
INTERVIEWEE
菊池 良
KIKUCHI Ryo
東洋大学文学部 日本文学文化学科卒業
ライター・WEB編集者 学生時代に公開したWEBサイト「世界一即戦力な男」が注目を集め、書籍化、WEBドラマ化される。2014年に東洋大学を卒業後、Web制作を行う株式会社LIGを経て、現在はヤフー株式会社で書籍やWEBメディアの企画、ライティング、編集などを行う。著書『世界一即戦力な男』(フォレスト出版)、『もし文豪たちがカップ焼きそばの作り方を書いたら』(宝島社)ほか。
もし村上春樹が床屋に行ったら
画像:菊池良さんTwitter -こちらが、菊池さんが先日投稿された内容ですね。正直に申し上げると私は村上春樹さんの作品をあまりよく知らないのですが、なぜか『村上春樹っぽいな』と思ってしまいます(笑)。こちらはどのようなことを考えながら書かれたのか、詳しく教えていただけますか。昔のファイルを見ていたら、こんなのも出てきた。
もし村上春樹が床屋に行ったら。 pic.twitter.com/3RmRAAUaJ6 — 菊池良📚『もしそば』シリーズ15万部 (@kossetsu) 2018年2月13日
2016年の年の暮れ、あるバーバーでの出来事だ。
「分かりました。まず『2016』という数字。漢数字じゃないのが『小説っぽくないな』と思うかもしれないですが、初期の春樹はアラビア数字を使っているんですね。『1973年のピンボール』というように。それと、『バーバー』という言葉は、使いそうだなという理由ですね。現在の春樹は横文字を多用するわけではないんですが、初期のイメージが強いと思うんです。」
遠くから見ると、その男はまるで太ったたぬきのように見えた。それは愛らしいというよりも、獣特有の近寄りがたさがあった(ただし、彼を知っている人間にそのことを言うと、そんな人じゃないとみんなが口を揃えた。あるいは僕にだけそう見えていたのかもしれない)。
「この部分、これは大きな特徴なんですけど、村上春樹作品の主人公である『僕』はあまり断言しないんですよ。『~だ。あるいは、~だったかもしれない』って必ず別の可能性を示すんです。常に別の可能性を頭の中に入れているのが『僕』なんです。」「それで、今日は?」彼は回転式の椅子をこちらに向けながらそう言った。「今日はいったい?」
「そして、地の文をセリフとセリフで挟み込む。よくある書き方ですが、同語反復などをすると春樹っぽさが出るかと思います。あとは『「〜」と女は言った。』という言い回しも多いですね。」 -噛みしめるような余韻がありますね。僕は椅子に座りながら、口に出す言葉を探していた。ここに来るといつも軽い失語症になっていた。まるで初めて外に出された室内犬のように。 「うん、そうだな。これは一つの参考意見として聞いてほしいんだけど──伸びてきたから、切ってほしいんだ」「伸びてきたから、切ってほしい」
「相槌の同語反復もよく見られます。会話の主導権を握っている人間の言葉を繰り返すんですね。ここでは床屋の主人がそうなっていますが、小説では『僕』がそうなることが多い。会話の主導権を握らないのが『僕』なんです。」彼は鏡越しに「ちょっとよくわからないな」という表情を見せた。確かにそうだと思う。僕だってこんな注文をされたら困ってしまうだろう。 「それはつまり、今の状態で何センチか切ってほしいってことかな?」 「ああ」僕は頷いた。「それで合っている」
「よく『細かい確認』をするというのも特徴の一つです。あとは『頷く』。春樹作品の登場人物は作中でよく首を振ります。『海辺のカフカ』で『首を振った』とだけ書かれていたのを覚えています。」 -たしかに当たり前のことを細かく確認していますね(笑)。彼はほっぺたに左手をあてて、しばらく思案した。僕はその間、ずっと鏡の奥に見える待合スペースの本棚を見つめていた。日焼けした「課長・島耕作」を凝視しながら、彼が次の言葉を発するのをじっと待っていた。
「『待つ』のもよくありますね。登場人物が何かをただ待っている。あるいは静観している。『ねむり』では、タイトルそのままに主人公が眠気がくるのを待っています。あと、実際にある作品のタイトルを出すっていうのもよくありますね。」 ―無意識に時間の流れを感じさせるのですね。「5センチ……でいいかな」 「5センチでいい」 食い気味に言った。彼の表情が明るくなる。地図を渡された航海士のように。
「ここでも同語反復をしていますね。特徴的なので、たくさん入れました。」 ―なるほど。それにしてもなかなか髪を切り始めないですね(笑)。「もう一つだけいいかな?」彼がカットクロスを僕に付けながら聞く。「耳を出す? あるいは、出さない?」
「ここでも細かい確認が入ります。あとは、『耳』。村上春樹はなぜか耳にこだわっています。『羊をめぐる冒険』では耳専門のモデルが出てくるし、最新作の『騎士団長殺し』では、少女の耳を美しいと表現しています。」うまく言葉が出てこなかった。その選択が、いったい僕の人生にどんな影響があるというのだろう。 「それは──きみが決めてほしい」 「きみが決めてほしい」
-また2回言いましたね!そしてここでも絶対に自分で決めない…もはや固い意志すら感じます。彼は言葉を繰り返すと、じっと考え込んでしまった。再び彼が口を開くのを、僕は待っているしかない。冬眠中の熊が春を待つように。
-お願いだから髪を切ってください!(笑) 「こんなことを考えて、文体模写をやっています。」 ―作品の特徴を非常に細かく捉えているのですね。村上春樹さんの作品を読んでみたくなりました(笑)。大学時代の村上春樹との出会い

文章の面白さに気づいた少年時代

お茶づけのようなコンテンツを作りたい
