井上円了の教育理念

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- て、彼が全国各地で行った講演は、そのまま哲学の民衆への普及活動にもなっていたので ある。それは大いに成果を上げた。
井上円了は、 明治二十六年一月に熊本県知事の依頼で、 哲学の効用について講演をした。
会場にあてられた熊本市内の大劇場につめかけた数千人の聴衆はみんな彼の二時間にわた
る熱を込めた講演に感動した。このとき第五高等学校(現在の熊本大学)教授だった内田周平
は聴衆の反応を見て、井上円了とともに喜びを分かち合ったという。
内田は、井上円了の講演や著作が女性や子供に至るまでの広範囲な人々に哲学の名を伝
える役割を果たしたことについて、その理由をつぎのように分析している。
「一番感心なのは、原語を訳しても、原語そのものを用いることがなかったことです。
Ⅰ 教育理念の形成過程
あれだけはほかの人にはできません。その時分はハイカラがってよく原語を使ったもので
すが、彼は原語を使わないし、解釈もなるべく平易に訳してありました。これは演説のと しまうのですから」
きでも変わりがありませんでした。それだけは偉いと思います。自分の腹の中で消化して
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つまり、彼はむずかしい哲学用語などを使わず、すべて自分の中で消化したものを自分
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