井上円了の教育理念

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- する」と記しているが、キリスト教の食前の感謝の祈りも、彼には興味深いものと映った のであろう。
この外遊の目的の一つは、政治と宗教の関係を視察することであった。特に井上円了は
欧米におけるキリスト教の状況には関心が深かった。というのは、日本では「内地雑居問
題」が起こっていたからである。内地雑居問題というのは、欧米諸国との不平等条約改正
に絡んだもので、欧米は居留地廃止、治外法権撤廃に応じるかわりに、外国人の内地雑居
(日本国内の居住、旅行、営業等の自由) を認めるよう要求していた。仏教界にとっても、内地雑居
が行われれば、キリスト教が国内で自由に布教できることになるため、重要な問題であっ
た。この問題は明治初期から論じられていたが、井上円了が外遊から帰国する直前の明治
二十二年五月、大隈重信の条約改正案に内地雑居を認める条項が含まれていることが明ら
内地雑居が実施されたのは明治三十二年) かとなり、 大きな反対運動が起こっていた(条約が改正され、 。
井上円了はキリスト教に関するつぎのような書簡を『哲学会雑誌』に送っている。
「ヤソ教の盛衰に関しては、小生の英米旅行の際、もっともその観察に注意したるとこ
ろなるが、米国まず依然として盛んなるように見うけたれども、英国は外面のみ昔時の勢
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