INDEX

  1. 5年後、10年後の『職業選択』を考える
  2. 21世紀に働くうえで必要となる能力とは?
  3. 迷ったときの職業選択の方法
  4. 『職業選択』に悩む若者たちに伝えたいこと

INTERVIEWEE

小島 貴子

KOJIMA Takako

東洋大学理工学部生体医工学科 准教授
修士(国際アドミニストレーション)。専門分野は、キャリア形成、キャリア開発、キャリアデザイン、職業選択。出産退職後、7年間の専業主婦を経て91年に埼玉県庁に職業訓練指導員として入庁。キャリアカウンセリングを学び、職業訓練生の就職支援では7年連続で就職率100%を達成。現在はキャリアカウンセラーとして、多数の企業で採用・人材育成コンサルタント、講師なども務める。著書に『就職迷子の若者たち』(集英社)、『女50歳からの100歳人生の生き方』(さくら舎)、共著に『子育てが終わらない』(青土社)などがある。

5年後、10年後の『職業選択』を考える

画像:東洋大学 理工学部 生体医工学科 小島貴子准教授

――現代の職業選択は、昔と比べてどのように変化しているのでしょうか?
「現代では、『〇〇になりたい』という目標があったとしても、5年後や10年後にその職業がなくなっている可能性があります。例えば、10年ほど前の男子小学生の就きたい職業上位は『プロサッカー選手』や『プロ野球選手』でした。しかし時代は変わり、今では『YouTuberなどのネット配信者」が1位(学研教育総合研究所『小学生白書』調べ)。約10年前にもYouTuberはいましたが、その頃はまだ職業として成り立っていませんでした。それがここ10年で、人気職業1位になるほどの変化です。

昔のように、小さな頃からの夢を追いかけたり、今ある選択肢のなかから職業を選択したりする考え方は通用しなくなってきています。もし今、なりたい職業から将来のことを考えるのであれば、まずその職業が今後どのくらい続いていくのかを考える必要があるでしょう。」

――なりたい職業を目標や夢にして、それに向けて努力するという考えから変わってきているのですね……。
「昔は『銀行員』という仕事が職業として安定していて、誰でも知っている人気の職業でした。しかし、オックスフォード大学のオズボーン博士が発表した『今後なくなる職業』の1位は「銀行の与信担当」だと言われました。これからはAIがもつビックデータのなかで大きな情報処理がおこなわれ、IoTでいろいろなものが繋がり処理されるのが更に一般的になっていくでしょう。こうした社会変化がさらに進めば、この5〜10年で人間がやる仕事は次第になくなっていくことが想定できます。実際に、ある銀行では採用人数が激減している実情があり、社会変化による影響はすでに表れはじめているのです。

そもそも職業とは、人間が自分の活動、能力の対価として報酬をもらうものですが、これからは人間にお金を払わなくても機械がやってくれるような仕事もあります。そうした社会変化の状況を把握したうえで、『人間だからこそできる仕事は何なのか』を考えていく必要があるでしょう。」
   

21世紀に働くうえで必要となる能力とは?


――社会変化に適応し、自分の望む職業選択ができるようにするためには、どのような準備をしていくべきでしょうか。 
「これまでの職業は消えるかもしれないし、残るかもしれない。あるいは、新しい職業が生まれる可能性もあります。21世紀に働くというのは、逆説的な発想をすれば、無人島に行くようなもの。ですから、21世紀の職業選択では、無人島で生き延びるために自分の知力や体力をどのように上げていけばよいのかを考えてみるのも一案です。

今ある職業に自分を合わせて目標をひとつに絞ってしまえば、それがなくなってしまったときのリスクは大きくなります。できるだけリスクを減らすためには、汎用力のある土台となる能力を備えておくことが必要なのです。」

――これから備えておいたほうがよい能力とは、具体的にどのようなものがあるのでしょうか。


①情報をキャッチアップする力

「まず仕事は、社会変化に応じて生まれます。そして今は、社会に大きな変化が起きている途中です。ですから、一番大切なのは『どんな職業になりたいか』を探すよりも、正確に社会の変化をしっかりとキャッチアップしていくことです。

例えば、今や携帯電話は“電話機能が搭載されたコンピューター”です。でも、登場した頃の周囲の認識は単なる“携帯できる電話”でした。今でこそさまざまな機能を果たす携帯電話は、その時代が求める新しい技術が加わりながらこの30年で劇的に変わったのです。だからこそ、『今ある職業も、その時代の変化にあわせて変わっていくのだ』という前提で、職業選択をしていかなければなりません。」

――情報が錯綜している現代で正しい情報をキャッチアップしていくためには、どのようにすればよいのでしょうか?
「多くの情報を分類・分析するためには、自分の頭の中で『これは本当に正しいのか?』を、5W1H(When,Why,What,Where,Who,How,)で問いを立てて考察します。この問いを立てる能力こそが、重要な情報をキャッチアップするうえで大切です。」


②自考力

「また、これからは『課題を解決する力』よりも『課題を発掘する力』が重要になっていくと考えます。解決はあくまでも手段なので、それはAIやIoTにもできる可能性があります。しかし、どこに問題があるのかを見つけたり、発想したりできるのは、思考や想像ができる人間の方が強いです。

アメリカで起きたゴールドラッシュでは、たくさんの人が金を掘り当てるために幌馬車に乗って大陸を横断しました。ところが、辿り着いたときにはすでに取り尽くされていて、多くの人は仕事が余ることになったのです。そのため、川や小川で砂金を取り出すための作業にまわることになりました。そこに目をつけて成功したのがリーバイス兄弟のジーンズ。作業でズボンが擦り切れたり、ビショビショになったりするのを目の当たりにして、幌馬車の幌で丈夫なズボンをつくったことで成功したのです。」

――目の前にある一攫千金の仕事だけを見ていたら、なかなか気づけなかった課題ですね。
「これは要するに、世の中でいうベンチャーやスタートアップの企業が持つ発想です。起業家と呼ばれている人たちのほとんどは、誰かが不便だったり、困っていたりすること、便利に豊かになることに着目し、世の中でのマイナスな部分をプラスに転じさせることができる人。『ズボンがすぐに擦り切れてしまう』と文句を言うだけで終わるのか、それともそれを課題として、よりよいものに変えることができるかどうか。21世紀以降の仕事では、こうしたマイナスのものをプラスに変えていく発想力を持つことも重要な要素です。誰かがつくった仕事に当てはめられるのではなく、自分で仕事をつくっていく時代。どんなことも仕事にできるように、自分で考える力『自考力』を養うことが大切です。

この背景には、深刻な少子化の問題が関係しています。2019年に生まれた子どもの人数は、とうとう100万人をきりました。少子化が進むことで減少する労働力を補うために副業を解禁し、ひとりが複数の仕事を重層的にこなしていくパラレルキャリアの実現に向けて進んでいるのです。」


③コミュニケーション力

「コミュニケーション力を鍛えることも重要です。ここでいうコミュニケーションとは、相手を理解し、自分を相手に理解してもらう『共感力』と『ダイバーシティ』のことで、人間が誰でも持っている偏見や決めつけ(アンコンシャス・バイアス)を低くしていくこと。それから相手を理解する力を養うためには、言語を習得することも必須になるでしょう。母国語である日本語は上手に話せなければなりませんし、世界で活躍する人材になりたいのなら、幅広く通用する英語と中国語を身につけておくのもよいと思います。そうすることで、より多くの人とコミュニケーションを交わせるようになるはずです。」


④決断力・行動力

――上記1~3の能力は、どのように身につけていくのが効果的なのでしょうか。
「それは経験の中で身につけていきます。ですから、決断力・行動力も重要となります。今、東洋大学はグローバルユニバーシティとして、たくさんの学生が海外インターンシップや海外留学に行っています。これはどこの世界でも生きていけるだけの『経験』という武器を身につけさせるための取り組みです。

海外留学や海外インターンシップでは、慣れない環境のなか、自分の思い通りにいかない経験などによって、自分に足りないものに気がつくことができます。そして、それは自分で行動して経験をしなければ気がつくことはできません。まずはそうした環境に身をおいてみて、『自分ができないことをできるようにするためにはどうすればいいのか?』を自調自考(自ら調べ、自ら考える)していくことで、自分にしかできない能力を蓄えていくのです。」
   

迷ったときの職業選択の方法


――社会の変化が著しい未来で、自分に適している職業を選択できるようにするためには、何が必要になりますか?
「もし、自分に適している職業があると仮定するなら、それは興味関心で見つけることができるかもしれません。そのため、興味関心をできるだけ広げることが重要です。子どもたちのなかにはラグビーの試合をみて、ラグビー選手を目指す子もいます。しかし、『ラグビー選手』という職業だけではなく、その周りにはどんな人たちがいるのか、どんな人たちが関わっているのか、ラグビーというビジネスは何なのかを広げて考えていくことが大切です。

私の昔の教え子に、音楽やタレントが好きな子がいましたが、『音楽家やタレントになるためには才能やセンスが関係してくるので、この業界での仕事は難しいかもしれない』と感じていました。でも、自分が身近に持っているCDのデザインや歌詞カードをみて、『誰がつくっているんだろう』という興味から印刷会社に就職しました。好きなことのど真ん中ではなくとも、俯瞰してみればどんな好きなことにも大きな広がりがあります。その気づきさえあれば、仕事として好きなことに関わることもできるのです。」

――ある程度進みたい方向性が決まっている場合は、ピンポイントで目標を決めるのではなく、自分の好きなことから派生したさまざまな仕事を視野に入れるのもひとつの方法として有効なのですね。では、自分の進むべき方向性に悩んだら、どのようにして職業を選択していけばよいのでしょうか。
「自分の進むべき道に悩んだときには、『3年後に自分がどんな生活をしたいか』を考えて、
今できることをやっていくのがよいでしょう。抽象的なようですが、これはとても大切なことです。3年後、自分が朝決まった時間に起きて、いつも同じ場所に行き、一定時間を安定的に働くのが向いている人はそうした仕事をすればいいし、決まった時間に起きたり決まった場所に行くのが苦手なら、フリーランスでできる仕事をすればいい。仕事はあくまでも生きるための手段なので、自分の理想とするライフスタイルを明確に持つことが大切です。

仕事は、みんなもしているからするのではなく、自分の生活のためにするものです。人間関係を苦痛に感じたり、集団行動に苦手を感じるなど、生活に支障が出るほどのストレスを仕事で感じるのであれば、それはできるだけ避けたほうが幸せでいられます。大切なのは、何のために仕事をするのか、その目的をできるだけ細かく明確にすること。それから、働くうえで自分のストレスにつながるような働き方を分析して整理することです。」
   

『職業選択』に悩む若者たちに伝えたいこと


――小島先生も、職業選択で悩んだ経験はありますか?
「女性の職業選択が自由になったのは明治以降だったので、それまでは職業選択の自由がありませんでした。明治以降で、女性が社会的にも経済的にも自立しているとされていた職業は、美容師と看護師と教師の3つ。このなかで一番自分に合いそうだと思ったのが教師でした。それから子どもを保育園にあずけて勉強をして教員免許を取り、公務員試験を受け公務員になったのです。

働く目的を定めるうえでは、女性の職業でもあるこれら3つの職業なら、普遍的でこれからもなくならないだろうと思い選びました。ですが、教師として働くためには教員免許が必要なので、このときに私は他の人があまりやらないことをしたのです。それが社会人になってから勉強をするという『学び直し』。平均寿命が100歳となる未来が見えているなかで、社会や環境の変化に応じて学び直しをするのです。そうして新しく得た経験は、新しい職業にフィットします。

私は18歳のときに『教師になろう』だなんて全く思っていませんでした。しかし、子どもが生まれたのをキッカケに、教育について考えるようになり教師になったのです。年齢を重ねていくと社会生活のなかで、ものの見方は変わっていきます。だからこそ、そのときに必要なものを自分で習得して、30歳を過ぎた頃に教師になる選択をしました。」

――職業選択は一度きりではなく、環境や時代に応じて変えていくこともできるのですね。最後に、職業選択に悩んでいる若者へメッセージをお願いします。
「これから21世紀に生き、そのなかで働くのであれば、必要なのは自分の経験と学習、知識です。例えば、キャンプに行ったことがある人は、キャンプ場で火を起こせます。ところが1回もキャンプの経験がない人は、段取りがわからないし、火も起こせません。経験と学習、知識をもってサバイバルをするのは、社会に出てもずっと同じ。でも、常に新しい経験をして、自分をアップデートしていけば、どんな変化にも対応できる術を身につけられます。ですから、『今』職業選択に悩んでいたとしても、経験をもとに自分をアップデートし続けることができるなら、心配はいりません。あなたが『実現したい未来』とそのためにあなたが『今できること』をしっかりと考え、まだ先の分からない21世紀をあなたらしく過ごせるよう準備をしていきましょう。」
  

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