井上円了の教育理念

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- し、その具体的な方法として「寄宿舎」をつくった。
井上円了は、学生時代は社会的な拘束のない自由な時期であり、貴賤貧富にかかわらず
ど の よ う な 人 と も 交 わ れ る 時 期 で も あ る の で、 「人間一生の春」だと考えた。学生が自由
を求めて行動することに対して、学校ではさまざまな規則を設けて学生を束縛することが
一般的である。しかし、哲学館ではこのような方針をとらず、そのため寄宿舎でも細かい
規則の網を設けず、寛大なる人間性をもって対応することとした。行為に関する善悪の判 なかった。
断は学生個人の道徳心と自覚に任された。決して規則でもって「制裁」を加えることはし
この考えをさらに進めたのが寄宿舎生を対象とした「茶会」である。茶会は外遊中に見
たイギリスの家庭のだんらんにヒントを得たもので、ここで彼は学生とともに談笑したり
遊んだりして、人間性の育成に役立てようとした。茶会は明治二十二年十一月十五日から
はじめられ、当初は毎月二回であったが、その後、毎日朝夕二回開かれるようになった。
つぎの資料は後年のものであるが、土、日の茶会の雰囲気を記している。
「土曜の夜には、寄宿生は一同連れ立って井上先生のお宅に参り、八畳の座敷に円座し
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