井上円了の教育理念

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- 動機善にして悪なる行為
十月二十五日、教育部第一科甲種(倫理科)の卒業試験がはじまり、三十一日までの一週
間にわたって行われた。事件のきっかけとなったのはこのときの倫理学の試験であった。
試験は哲学館の図書館において行われ、受験者は四名。この日試験に立ち会うために文部 試験担当の事務職員らが加わって見守る中で行われた。
省から派遣された視学官は隈本有尚と隈本繁吉の二人で、これに彼らの随行者や哲学館の
倫理学の講師は中島徳蔵であった。 彼は明治三十年に三十四歳で哲学館の講師になった。 講師として戻った。
三十三年には文部省修身教科書起草委員に任命されて、一時哲学館を離れたが、翌年再び
中島が授業で使用した教科書はミュアヘッド著、 桑木厳翼訳の『倫理学』初版であった。
ジョン・へンリー・ミュアヘッドはイギリスの新へーゲル主義の哲学者で、この本は当時
多くの学校で教科書として採用されていた。試験問題はこれに基づいて出題された。
試験終了後、隈本有尚視学官は集められた答案を見ていて、加藤三雄という学生の答え
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