広めることで、音楽産業の発展につながり、ミュージシャンが新しい楽曲を作る原動力になります。「お金がないから」という理由だけで違法サイトで音楽を楽しむのではなく、適切な方法で、ポジティブに音楽を楽しんで、周囲に広めてもらいたいですね。

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