INDEX

  1. 「なりたい自分になるーー」。墨筆士・小林龍人が活動を通して伝えたいこと
  2. 書は「自己表現」のツール。“龍神書アート”で唯一無二の存在に
  3. 強い意志を持って継続すれば、いつか道は拓ける

INTERVIEWEE

小林 龍人

KOBAYASHI Ryujin

2000年 東洋大学経済学部経済学科 卒業
マーケティングリサーチ会社を30歳の誕生日に退職。路上で書を書きはじめ、表現者の道を志す。人生の師匠である故白石念舟との出逢いで精神性白川文字学を学び、作品に磨きをかける。自身のもつ感性を書に盛り込むことで、オリジナルの作品を確立。唯一無二の“墨筆士”として精力的に活動し、日本文化の素晴らしさを世界に発信すべく、ミラノやローマ、ドバイ、アブダビ、パリ、アゼルバイジャン、シャルジャなど、海外で書道ライブパフォーマンスを行う。2020年1月22日に著書『チャラリーマンだった僕が人生は宝さがしだと気づいたら、世界に羽ばたくサムライ書家になっていた。』を出版。

「なりたい自分になるーー」。墨筆士・小林龍人が活動を通して伝えたいこと


画像: 墨筆士 小林龍人(こばやし りゅうじん)さん

――まず、小林さんの学生時代について教えてください。
「実は、皆さんに語れるようなことはほとんどありません(笑)。というのも、学べる場をうまく使わずに大学時代を過ごしてしまったんです。今こうして書を書くようになって、日本文化や哲学が大好きになりましたが、当時はその魅力がわかりませんでした。」

ーー東洋大学に入ってよかったと思うことはありますか?
「ありきたりですが、仲間に恵まれたことです。別の大学に通う友人たちからもよく『人に恵まれているね』と言われたことを覚えています。

当時の友人たちとは、20年経った今でも連絡をとりあっています。企業の経営者であったり、クリエイティブな仕事をしていたり……。思い返すと、いろいろなことに興味・関心をもつ仲間が周りに多くいたんだなと思います。」

ーー卒業後から墨筆士としての活動をはじめられたのでしょうか?
「卒業後は、当時から好きだったスノーボードに関わる仕事がしたかったので、スポーツ関係の専門学校で働きました。けれど、仕事と自分のやりたいことのギャップに耐えられず、4ヶ月で辞めてしまったんです。その後も自分の興味のある分野の会社を経験し、最終的にマーケティングリサーチの会社に落ち着きました。それも30歳の誕生日に辞めてしまったんですけどね。」

ーーそのときは、やりたいことがあって会社を辞めたのですか?
「いえ、具体的な方向性はまったく決まっていませんでした。マーケティングリサーチの会社に勤めていた当時、僕が担当していた仕事がほとんどなくなってしまった時期があり、働き続けることに疑問を抱くようになりました。あのまま会社に勤め続けていれば給料はもらえていたでしょうし、それなりに安定した生活を送れていたかもしれません。

しかし、僕のなかで『若い子たちに夢を与えられるような存在になりたい』という漠然とした夢があったんです。それまで僕は、何気なく毎日を過ごしているだけで、とくにこれと言ったものを持っていませんでした。だけど、『今のままではなりたい自分にはなれない』と思い、ほぼノープランで仕事を辞めることにしました。」

――次にやることも決まっていないなか、仕事を辞めることに不安はありませんでしたか?
「もちろんありましたが、何より夢を追いかけたいという気持ちのほうが大きかったです。実際には、仕事を辞めてからも何をするかという具体的なことが決まらず、迷走していた時期もありましたが、今となっては本を出版させてもらえるようにもなり、こうしたインタビューまでしてもらえるようになって……。だから自分の過去にあまり自信のない人も、『何か強い思いを持ってやり遂げられれば、ずっと落ちこぼれじゃない。なりたい自分になれる』ということを伝えていきたいと思っています。」
   

書は「自己表現」のツール。“龍神書アート”で唯一無二の存在に

動画:【特別実演】墨筆士・小林龍人「東洋大学へ贈る一文字」パフォーマンス動画

ーー海外でのパフォーマンスなど活動拠点を広げて精力的に活動されている小林さんですが、会社を辞めてから現在のスタイルを確立するまでにはどれくらいの期間を要したのでしょうか?
「今のような『墨筆士・小林龍人』というスタイルに落ち着いたのは、今年(2019年)に入ってから。会社を辞めてから13年ほどかかりましたね。」

ーーそもそも小林さんが書を書き始めたのには、どのような経緯があったのでしょうか?
「先ほどお話ししたように、僕はノープランで会社を辞めてしまったので、最初は何をやるかを考えるところからはじめました。僕のなかで『若い子たちに夢を与える存在』というと、“講演家”や“トークライブ”などをイメージしていましたが、そういう人たちは何かしらのプロフェッショナルです。一方で、僕は何かのプロフェッショナルというわけではなく、唯一あったのが心理カウンセリングの資格。それで当時、知り合いに『その資格を生かして街でカウンセリングをしてみたら?』と言われたのをキッカケに、路上カウンセリングをはじめました。」

ーー路上で活動することに、抵抗はありませんでしたか?
「ありました。スキルもなく、仕事もないのにプライドだけは高かったので、最初は「絶対にやりたくない」と思っていました(笑)。でも、アドバイスをくれた知り合いと話していくうちに、不思議とだんだんワクワクしてきてしまって。そのとき『路上カウンセリングをやれば人生が拓けていくんじゃないか』と直感めいたものがあり、怖い気持ちもありましたが、自分を信じてはじめる決意をしました。

でも、実際にはなかなか足を止めてもらえませんでした。そこで、立ち止まってもらうためのツールとして筆を使って『書』を書きはじめたんです。カウンセリングをして、そのときに思い浮かんだ文字を相手に贈りました。そのときのポストカードは1枚1000円でしたね。」

ーー筆を握るのは20年ほどのブランクがあったそうですが、どうして書を取り入れようと思ったのでしょうか。
「小学校のときに書道を習っていたことをふと思い出して取り入れてみましたが、およそ20年ぶりに筆を握ったときはやはりブランクを感じました。でもそこから自分の書を探求していくなかで、手先だけで書くのではなく、もっと知識も深めていきたいと思うようになりました。そのために今は哲学や日本文化を学んだり、日々写経を行っています。継続することで、作品を見てくれた人に、何か伝わるものが生まれるのではないかと信じています。」

ーー最近では、書の枠を飛び越えたような特徴的な作品が多いですよね。
    


「もともと僕は少し変わった書き方をするので、他の人が書く『書』とは全然違うものだという自負はありましたが、実際はその違いに気づいてもらえないことも多かったんです。

それこそ今年に入って突然舞い込んだ大きな仕事で挫折を味わいました。そのときに、僕に代わる表現者がたくさんいることを思い知らされて、『今のままではダメだ』と思ったんです。それから自分にしかないスタイルを出していかなければいけないと焦燥感にかられ、新たなものを生み出そうという気持ちになりました。」

ーー2019年はいろいろなことがあり、変化の年だったのですね。
「そうですね。これまでの海外での実績などを糧に、新しい自分のスタイルを確立するタイミングが、2019年だったのかもしれません。僕にとっての『書』は、僕自身を表現するためのツールであって、僕という人生を楽しむためのもの。僕があえて自分で考えた肩書きである『墨筆士』と名乗るのは、“書家”や“書道家”のような既存の枠に収まりたくないからなんです。」

ーー小林さんの作品は書道というより、書をベースにした「アート」。だから書に関しても「龍神書アート」という名前をつけて呼んでいるのですね。
    

強い意志を持って継続すれば、いつか道は拓ける



ーー小林さんが作品をつくるときに心がけていることを教えてください。
「路上で書を書いていた頃、1つだけ後悔していることがあります。夜遅くに訪れたカップルへ1枚の書を贈ったのですが、自分のなかで納得していない部分があったにも関わらず、書き直さずに贈ってしまいました。そのカップルはすごく喜んで、『私に想いを込めて書いてくれた書に対して、この金額をお支払いします』と、通常1枚1000円のポストカードに1万円を支払って行ってしまいました。

そのとき、自分が100%のクオリティで渡さなかったことに対してすごく後悔したんです。その経験から、どんな仕事においても自分の満足のいく作品でなければ出すことはなくなりました。」

ーー小林さんが活動を続ける理由を教えてください。
「作品を見てもらえることはもちろん嬉しいですが、僕の一番の強みであり武器は“ずっと書道を続けてきたわけではないのに、30歳から新しい道に進んで実績を残してきた”ことだと思っています。だから、年齢や経験を理由に自分のやりたいことを諦めている人たちに、僕みたいな人間がいることを知ってもらいたいです。知ってもらえたら、前に進めずに悩んでいる人の背中を押すことができるかもしれない。でもそのためには自分の力もまだまだ足りないので、私自身も成長していく必要があります。そして成長するためには、これから先も継続していくことが何より大切です。」

ーー強い意志を持って継続しているものでも、結果が伴わなければ辞めたくなることもあると思います。そのなかで、小林さんが実行してきた“継続するための秘訣”は何ですか?
「僕がやっていたのは、今自分が辞めたいのは『やりきったから辞めたいのか?』それとも『ただ辛いから辞めたいのか?』を自分に問いかけてみることです。やりきったから辞めたのなら次に繋がると思いますが、そうでなければ次の挑戦も中途半端になってしまうでしょう。僕は過去に、中途半端に物事を辞めて後悔した経験があります。だから、そのときの自分に今辞めたいと思っている感情は、諦めていいものなのかどうかを相談することで乗り越えていました。」

ーー後悔しないためにも、継続することが大事だということですね。
「そうですね。僕は書を書くことを続けるかたわら、いろいろなものにチャレンジしました。でも、どれも全然続かなくて、結果も出なくて……。だけど不思議と書だけは諦めなかったんです。両親や大学の友人にも『そろそろ諦めたほうがいいんじゃない?』なんて言われたりもしましたが、続けてきた結果、今こうしてさまざまな活動をすることができています。

継続は結果につながるだけではなく、自分の自信にもなります。人は自信にあふれている人に惹かれるし、自信のある人に仕事を任せたいと思うのではないでしょうか。ですから自分が魅力的な人間になるためにも、まずは継続することを目標に、少しずつ前に進んでみることをお勧めします。そうして自分が強い想いをもって続けた先に、新しい道が拓けていくはずです。」
    

    

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