井上円了の教育理念

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- 創立者の願 い
東洋大学の起源である哲学館は、哲学という学問の探求から出発した。井上円了は教育
の原点について、哲学館の茶話会でこう語っている。その願いには時代を超えて、現代に
も共鳴するものがある。 『哲窓茶話』のその文章を要約すれば、このようになる。
「人生一生のうちにおいて、その愉快なるときは、学生時代に及ぶものはない。その幸
福愉快なことは、とても言葉で表現し尽くすことはできないものである。少年の時代は前
途いよいよ長しといえども、未だに知力・意志の活動作用にとぼしければ、すべてを愉快
Ⅳ 新しい教育理念を求めて
に感じることも少ない。また、学生から数年後の壮年の時代は、家を持ち妻子を有し、家
庭をおさめ、職務をおさめ、倹約し、世間の義理をはたさねばならない。ときには心にも
なき追従をもし、意を曲げて人の鼻息をもうかがわざるを得ないこともあるのである。こ
れを思えば青年の時代こそ実に人間一生の春であるが、終身の幸不幸は、全く人生の基礎
を作るべき二十歳前後から二十七、二十八歳にいたるまでにある。すなわち青年学生中に
あるものであるから、努めなければならず、また慎まなければならない」
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