井上円了の教育理念

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- て、先生からいろいろと修養上のお話を承ったものである。日曜の朝八時には、先生は必
ず寄宿舎に来られて、舎生一同としんみりとお話をなされた。先生のおいでになるに先立
って、舎生一同が各自の座布団を全部重ねてお待ちしていると、先生はつかつかとその高
く重ねた座布団の上に座られ、慈父のごとき暖かいお心持ちで、いろいろと学問上、修養 しみとするところであった」
上のお話をなされた。この土曜日と日曜日の会合が、舎生一同のもっとも誇りとしかつ楽
対話の精神
茶会は人間性の育成を目的としていたが、そこには井上円了の教育の基本的な姿勢がよ
Ⅰ 教育理念の形成過程
く表れている。その基本とは、 「 対 話 」 で あ る。 彼 は 決 し て 自 分 の 考 え を 強 制 す る こ と は
なく、自分の意見を出しても、その是非については学生個人の自覚と選択に任せた。
対話の姿勢を象徴するような例がある。当時、多くの学校で学生が講義内容を不満とし
て教師排斥運動を起こしていたが、哲学館でも教育学の講義に対して不満が出て、学生が
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館主の井上円了に講義の中止を申し入れた。そこで彼は自分が学生とともにその講義に出
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