INDEX

  1. 「社員のモチベーションが高い職場」とは?やる気を高める“組織の体制”と“周囲との関係性”
  2. モチベーション・マネジメント成功の秘訣は?士気が低下している社員の対応法

INTERVIEWEE

戸梶 亜紀彦

TOKAJI Akihiko

東洋大学 社会学部 社会心理学科 教授
社会心理学、認知科学を専門とし、感情心理学、動機付け(モチベーション)、産業・組織心理学を中心に研究。文学修士。著書に、『発達研究の技法(シリーズ・心理学の技法)』(福村出版)、『心の科学』(北大路書房)など。
 

「社員のモチベーションが高い職場」とは?やる気を高める“組織の体制”と“周囲との関係性”

画像:東洋大学社会学部社会心理学科 戸梶亜紀彦教授

──『 モチベーション・マネジメント』について詳しくお伺いします。どんな仕事でもモチベーションを高く保つことは重要だと思いますが、社員のモチベーションの低下がビジネスに与える影響にはどのようなものがあるのでしょうか?
「さまざまな要因からやる気が保てなくなると、仕事そのものに興味がなくなったり、組織に対する愛着が失われてしまったりすることが考えられます。さらに進行すれば、次第に職場へ行けなくなり、職場の同僚たちと疎遠になってしまうケースもありえるでしょう。そうなれば、退職という選択をする人も出てくるでしょうし、我慢を続けることで心身に影響を及ぼす可能性もあります。

社員のモチベーションを高く保ち続けることは、そうした危機的状況を避け、仕事をより円滑に進めるために必要不可欠です。マネジメントを行う管理者であれば、社員のモチベーションもしっかりと把握したうえでサポートを行わなければいけません。」

──そもそも社員のモチベーションが高い職場とは、どのような職場なのでしょうか?
「やはり一人ひとりのモチベーションが高い職場では、日頃から上司が社員とのコミュニケーションを積極的にとり、よい人間関係が構築できています。そして、よい人間関係が構築されている職場では、『ソーシャル・サポート』と呼ばれる“社会的な関係の中でやりとりされるさまざまな支援”が機能しているのです。ソーシャル・サポートには、『情緒的サポート』『道具的サポート』の2つを軸に、3つの分類があります。」
   
【ソーシャル・サポートの分類】

①情緒的サポート 共感、応援、励ましなどの提供によるサポート。たとえば、『仕事が忙しいときに周りの人が声をかけてくれる』『落ち込んでいるときに話を聞いてくれる』などのサポートです。
②道具的サポート ものやサービスが必要なときに受けとることができる直接的なサポートです。たとえば『ペンを忘れてしまったときに人から借りられる』『仕事の効率化のために体制を整えてくれる』などがこれに当たります。
③情報的サポート 自分が知りたいことを情報として誰かが教えてくれるというサポートです。たとえば『わからないことに対して研修を行ってくれる』『問題解決につながる助言をもらえる』ことなどがあります。 「よい人間関係が構築されている職場では、社員それぞれが上記のような直接的・間接的サポートを受けることができています。これらのサポートがすべて機能していれば、社員のモチベーションは自然と高められるでしょう。まずは、職場内でソーシャル・サポートが機能する関係性や体制をつくることがとても重要です。」


――ソーシャル・サポートが機能しているかどうかをチェックするために、上司はどのような働きかけをすればよいでしょうか?
「まずは社員と一対一で面談をする機会を持つことがもっともよいと思います。面談を一切しない企業は稀だと思いますが、導入していても半期に1度、年に1度というケースも少なくないと聞きます。まずは一人ひとりと向き合い、業務や人間関係などにどういった課題があるのかを把握することからはじめましょう。」
   

モチベーション・マネジメント成功の秘訣は?士気が低下している社員の対応法



モチベーションが低下している社員に、管理者はどのような対応を取ればよいのでしょうか?ここでは、実際の現場でモチベーション・マネジメントを生かすためのポイントをご紹介していきます。
   

■モチベーション・マネジメント/ポイント①「社員の状況把握・ヒアリング」

――モチベーションが低下している社員に対して、どのような対応をすればよいでしょうか?
「モチベーションが低下していると感じる社員がいたら、まずは声をかけて『今どのような仕事を抱えているのか』『プライベートでなにか困っていることはないか』など差し障りのない範囲でヒアリングしてみるとよいでしょう。これは人事考課としての面談ではなく、『最近どうですか?』というカジュアルな会話のイメージです。もちろんあまり踏み込みすぎるのはNGですが、その社員のバックグラウンドを少しでも把握しておくのが重要だと思います。」

――そうした社員の異変に気づくために、先生ご自身も気をつけていることはありますか?
「やはり基本的には普段から周囲の様子をよく見て、ちょっとした変化をつかむようにしているのですが、落ち込んでいたり士気が下がっていそうな人がいるときは、その人と仲のいい人に様子を聞いてみることが多いです。私はどちらかと言えば、本人に直接『どうした、最近おとなしいね』とかポンッと言ってしまうほうではあるのですが(笑)、そういう聞かれ方をするとなかなか率直に心境を言いづらい人もいるので。

あるいは、『最近あまりいいパフォーマンスが出せていないな』と感じる人がいるときにはあえて通常より難易度の高い仕事を振ってみて、そのうえでその人の様子をみることもあります。一時的にパフォーマンスが落ちるのは誰しもありますから、士気が下がっていそうな様子の社員を見たときは、それが一時的なものなのか、しばらく続きそうなものなのかを見極めるよう意識しています。」

──なるほど。しばらく続きそうなものであれば、早急にケアが必要になりますね。モチベーション・マネジメントは、とくにリーダーやマネージャーなどの管理者が個々人の状況にアンテナを張っておく必要があるのですね。
「もちろん個人差はあっても、ひとりで対応できる範囲には限界がありますから、マネジメントをする人はなるべく分担させるのが理想です。たとえばリーダーの下にサブリーダーを置くなど、なるべくさまざまな社員の情報を吸い上げるために中継点は多いほうがいい。……とはいえ、マネジメント層の人数が多くなっていくに連れて、個々人の状態が見えなくなってしまう危険性もあります。

理想をいえば、どの社員とも直接的にやりとりのできる距離感を保っておくべきです。ランチや飲み会などの非公式な場でのコミュニケーションはとくに、お互いのことを知るうえで大切な場になります。ですから、マネジメントを行う管理者の方には、そうしたコミュニケーションを定期的にとっていくことを日頃から意識してほしいですね。」
    

■モチベーション・マネジメント/ポイント②「社員の褒めてほしいポイントをおさえる」

――やはりモチベーションを高めるうえでは、『褒め方』も重要だと思います。社員を褒めるときのポイントを教えてください。
重要なのは、評価してほしいと思っているポイントは人によってさまざまだということです。たとえば、できるだけ早く・多くの量の仕事をこなせることに達成感を覚える人もいれば、正確に・期限をきっちり守って仕事ができることに達成感を覚える人もいます。私が行ってきた調査では、後者は女性社員の方に多く見られる傾向がありました。」

――男女によっても傾向に違いが出るのですね。
「その社員が、日頃から“どんなことを心がけて仕事をしているか”は、本人のパフォーマンスがなにより物語っていると思います。誰しも、自分がこだわりを持ってやってきたことが評価されれば嬉しくなり、モチベーションが上がるものです。管理者の方は、その人の褒めてほしいポイントを見抜く力を持つことが大切ですね。」

    
■モチベーション・マネジメント/ポイント③「社員の目標・役割の明確化」


──仕事へのモチベーションが低下している社員に対して、マネージャーやリーダーなどの管理者は具体的にどのような働きかけをすればよいのでしょうか?
「モチベーションが低下している原因にもよりますが、“会社のためだけでなく、本人のためになる目標をできるだけ具体的に持ってもらうよう働きかける”ことが重要です。『自分は会社の役に立っていないのではないか』『自分は会社にとっていらない存在なのではないか』とモチベーションが下がってしまうケースでは、どんな仕事においても『会社の役に立っている』ということをこまめにフィードバックする必要があります。」

──自分の役割が小さなものに思えてしまうとモチベーションが低下しやすくなるので、管理者はその人の役割や貢献度をしっかり明示してあげる必要があるのですね。
「そうですね。研究・調査の一環として、さまざまな業界で働いている方のお話を聞く機会があるのですが、ある企業で受付の電話対応をしている方は、『電話対応は誰もができる仕事ではあるけれど、電話をとるその瞬間は自分が会社を代表している』という意識を持てたことで自分の仕事の重要さに気づいたと話していました。そういった考え方を持てると、やはり仕事に対するモチベーションはグッと上がりますよね。」

──素晴らしいですね。自分の仕事が会社のなかでどういった立ち位置で、他の人からどう見えているのかは、普段なかなか意識しづらいように思います。
「そうですね。たとえば、なんらかのプロジェクトチームなどが組まれたときは、さまざまな部署から人が集まるので、他の部署の役割を知ったうえで自分の仕事を振り返る機会を持つことができます。しかし、そういった機会がなく、同じ環境での仕事が続く場合は、なかなか自分の仕事を俯瞰して見るのは難しいでしょう。ですから、普段から関わりのない他部署やコミュニティの人との交流を意識的にしてみるのもよいかもしれません。」

――そういった機会をつくることもなかなか難しいように思います。
「あるIT企業では、月に一度、他部署の人とランチに行くと会社がそのランチ代を支給してくれるルールがあるそうです。これは会社側がそういった制度をつくり、他部署との交流を促進しているわけです。普段は関わらない人と改めてコミュニケーションをとってみると、同じ会社でも実にさまざまな仕事をしている人がいることを実感させられますし、そのなかで自分の仕事の意義が改めて可視化されるよい機会になるかもしれません。やはり一部分しか見えていないと、自分の仕事のやりがいや意義に気づくのは極めて難しいのです。」

──モチベーション・マネジメントの本質は、仕事のやりがいに気づかせてあげることがもっとも重要だということでしょうか。
「そうですね。やはり、社員が自分の仕事の意味や意義を自己理解できているかが、モチベーションを保てるかどうかを左右していると思います。たとえば、営業の仕事をしている方なら、単に営業成績を上げることだけを目標にしている場合、なんのために仕事をしているのかがだんだん分からなくなってしまうかもしれません。しかし、『クライアントが本当に欲しているものはなにか』『どうすれば自分が相手にそれを提供できるのか』『自社の商品・サービスが世の中に浸透すると、社会にどのような影響を与えられるのか』などという発想を持つようにすると、1件の契約の重みはまったく変わってくるでしょう。

そのため、管理者の方は社員のモチベーションを高めるためにも、多角的な視点から社員が自分の仕事を見つめ直す機会をつくり、手助けをしてあげましょう。モチベーション・マネジメントを成功させ社員のやる気を引き出すためには、自分自身の仕事の価値を理解させることがとても大切なのだと思います。」
   

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