井上円了の教育理念

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- ❷ 哲学館事件の発端と経過
哲学館事件は、哲学館にとってはもちろんのこと、明治三十六年の日本の社会を揺るが
した大事件であったにもかかわらず、その原因についてはいまだ不透明な部分が多い。直
接的には倫理学の試験での一学生の答案についての教師と文部省視学官との問答に端を発
しているが、間接的には官学中心主義をとる文部省の方針や、さらには日清戦争から日露
戦争に至る社会的思想的動向が背景としてあったと考えられる。ある意味では哲学館は当
時の複雑な政治的渦に巻き込まれ、一種の見せしめにされたようにも見えるのである。
この事件は井上円了個人にも、また哲学館にも大きな影響を与えたもので、詳細な検討
Ⅱ 教育理念の発展
が必要である。まず、事件発生の経過を時間を追って見ることにしよう。
卒業試験の延期
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明治三十五年(一九〇二年) 七月十四日、 哲学館では第十二回卒業証書授与式が挙行された。
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